23話 トップアイドルと戦おう3

 ピチピチワンピースでサイボーグ侍の紫電セツナに、俺は言う。


「俺と話をしたいってなんだ?

 BBQバーベキューのお誘いか?」


 紫電セツナは微笑み、言う。


BBQびーびーきゅーは君が死んでからゆっくりするよ。

今僕が、話したいのは、君の電脳についてだ」


「パンツァーの事か?……」


 彼女は肯定する代わりに、ネクタイが垂れたEカップの胸の下で腕を軽く組み、姿勢をさらに崩す。


彼女が戦闘の構えを解いたのを見て、俺も拳銃を少しだけ下ろした。セーフティーはかけない。


 まず紫電セツナが、俺に聞く。


「君は、その電脳をどこで手に入れたんだい?」


 俺は答える。


「『知らない間に』……って言ったら信じるか?」


 ここで、紫電セツナは視線を横にずらし、少し考える。


 そして、相変わらず絶世の美少女の笑顔で俺に言う。


「……不可解な経緯だが……興味はある。

 詳しく教えて欲しいな」


「……俺は、トラックで轢かれて死んだ。

しかし何故か、生き返った。

その間に誰かに電脳を弄られて、気付いたらパンツァーが俺の電脳の中にあった。」


 と俺は、簡潔に答えた。――と言うより、俺もよく分からないのが実際のところだ。


「つまり……君は何も知らない……と?」


「まあ、残念ながら、そうなるな」


「……君が分からないのなら、それはそれで良いさ。

これは、ただのアンケートだからね」


 次に俺が質問をする。


「じゃあ……俺からも、あんたに質問がある。

 ……パンツァーを持ってるのは、俺だけなのか?」


「何とも言えないな」


「どういう事だ?」


「パンツァーを植え付けられて、意識を保っている人間を見たのは、君が初めてだからね」


「つまり……パンツァーを植え付けられた人間の大半が、意識がなくなるのか?」


「発狂するか……あるいは、そのまま死ぬか……

 かな?

 後者の方が多いらしいが……」


「それじゃあ……

 俺が生きてるのは……かなり運が良かったのか」


「君の立場なら、そうだろうね。

もちろん、僕は、そうは思わないけどね?

 それと……ひとつ……面白いウワサを教えてあげるよ。」


 紫電セツナは、俺から目を逸らし、自分の胸の前の銀髪を指先で触る。


「死体にパンツァーを植え付けて、起動実験をしている男が居るそうだよ……。

しかも、その男は、バイオロイドだそうだ」


「バイオロイドだと!?」


「君のその様子ならバイオロイドの事は、知っているようだね?」


「ああ。もちろん……知っている」


 忘れたくても忘れる事は出来ない。

何故なら、バイオロイドこそが、俺に絶望を刻み込み、俺の戦友を無惨に殺した「アイツ」なんだからな。


 そして俺は、「アイツ」に復讐をする為に、この仕事をしている。


 紫電セツナがウソを言っているようにも見えない。

彼女は無感情だが……俺を陥れようとしている訳じゃなさそうだ。


 つまり、この情報は…「復讐」への一つの手掛かりかもしれない。


つまり、俺は、パンツァーの事をもっと知る事で、「アイツ」に近付く事が出来るかもしれないんだ。


 そんな、俺の考えに気付いているのかは分からないが、紫電セツナは、話を終える。


「それでは、お互い有益な話し合いが出来たところで……。

殺し合いに戻ろうじゃないか?」


 そして、紫電セツナは、笑顔のまま戦闘の構えに戻る。


 俺も再び拳銃を構える。


 彼女が言う。


「僕は、ずっと君を警戒していた。

もし、君のパンツァーが僕が知っているような物であれば……

僕は、君に倒されてしまうかもしれないからね?」


「…あんたが、俺に倒されるだって?

 ウソを付くな。

そんなつもり、微塵もないだろ?」


「もちろん。そうだ。

 僕は、誰にも負けた事が無いからね」


 俺は、彼女と話しながらも、素早く全員の位置を確認する。


 紫電セツナを中心に考えた場合、

シノブと織姫ココロと俺の、三人全員が雷葬の射程範囲――20m圏内に居る。


 つまり、今、紫電セツナは「雷葬」を使えない。


 彼女は、続ける。


「そして、実のところ僕は、知らないんだ。

君のパンツァーが発動する“きっかけ”をね?

 『鬼の電脳』は、

時に、赤鬼のように人の肉を求め……

時に、青鬼のように人の心を求める……

『人の世の業』を現したような電脳なんだ」


 紫電セツナは続ける。


「つまり……僕にだって不安が無い訳じゃない。

 しかし、そろそろこの殺し合いも、終わりにしたい。

 僕だって一応は、忙しい身なんだ」


 紫電セツナの瞳が紫の光りを放った。

 

 紫電セツナの強い殺気に気付いた俺は、俺の目前に居るシノブを見ながら叫ぶ。


「WABISABI!!シノブにバフを掛けろ!!」


 シノブの周囲にナノマシーン衣装のシールドが張り巡らされる。

シノブは、紫電セツナの方を向いたまま礼を言う。


「ありがとうございます!プロデューサーさん!」


 さらに俺は、紫電セツナに向けて、拳銃を3回発砲する。


 しかし、紫電セツナは、ゆっくりと剣を構えながら、事も無げに全ての弾丸を回避し……


 消えた。


 次の瞬間、シノブの目前に、居合の構えの紫電セツナが現れた。


「!?」


 月影シノブが驚く。


 そして、居合の構えの紫電セツナの前に、紫色のホログラムが浮かび上がる。

 


【 紫電七刀流しでんしちとうりゅう 刹那一如せつないちにょ 】



 その瞬間、紫電セツナの右手元が光った。


 紫色の剣閃が空間を裂き、景色が歪む。


 遅れて空気が揺れ、轟音が響く。


 シノブはピンクのシールドを発生させていた。


しかし、紫電セツナの剣の一閃で、

シノブのシールドがあっけなく、破壊される。


月影シノブは大きくのけ反り、後ろに吹っ飛ぶ。


飛んだシノブの勢いは止まらず、後ろに居た俺も巻き込まみ、俺達二人は接触したまま、後方に大きく飛ばされた。


 空中を飛んだ時間は、1秒にも満たない時間だったと思うが……俺には、何分にも感じられた。 


 そして、俺はシノブを抱いたままの体制で、地面で尻をしたたかに打った。


 衝撃で呼吸が止まった。


 いや!しかし!シノブは!?


「シ、シノブ?」


 俺は座った姿勢のまま、自分の胸にもたれ掛かるシノブに、大きな声を掛ける。


「シノブ!!!大丈夫か!??」


 揺すっても返事が無かった。


 俺の胸の上で仰向けになった彼女の顔は、目を閉じ、ぐったりとしていた。


 ここで、WABIちゃんがポップアップする。


「シールド破壊時の衝撃により、シノブ様は失神されました。

 ですが、身体へのダメージは、ほとんどございません」


 俺は少し安堵する。


「それなら、シノブは直ぐに目を覚ますんだな?」


「ええ。ご安心を」


 俺達の会話を遮るように、何も無かった空間に紫電セツナが現れる。


 紫電セツナは、微笑み、言う。


刹那一如せつないちにょは、僕の渾身の一撃だ。

 バフを掛けたとしても、シノブ君のような新人アイドルが、受けられるようなワザじゃない。

 その常識はずれな性能……。

 やはり君達の戦闘AI WABISABIは、万錠カナタが作ったAIだな?」


 そう言いながら彼女は、胸の前で腕を交差させ、背中と腰の刀を抜き放ち、2刀を下段に構える。


 この時になって、俺は思い出した。


織姫ココロと俺達の距離は!?


俺達は、かなりの距離を吹っ飛ばされた。


織姫ココロと紫電セツナの距離が20m以上離れていれば、紫電セツナのヤバいユニークスキル“雷葬”が発動される!!


 織姫ココロを目で探す俺を他所に、紫電セツナは話し続ける。


「しかし、諸行しょぎょうは無常だ。

 君も、僕も、そして今の感情も……

 全ては泡沫うたかたの夢だ……」


 と言った彼女は、片足の爪先で回りながら、剣を持った両腕を、ゆっくり頭上で交差させる。


 彼女の、露出した腋から手先までが滑らかな曲線を描き、絶対領域の太腿が、灯りに縁取られ淡く光る。


 俺がその、官能的なまでに美しい彼女の所作と、絶対領域に目を奪われた瞬間……


 彼女の周囲の空中に、7本の刀・・・・が配されていた。


 そして、その7本の刀が電流を帯び、激しく光る。


 いつの間に!?ヤバい!!


 7本の刀、全てが空中にある!!


 彼女のユニークスキル「雷葬」発動の合図だ!!

 

「パンツァーを!!」


と、俺が言いWABIちゃんかSABIちゃんを呼び出そうとした瞬間――



「私!! またしても寝坊を!?」



 ――と、俺の胸の上で寝ていたシノブが、唐突に立ち上がった。


 この時の月影シノブは――尻もちを付いた俺の股の間で、座った状態で気絶していた訳だが……


月影シノブが急に立ち上がる事で、俺の顔の正面に、彼女の尻が来る感じになってしまった。


 しかし、あまりに突然の出来事で、俺は状況が全く理解できておらず、暗転した視界に、混乱して叫んだ。


ぶっぼっ!一体!ばふぼふっ??なんだ??


 そして、何故か月影シノブの悲鳴が聞こえる。


「ひぃいやあああああああ!!!!

 お尻いいいいいいいい!!!」


 賢いお前らなら、既に気付いていると思うが……


 この時の俺は、シノブのピンクのフレアスカートの中に頭を突っ込み、

彼女の尻のセンターに、自分の鼻をダイブさせた状態になっていた。


 俺は、そんなセンシティブな状況になっているとは露とも知らず、自分の目と口を塞ぐ――


「柔らかいながらも、しっかりとしたハリと弾力を持った、両手にギリギリ収まるぐらいの良い感じに丸い物体」


 ――を両手で押しのけ、一息をつき……


目の前の”白い布地”に描かれたキャラクターを見て呟いた。


「可愛いクマさんだな」


 その瞬間、シノブの尻の”クマさん”はモノクロになり、静寂が訪れ、全てが停止する。


俺の超感覚「パンツァー」が起動し、時間が停止した。

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