33話 サイバーデビル1

 私――万錠ウメコは、シノブ達が戦っているキンザの現場に、アイドル事務所のヘリで向かっていたわ。


 私の横で、『月影シノブのニンニンチャンネル』のアクセス解析をしていた黄泉川タマキさんから報告が上がる。


「所長!チャンネル登録者数が300万人を超えました!

 同接数は1000万人以上です!まだまだ増えてます。凄いですよ!!」


「人気の織姫ココロと、トップアイドルの紫電セツナとの戦闘配信のお陰ね。

 まあ、そのお陰でシノブとナユタ君が危険な状況なんだけれど……」


 私は焦っていたわ。

もちろん紫電セツナの桁外れの戦闘能力もあるんだけれど……。


それよりも……「何かが起こる」という胸騒ぎみたいなもので、私は焦っていたの。


 娘の私が言うのもどうかとは、思うけれど……

私達の父の万錠カナタは、正真正銘のマッドサイエンティストよ。


 だから、父が作った、

“感情エネルギー戦力転化型 戦闘Al WABISABI”

が普通の戦闘AIである筈が無いわ……。


 きっとシノブとナユタ君が危機に瀕すれば瀕する程、ヤバげな性能が首をもたげるはずよ。


私がそんな事を考えていると、タマキさんが叫んだわ。


「今、紫電セツナちゃんの雷葬が、発動しました!!

 大爆発が起こり……

 ナユタさんとセツナちゃんは相打ちになった模様です!!」


「ナユタ君のバイタルは!?」


「なんとか、一命を取り留めたようですが……

 瀕死の重症です!!」


 ここで、WABISABIから報告が入るわ。


「ナユタ様の電脳を使用するシノブ様の”エモとら“の発動準備が、整いました。

 あとはウメコ様の許可を頂ければ、シノブ様は”災婆鬼サイバーデビルモード“に移行します」


 彼女のその報告に、私は驚く。


「え!?シノブが”エモとら“を発動できるようになったの!?

 いくらなんでも早過ぎるわ!」


 WABISABIは報告を続ける。


「あくまで推測では、ございますが……

 シノブ様とナユタ様の“LP”上昇速度の高さに加えて、ナユタ様のパンツァーも一因かと存じます」


 やはり、ここでも”パンツァー“なのね。


 さらにWABISABIは続けるわ。


「戦況は、ひっ迫しております。

 ”エモとら“の使用の可否は、今直ぐにでもご判断下さい」


「“エモとら”したシノブの、その――”災婆鬼サイバーデビルモード“は、具体的にどの程度の戦力なの?」


「シノブ様とナユタ様の現在の”LP“ですと、シミュレーション以上の戦力と予測されます」


「つまりは、予測不能って事ね?」


「はい。

 あるいは、コントロール不能の可能性もございます」


 『予測不能でコントロールすら出来ない戦力って何なのよ?』……とは言わなかったけれど……こんな訳の分からない機能を搭載している父は、やはりマッドサイエンティストよね。


 でも、迷っていても仕方ないわ。私達は、信じるしかないもの。


だって……父の”私達への歪な愛“だけは本物だった筈だから……。


 だから、私はWABISABIに言うわ。


「シノブへの”エモとら“の適用を許可するわ」




―――――――――




 ”電子の枯山水”から戻り、

現実世界で目を覚ました俺は、メチャクチャに驚いていた。


 全身が真っ黒コゲで、左偽腕が無くなった自分の身体にも、もちろん驚いたが……


それよりなにより、目を覚ました瞬間に、薄着って言うか……ほぼ全裸のピンク髪の謎の美少女に抱きしめられた事に、俺はメチャクチャに驚いた。


 その薄着の美少女は、俺に抱きつき、ほぼ剥き出しの胸を、俺の顔で押し潰しながら言う。


「うれしい!!ナユタが生き返った!!」


 謎の美少女の柔らかな胸の中で俺は、言う。


ぶほっ死ぬ! ぶほっ死ぬ!!」


「あはは!喜んでる!!

 ナユタって、やっぱ、おっぱいも好きなんだ??」


 確かに俺は、尻の次に胸も好きだ……しかし、そういう事じゃない。


息が出来なくて、またしても死にそうなんだ。


良い匂いはするが、しかし、誰かよく分からない美少女の胸で圧死したくは無い。

せめて名前ぐらいは、聞いてから死にたい。


 謎の美少女は続ける。


「でも、本当に心配したんだからね?

見た感じ、どっからどう見ても”炭”って感じだったし」


 そう言いながら彼女は、俺の顔面を胸の圧迫から解放してくれた。


 そして、その謎の美少女が、俺の腰の上で馬乗りになる事で、彼女の姿がよく見えるようになった。


 蛍光グリーンのメッシュが入ったピンクのセミロングの髪。

側頭部から生える2つの水色のツノ。

燃えるような赤色の瞳。

黒に近い紺色の胸当てとふんどし

背中からは大きな黒い翼が生え、腰の周りには、なんだかよく分からない機械が浮いている。


 もしお前らが、南蛮文化に造詣が深いのであれば「ピンク髪のサキュバス風衣装」と言えば通じるだろうか?


その「サキュバス風衣装」をハイテクっぽくして、下半身をふんどしにしたのが彼女の衣装だ。


彼女の事を端的に表現するなら……「ピンク髪ハイテク和風サキュバス」と言える。


 やっと一息付けた俺は、新鮮ながらも汚いオオエドシティーの空気を肺に吸い込みながら言う。


「……誇張じゃ無く、マジで死に掛けた」


 エロ過ぎる格好の謎の美少女は言う。


「大丈夫だよ?

 WABIちゃんが一生懸命に、ナユタの怪我を治してくれてるんだし」


「いや、そこじゃない。

 俺は、君の……その胸で呼吸が出来ず、死にそうだったんだ」


 俺は彼女の、布面積少なめな胸当てを見ながら言った。多分Cカップだ。

彼女は、俺の視線に気付き、自分の胸を見て嬉しそうな顔で言う。


「気持ちよかった?

 わたしの自慢のCのおっぱい」


「そうだな。控えめに言って最高の……じゃない……いったい君は誰なんだ?」


 俺のそのセリフを聞いた彼女は、頬を膨らませて言う。


「ナユタ……笑えないよ?そんな冗談。

 わたしだよ?

 わたしは、月影シノブ。

 ナユタのアイドルの月影シノブだよ?」


「いや、そんなまさか……。

 だって、君はピンク髪で、頭の横に水色の角が生えているじゃないか。

 俺の担当アイドルの月影シノブは、薄紫色の髪で、没個性的なセミロングだ。

 それに彼女には、翼も生えてなかったし、そんなにエロい……じゃなかった……薄着じゃなかったぞ」


 彼女は笑いながら、自分の頭の横の角を触りながら言う。


「ああ。これ?ビックリした?

 でも、可愛いでしょ?

災婆鬼サイバーデビルモード”って言うらしいよ?」


 俺は、彼女のその言葉を聞いて思い出した。


そういえば……”電子の枯山水”でWABIちゃんが、言っていたような気がするな……。


確か……月影シノブが、“エモとら”して“災婆鬼サイバーデビル”になるとかって……。


 “サイバーデビル”……?


 ああ……


 って事は……


 ……この「ハイテク和風サキュバス」衣装を着てる美少女が、”エモとら“して災婆鬼サイバーデビルになった月影シノブなのか……。


 たしかに、この恰好なら”鬼”と言えなくもない。少々、煽情的過ぎるが……。

 

しかし、髪色や瞳の色まで変わるなんて……。”エモとら”って魔法か?どんな技術なんだ?訳が分からなさ過ぎる。まあ、今日の俺はずっと“訳が分から無い”んだが……。


 という感じで、俺は少しずつ状況が理解が出来てきた。


「君の、その衣装については……

なんとなく分かった気がする」


「ふふふ。じゃあさ?

どう?この衣装?

 ナユタは好き?」


 と言いながら”シノブらしき少女”は、少し前屈みになり、俺の胸の上に両手を置いた。

そのせいで、彼女の胸の谷間が、腕に圧迫されて強調される。


 完全に余談だが……俺は巨乳派では無い。デカ過ぎず良い感じのお椀型が好きだ。


そういう観点からすると、今、俺の目の前に迫るCカップの胸は、俺の理想に限りなく近かった。


春キャベツのようにツヤツヤで、まん丸だった。



 そして、その煽情的な恰好や仕草に反して、彼女の笑顔は無邪気だった。


身体つきや表情は、ほぼ大人と言って良いのだが……彼女の立ち振る舞いは、10代前半の少女のように無邪気だった。


だがしかし、その無邪気さが、俺に”危うさ”を感じさせていた。


 その”危ういシノブっぽい少女”は、自分のふんどしの前の布をヒラヒラさせながら言う。


「見て見て?ヒラヒラだよ?

 おもしろいでしょ?

 ふんどしって、わたし初めて履いたんだけど……どう?似合ってる?」


 彼女が、ふんどしの前をヒラヒラさせる度に、

一般に”鼠径部そけいぶ”と呼ばれる神聖な曲線が露わになる。

彼女の股間の僅かな布が露わになる。

 そして、そのふんどしの股間の布は、彼女の股間のセンターに食い込んでおり……

”センシティブ”を通り越して”一発アウト”な感じで、俺の腰の上で見え隠れしていた。


 な?”危うい”だろ?


 ……ていうか、このシノブらしき美少女は、いつまで俺に馬乗りになってるんだ?


”股間ヒラヒラ”に加えて……彼女の、

――出来たばかりのようなヘソとか、

――緩やかな曲線のくびれとか、

――春キャベツみたいなCカップの胸とか、


 目のやり場に困るんだが……。

 

 ていうか、彼女が月影シノブである可能性が出て来た今、余計に困るんだが……。


 確かに、一度は不覚を取ったが……月影シノブは、俺の担当アイドルだ。彼女を“そういう目”で見てはいけない。


俺は、仕事に私情を持ち込みたくないんだ。平穏無事に仕事をしたいんだ。


 しかし、そんな俺の様子を見て、彼女はイタズラっぽく笑って言う。


「ねえ?ナユタ?

 わたしの”こんな恰好”……見れて、うれしい?」


 彼女から視線を逸らす事に熱心になっていた俺は、その質問に普通に答えそうになる。


「ああ。かなり嬉しい……いや、違う!!!」


 シノブらしき少女は、さらに俺に顔を近付ける。

少女の匂いが風に乗って俺の鼻腔をなでた。

同時に、俺は下腹部への急速な血液の流入を感じる。情けないぞ!俺!何がとは、言わないが……踏みとどまれ!!


 彼女は、質問を続ける。


「ねえ?硬くなってる?」


「は、は?

 な、何のことだ?」


「ふふ。硬くなってたら、嬉しいな。

 じゃあ、さ……?

 ナユタの……触ってみても良い?」


「な、何のことだ?」


「わかるでしょ?

 ナユタが触って欲しいところだよ?」


「わ、わからん!それに、だめだ!!」


「ふふ。可愛い」


 そう言ったシノブの魔性の笑顔に、俺は不覚にもドキッとしてしまった。くそ。

違うぞ?俺はロリコンじゃないんだぞ!!


 俺は、話を変えようとしてシノブに質問をする。


「し、しかし、口調が普段と全く違うぞ?

 本当にシノブなのか?」


「もう、分かってるでしょ?」


 と言ったシノブは、俺の真っ黒の右手をそっと掴み、彼女の尻に当てた。


彼女のふんどしの尻の素肌が、俺の右手に当たった。

その肌は、夜風に当たり、少し冷ややかだったが、しかし逆に彼女の肌の細やかさが際立っていた。脈拍が急上昇し、シノブが馬乗りになっている俺の下腹部に、遂に異変が生じる。


 マズイ!!このままでは、”何か”がシノブのケツに当たる!!


 だから、俺は、必死に身じろぎをしながら言う。


「俺の右手を放してくれ!!あと、早くどいてくれ!!」


 しかし、シノブは同じ体制のまま、イタズラっぽく笑う。


「もう……わたしの股の下でモゾモゾしないでよ。

 ふふふ。

 でも……思い出した?

 ナユタってわたしのお尻が大好きだもんね?

 ナユタが私の”初めて”だったんだよ?」


「ま、紛らわしい言い方をするんじゃ無い!!」


「そう?

 でも、本当だよ?

 わたし……他の人に触られた事なんて無かったんだから……」


 そして突然、ここ数十分のうちで聞き慣れてきた”凛とした声”が聞こえて来た。


「バイクを使って……自滅覚悟の攻撃とは……

 ナユタ君……。

 君も随分と無謀な男なんだな」


 その声の方向に、俺達が視線を向けると……


 そこには”俺のバイクだった破片”が突き刺さった、紫電セツナが立っていた。


彼女の身体は、人口外皮が剥がれ、機械の骨格がところどころ露出していた。


しかし、それでもなお、紫電セツナは凛と立ち、絶世の美少女の笑顔をしていた。


まあ……胸はモロ出しで、パンツもボロボロで……

ニーハイと手甲を付けただけの”アカBANまっしぐら”の恰好なんだが……。


 それを見た月影シノブは、無邪気に笑いながら言う。


「あははは。笑える。

 ”ほぼ裸”じゃん」


 そのセリフは、今の君が言うと完全にブーメランだぞ。


……と、俺は思った。

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