30話 ナユタの作戦5
俺は紫電セツナの雷葬で灰になる直前で、彼女のパンツを見て時間を停止させた。
俺がスカートを引きちぎった事で、紫電セツナは身に付ける物がパンツと手甲とニーハイブーツだけという、「ほぼ全裸」な非常に“危険”な状態だった。
しかし俺には紫電セツナの”エロ美しい”姿を見る余裕は、全く無かった。
なぜなら紫電セツナの14本の
俺は紫電セツナの股間の「
「間一髪だった……。
目の前の【 サイドを紐で結ぶタイプの紫の
俺は0.01秒後に灰になっていた……」
―――【パンツァー起動】―――
俺は目の前に広がる”紫の紫陽花“を見ながら、考えようとした……
……が……そんな時間は無かった。
今回の時間停止は長くないはずだ!!
最後の【作戦C】だ!動かねば!!
俺は高圧電流が流れた紫電セツナの小太刀に触れないように、ゆっくり、その場から離れる。
そして直ぐに振り返り、倒れた「
「ふおおおおおお!!」
316kgの「
【 0.2秒経過 】
「ふんがあ!!」
と間抜けな声を出しながら俺は「
あとはコイツを“所定の位置”まで、動かせば良いんだが……。
【 0.4秒経過 】
だがやはり…「
「
――街頭のホログラム広告を見て、一目ぼれした瞬間……。
――自分の預金残高を確かめて、絶望した朝……。
――しかしなんとか3年ローンが通り、狂喜乱舞したあの日……。
――そして初めてのツーリングで見た、あの美しい夕日の思い出……。
しかし俺のそんな回想も空しく……俺達は無慈悲にも”目的地”に到着し……。
後は「
俺はつぶやく。
「君と過ごした日々は、俺の胸に強く刻まれている」
【 0.9秒経過 】
俺は涙を流しながら、紫電セツナの目前に置いた「
俺の胸は悲しみと、残った3年ローンでグチャグチャになって吐きそうだった。
しかしこれで【作戦C】でやる事は全部、終わった。
あとは制限時間一杯まで走り続けるだけだ。
俺は万感の思いを胸に、全速力で走り続けた。
【 1.5秒経過 】
とにかく俺は走った。
パンツァーが終了した瞬間、紫電セツナの雷葬が炸裂する。
それがどれ程の威力かは分からない。
しかし紫電セツナとどれだけ離れるかで、俺の生死が決まる。それだけは明白だった。
俺は生きて月影シノブのプロデュースをしなければならない。
死んでたまるか!!
【 1.9秒経過 】
そしてついに、無我夢中で走っている俺の心臓が「ドクン!」と大きく鼓動した。
本日三度目のパンツァー終了の合図だ。
俺は後ろを振り返り、紫電セツナを見た。
雷装の射程範囲は……20m。
そして俺と紫電セツナの今の距離は…………11m。
やれる事はやった。しかし、パンツァーの持続時間が足りなかった。
【作戦C】は、いわゆる“自爆攻撃”だった。
俺のバイクに雷葬を命中させ、紫電セツナの至近距離でバイクを爆発させる。
さらには雷葬の高圧電流による自爆も誘う。
おそらく流石の紫電セツナでも無事には済まないだろう。
しかし作戦Cは、“諸刃の刃”だ。
なぜなら俺が雷葬の射程距離から逃げなければ、俺も死ぬからだ。
そして残念な事に俺は今、紫電セツナの雷葬の射程範囲内にいる。
つまり……作戦Cでは……「俺は生き残る事が出来ない」って訳だ。
だから俺は、またしても死ぬ。
しかも今度は、灰になって死ぬ。
だからもう流石に、生き返る事は出来ないだろう。
しかしもう一つだけ……やる事は残されている。
それが上手くいかなかったら。
まあ……潔くあの世に行くだけだ。
俺は時間停止しているほぼ裸の紫電セツナを、見ながら言う。
「死ぬのは俺か、あんたか……
あるいは両方か……
”
【ジャスト2秒。時間停止終了】
―――【 パンツァー終了 】―――
全てが動き出した。
その瞬間、俺は叫ぶ。
「俺に“バフ”を掛けろっ!! WABISABIィィィイイイ!!!」
WABIちゃんの“バフ”の効果で俺の目前にシールドが張られる。
それと同時に……。
紫電セツナの雷葬が「
ガソリンタンクが引火し爆発し、ブッ飛んだパーツが紫電セツナの身体に突き刺さった。
高圧電流により感電した彼女の身体が、激しくスパークする。
同時に俺の視界は白でおおわれる。
俺のナノマシーンシールドは破れ、俺の左義腕は音も無く弾け飛んだ。
俺はその衝撃でおそらく、後ろに飛んだ。
白の世界の中で俺の全ての感覚が消失していた。
さらに強大な爆発音が聞こえた気がしたが……。
俺にはそれを知覚する事も出来なかった……。
なぜなら既に俺の意識は消え去り……あt………
……に…ha………………。
…………。
……。
―――――――
―――――
――――
【月影シノブ視点】
私は叫びました。
「ナユタさぁぁぁぁあああああん!!」
私には何が起こったのか、分かりませんでした。
私は一応……紫電セツナさんが、雷葬の為に14本の小太刀を出したところまでは理解していました。
そしてその直ぐ後にプロデューサーさんがバイクと一緒に瞬間移動し、紫電セツナさんのスカートを勢い良く引きちぎりました。
だから私は——
「あそこまでして、セツナさんのパンツを見たいなんて……
やっぱりプロデューサーさんって、美女のパンツの方が好きなんですね……。
しょせん私なんて”クマさん“ですから……」
——と紫電セツナさんの美貌とその”紫陽花柄のパンツ”に、少し嫉妬を感じました。
しかしその次の瞬間、目の前が大爆発したのです。
全く訳が分かりませんでした。
そして目も開けられない閃光の中……
相打ちになった紫電セツナさんとプロデューサーさんが、吹っ飛んでいくのを私は見ました。
だから私は反射的に叫びました。
「ナユタさん!!!!」
泣きながら私はプロデューサーさんの方に向かって走ります。
「無事でいてください!無事でいてください!!」
と祈りながら走ります。
同時に私の胸は滅茶苦茶に切り裂かれた程に、痛みました。
そしてプロデューサーさんの元に辿り着いた私は、さらに叫びます。
「ナユタさん!!
目を開けて下さい!!
ナユタさぁぁぁああん!!!!!!」
と私は大粒の涙を流しながら、真っ黒になった彼の身体を揺すります。
そうやって私は大量の涙を流しながら、やっと自分の感情に気付きました。
どうやら私はナユタさんの事が「大好き」だったみたいです。
それも……ただの「大好き」じゃなく……
私は
つまり私はこの時になって、ようやく「自分の初恋」を認識する事が出来ました。
我ながら呆れるほど、私って……「バカチン」ですね。
ナユタさんが死んでから、ようやく彼への恋心に気付くなんて……
鈍感にも程があります。
無知にも程があります。
そして自分の初恋に気付いた私は同時に、深く絶望しました。
だって……いくらなんでも酷いと思いませんか??
人生において初恋は一度キリなんですよ??
その大事な初恋に気付いた瞬間……
初恋相手は真っ黒コゲになっているんですよ??
初恋の中でも最悪のヤツじゃないですか………。
だから私は深く深く絶望しました。
その絶望はこの状況に対する絶望であり……それ以上に……自分の鈍感さ、あるいは自分の無知に対する絶望でした。
だから私は……
――ナユタさんを失った悲しみと
――初恋と
――失恋と
――人生の中で最大の絶望を
同時に味わうことになりました。
私はナユタさんを揺さぶりながら、彼の焼け焦げた着物に涙をボロボロ落とし、さらに叫びます。
「死なないで!死なないで!!死なないでぇえええ!!!」
私は絶望から
その事により彼の死を改めて実感し、より深い絶望に呑まれました。
だから私は不自由で無力な赤ちゃんみたいに、泣きじゃくりました。
深い深い絶望に胸を切り刻まれて、巨大な無力感に圧倒されて……私は泣きじゃくりました。
しかし唐突に、WABIちゃんがポップアップして言います。
「シノブ様……
シノブ様……?
シノブ様……!?」
私は号泣しながら答えます。
「ぶううぅぅぅぇぇぇえ″え″え″!!
な″ん″でずが??
WABIぢゃ″ん″??」
「非常に悲しまれているところ……申し訳ございませんが……
ナユタ様はご存命でいらっしゃいます」
「う″ぅぅぇぇえ″!!
冗″談″は″!
休″み″休″み″で!
お″ね″がい″し″ま″す″!!
う″う″ぅぅぇぇえ″!!!!」
「いえ。シノブ様。
ワタクシには冗談を言えるようなアドオンはございません。
これは『ガチ』でございます!」
「ううぅぅ…。
ぐすっ!
ガチ……なん……ですか……??」
「ええ。『ガチ』でございます」
「とすると…… ぐすっ!
プロデューサーさんは…… ひっく!
焼けすぎた餅ぐらい真っ黒ですが…… ひっく!
生きて……いるん……ですか??…… ぐすっ!」
「はい。
ナユタ様は真っ黒コゲですがご存命でいらっしゃいます。
しかし誠に遺憾ながら……。
紫電セツナ様も、戦闘継続が可能でございます」
「うううう…… ひっく!
プロデューサーさんが生きていても…… ぐすっ!
セツナさんが戦えるのなら…… ひっく!
結局は無理ゲー……じゃないですか?…… ひっく!」
「いいえ。それは……そうとも言えません。
なにしろ今のシノブ様でしたら、【切り札】の使用が可能ですから……」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃで心神喪失状態の私は、赤ちゃん言葉でWABIちゃんに聞きます。
「…え?……きりふでゅあ……?」
「はい。【切り札】でございます」
「…きりふでゅあ……って……なんなんでしゅか?」
そしてWABIちゃんは腕を広げます。
「こちらでございます」
そう言ったWABIちゃんの胸の前には――
【 エモとら :災婆鬼(サイバーデビル) 】
/// EMOtional TRAnsformation system
/// [ CYBER DEVIL ] mode
/// Ready??
――と書かれていました。
だから私は涙を拭い、WABIちゃんの胸の前のホログラムを見てつぶやきます。
「
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