26話 ナユタの作戦1

 背を向け膝立ちになった月影シノブは、

自分のピンクのフレアスカートの裾を、持ち上げていた。


 そして、潤んだ瞳で、俺を見つめてシノブは言う。


「……じゃ、じゃあ……いきます……ね?……」


 そして、彼女は目をそらし……

自分のピンク色のスカートの裾を両手で広げ……


 ゆっくりと持ち上げていった。


 それを見る俺の心音は、高まった。

おそらく、彼女の心音はもっと高まっているんだろう。


 シノブがスカートの裾をじわじわと上げるに伴い、彼女の健康的ながらきめ細かい太腿が、徐々に顕になる。


 そしてスカートが、太ももを過ぎると、張りのある尻の肉が見えて来た。


 もう少しで彼女のパンツが見える。


 そうなれば、俺のパンツァーが発動する筈だ。


 しかし、その時……

彼女を照らすネオンの色は変わり、彼女の姿は水色に縁取られた。


伏せたまつ毛は、ピンクの頬に影を落とし——

唇は、濡れた様に水色に光り——

太腿と尻の肉は、反射光で深い陰影を作った——


 その瞬間、彼女の健康的な雰囲気は消え去り、今にも消えそうな儚さと、なまめかしい色気が漂った。


 まだ彼女のパンツは見えていなかったが、

俺は、時間が止まったような錯覚に陥った。


 彼女の淫靡で背徳的な様子に、俺の心は大きく掻き乱された。


 つまり……

今度は俺のほうが、彼女に対して激しく動揺していた。


何故なら、この場には、

“アイドルとプロデューサー”では無く、ただの“雌と雄”が居たからだ。


『これは仕事だ。俺は間違った感情を抱いてる』


『可愛い女の子に心が乱されるのは当然だ。間違っていない』


『いや、間違っている。少女に性欲を感じてはいけない』


『これはただの本能的な反応だ。意味なんて無い。性欲に身を任せれば良い』


 ――という感じで、俺の中の「天使と悪魔」ならぬ、「理性と本能」が激しくせめぎ合った。


 

 しかし、そんな俺の浮ついた——しかし、ちょっとヤバい感情をかき消すように、唐突に俺の後ろから声が聞こえた。


「シノブちゃんに……

 ……プロデューサーさん……?

 ……なに……しているの……?」


 そこには、死んだ目で俺達を見つめ、刀を持った織姫ココロが居た。


 一瞬で現実に引き戻される俺。


「うお!!」


 凄い速さでスカートを元に戻すシノブ。


「ふぁあ!!」


 その時になって初めて俺は自分自身の”下半身のある部位”の劇的な変化に気付き、驚いて袴の前を両手で押さえた。


俺は、シノブの事を“そういう対象”として見た事が無かったから、「焦る」を通り越して「自分自身に引いた」。


 もしかして……ロリコン確定か?


 しかし、今はそれどころじゃ無い!

織姫ココロに何か言い訳をしないと!!


 俺はひとまず首だけで振り返り、織姫ココロに言う。


「そ、その、シ、シノブが……ケツを怪我したみたいで!!具合を見ようとしていたんだ!!」


 織姫ココロは言う。


「……シノブちゃんが……お尻に……ケガ……?」


 スク水で刀を持って死んだ目の織姫ココロは、いつもと違い目線が冷たかった。


 なんか、怖いんだが……。


 月影シノブは言う。


「そ、そうなんです!!

 お尻を私、ケガしちゃって!!

 プロデューサーさんに見て貰おうとしてたんです!!

 で、でも!もう大丈夫です!!ナノマシーン衣装で治しましたので!!」



 ……という感じで俺達が、苦し紛れの言い訳をしているところで、遂に”時間切れ”になった。


「それが君のパンツァーの能力か……」


 俺達の目前には、銃撃のダメージから蘇った紫電セツナが立っていた。


 紫電セツナに当たった4発の弾丸のうち、少なくとも一発は、彼女の頭に当たった筈だったが、しかし彼女の美しい肌には傷が一つも付いていなかった。

 さらに残りの3発も彼女の衣服を破った程度で、そこにも外傷らしき物は見当たらない。


 俺は、自分の動揺を隠して紫電セツナに言う。


「一応、対サイボーグ用のホローポイント弾なんだが……どんだけ頑丈なんだよ?」


 紫電セツナは、微笑む。


「なるほど。道理で一発が重かった訳だ」


 紫電セツナの胸の服と紫色のブラジャーが、大きく破れ、焼け焦げていた。Eカップが出てきそうだ。


 彼女は続ける。


「僕より速く動ける者なんて見たことが無い。

 ましてや、君の様な生身の人間が……ね?

 さらに……発砲した9発の弾丸が同時に僕を襲った様子から察するに、君のパンツァーの能力は、時間を止める能力かな?」


 俺は言う。


「……自分の切り札の種明かしに付き合うヤツなんて居ると思うか?」


「ふふ。そのとおりだね。無粋だったね?

 しかし……君のパンツァーは全く、ふざけた電脳だな。その、常識外れな性能も……その発動条件も含めて…」


「”フザケタ電脳”って事に関しては、俺も同意するな」


 俺は考える。

紫電セツナの今の言動から察するに……

パンツァーの時間停止する能力と発動条件——パンツを見る事は、既に紫電セツナにバレている可能性が高い。


ていうか、紫電セツナからすると……

俺が、月影シノブのスカートに顔を突っ込んだ瞬間に「瞬間移動 & 発砲×9」をした訳だから、バレバレに決まっている。


むしろ、彼女の高い洞察力を考えると、パンツァーの起動時間すら正確に把握されている可能性すらある。


 だから、パンツァーを無駄打ちする訳にはいかない。これ以上、俺たちの切り札を知られたくない。


 パンツァーを使うなら、次の時間停止で確実に奴を倒さなければならない。


 考えをまとめた俺は、”電脳リンク”を開始し……


 シノブと織姫ココロに自分の思考内容を共有する。


『(紫電セツナの破れた服からおっぱいが見えそうでエロくて困る)……じゃなかった、二人に次の作戦を伝える』


 シノブから返信がある。


『え?作戦?……。

 いえ……むしろ……今、おっぱいって言いませんでしたか?

 ……あと”エロい”とかも聞こえた気が』


 織姫ココロからも返信がある。


『……お姉ちゃんのおっぱいは、大きくて綺麗だから……仕方ないね……』


 俺は、彼女達の電脳リンクを無視して発信する。

 

『俺の次の作戦は……“もう一度紫電セツナから逃げる”事だ』


 シノブから返信がくる。


『え?逃げる!?

 ……彼女から逃げれる気がしないんですが??

 てか、さっきの発言は無かった事にするつもりなんですね?』


 俺は発信する。


『”逃げる”とは言ったが……ただ逃げる訳じゃない。

 今度は彼女を”ある場所”に誘い出す。

 そしてもう一度……彼女の雷葬を発動させる』


 織姫ココロからの返信がある。


『お姉ちゃんの雷葬を!?

 ……プロデューサーさん……今度こそ死んじゃうよ?』


『もちろん。死ぬつもりは無い。

 俺の”作戦”が決まれば、倒せなくとも……彼女を行動不能には出来るはずだ』


 シノブが発信する。


『それは……プロデューサーさんが危なく無いのですか?』


『危険はある。

 確かに”危ない橋”だが……一度”渡った橋”だ。

 次も成功させるさ。

 こんなところで、シノブのアイドル活動を終わりにする訳にはいかないだろ?』


『……で、でも……プロデューサーさん……』


 ここで、織姫ココロが発信する。


『それで……ボク達は、何をすれば良いの?』


『俺が逃げる為の援護をして欲しい。

 そして、俺が”目的地”に到着したら離脱して欲しい』


 織姫ココロが続ける。


『つまり……

 プロデューサーさんが、走っている間は、ボク達がお姉ちゃんを足止めして……

 プロデューサーさんの言う”目的地”に着いたら……退避すれば良いんだね……?』


『ああ。そのとおりだ。“目的地”に着いたら退避してほしい。

 紫電セツナは、織姫ココロが近くに居ると雷葬が使えない。

 君が居なくなった時が、紫電セツナが雷葬を使うタイミングになる』


『お姉ちゃんのペロペロから逃れる為にも……

 ボクも……がんばるよ…』


 シノブからも返信がくる。


『作戦は一応、理解しましたが……どうか、無茶だけはしないで下さいね』


 俺は同時に二人に電脳リンクを送る。


『次も俺は、パンツァーを使うつもりだ。

 だから、勝敗は一瞬で着く。

 二人共、協力を頼んだぞ?』


 月影シノブから発信がくる。


『分かりました……でも、もう一度パンツァーを使うって事は……もしかして、”クマさん”を?』


 織姫からもくる。


『……クマさん……??』


 しかし俺は、それには返事をせずに電脳リンクを終えた。


 何故なら、紫電セツナが目前に迫ったからだ。


 俺は、右手に拳銃を、左手に電脳刀サイバーカタナを持ち、紫電セツナを睨みつけた。


 そして、紫電セツナが微笑み、言う。


「ナユタ君……。良い目だ。修羅のようだ」


 彼女が言い終わったと同時に、紫電セツナの前方にホログラムが現れる。


紫電七刀流しでんしちとうりゅう 七星の備え”壱” しちせいのそなえいち


 そのホログラムが消えると、彼女のサイボーグの両肩の人口外皮が外れる。


そして、彼女の外骨格の間から刀の柄がせり上がって来る。


紫電セツナは両腕を交差させ、その自分の両肩から生えた2本の小太刀こだちを抜き、下段に構えた。


 それを見て俺は言う。


「身体の中に小太刀を?

 7本の太刀が無くなって形勢逆転できたと思ったんだが…」


 紫電セツナは、手に持った小太刀を目の前に構えた。刃が鈍く光り彼女の紫の瞳に反射する。


 彼女は言う。


「もちろん。小太刀は太刀よりリーチは劣る。

 だが、僕は”これ”も軽くて好きだな」


「もしかして……

 まだ、あと何本か、身体の中に”それ”を隠し持っているのか?」


「さあ?どうだろう?

 僕も、奥の手を安易に晒すつもりは無いからね?」


 そして、彼女は俺達との間合いを詰めながら言う。


「それでは、2回戦の開始としよう。

 僕は、次で”最期”にするつもりだ。

 ……もちろん。ナユタ君の命のね?」


 唐突に風が吹いた。


 血と鉄の匂いがする嫌な風だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る