22話 トップアイドルと戦おう2

 見れるパンツの目処が立ち、

戦線復帰を急ぐ俺の網膜ディスプレイ上に、ロリのSABIちゃんが再びポップアップする。


「私達のパンツどうこうの前に……

そもそも、アンタが死んだら元も子もないから、1つ注意点を言っておくわ」


 俺は走りながら言う。


「いきなり俺が死ぬ話とか、辞めて欲しいんだが……。

 しかし、何の事だ?」


「紫電セツナが、まだ『雷葬らいそう』を使ってない事よ」


「ライソウ……? ってなんだ? 植物の名か?」

 

 ロリのSABIちゃんが呆れた表情で、ツインテールを右手で跳ね上げながら言う。


「やれやれ…… まったく……。

これだから人間は……。

 アンタ、紫電セツナのステータスを一度見たんでしょ?

ヤツのユニークスキルは二つあった筈よ?

紫電七刀流しでんしちとうりゅう』と『雷葬らいそう』よ」


 ユニークスキルの見方なんて知らなかったんだが。と俺は思いながら、言う。


「ユニークスキル……『雷葬』……。

 明らかにヤバそうだな。」


「ええ。ヤバいわ。

 『雷葬』は、ヤツの全ての刀に高圧電流を流して行う……

『半径約20mの無差別範囲攻撃』よ」


「“半径20mで無差別範囲攻撃”だって!?

 現実離れし過ぎじゃないか?

ホログラムゲームじゃないんだぜ?

 人間わざじゃ無いだろ」


「紫電セツナはサイボーグよ?

”人間わざじゃ無い”のは当たり前でしょ」


「……それもそうだな。

……当たり前だったな。」


「まあ、とにかく……

 ヤツが『雷葬』を発動した瞬間、射程距離内に居る者は、だいたい灰になって死ぬわ。

 データによると……雷葬を受けて生き残った者は居ないそうよ。」


「……半径20mが焦土となるのか?……。

無理ゲーじゃないか?

 しかし、雷葬がそんなに強いのなら、紫電セツナは、なぜ今まで使わなかったんだ?」


「それを考えるのは、私の仕事じゃないわ。

 私、AIだから人間の感情なんて分からないもの」


 SABIちゃんの、急なAIアピールには違和感しか無かったが……

しかし、彼女のその言葉で俺は一つの推論に達した。


「紫電セツナが、むやみに雷葬を使わないのは……織姫ココロを巻き込まない為か?

 紫電セツナの織姫ココロに対する溺愛っぷりを考えると、妹である織姫ココロを殺すような事は出来ない筈だ」


 SABIちゃんは、笑顔になり言う。


「アンタでも、ちゃんと考える事ができるのね?

 褒めてあげるわ」


 俺は、ヒノモト最強の戦闘AIのお褒めに預かり、やや光栄な気持ちにならなくも無かった。


 SABIちゃんは続ける。


「つまり、アンタの推論が正しければ……

 紫電セツナが雷葬を使う時は、半径20m以内に織姫ココロが居ない時よ。

そして、その時が、ヤツの最大の隙になるわ」


「”雷葬の発動が最大の隙”だって?

 それは何故だ?」


 SABIちゃんが再び、「やれやれ」な表情をする。


「考えてみなさいよ?

 紫電セツナが7本の刀に高圧電流を流す時に、刀がヤツの傍にあったら本人が危ないじゃない?

 だから、雷葬を使う時、紫電セツナは必ず、7本全ての刀を鞘から抜き、空中に放り投げるのよ」


 俺は考えながら言う。


「つまり……

織姫ココロが雷葬の射程外に居て――

しかし、俺は紫電セツナの近くに居て――

なおかつ、紫電セツナが7本の剣を全て抜いた時が――

パンツァーを使う最大のチャンスって事だな?」


 ロリのSABIちゃんが、腰に手を当て笑顔で答える。


「やっと理解できた?

 まあ……推論の上に立った予測で、ちょっとアレだけど……

 一応は、そういう事になるわね」


「しかし、条件が厳し過ぎないか?

 それに、もし……パンツァーが起動しなかったり、

時間停止が中途半端に終わったら……

 俺って紫電セツナの雷葬で死ぬんじゃないのか?」


「今更気づいたの?

 でも、良いじゃない?

 人間風に言うと……“やりがい”があって」


「俺は、命を掛けてまで、仕事にやりがいを求めるタイプの人間じゃないんだが……」


「もし、死んで恨むなら、アンタのパンツァーを恨みなさい。

 変な発動条件で、なおかつ不安定なあんたのパンツァーが悪いんだから」


「それに関しては、俺も常日頃思っている。

 『俺の電脳はどうしてこんなにフザケタ電脳なんだ?』……ってな」


 ロリのSABIちゃんは、ペッタンの胸に手を当てて話を続ける。


「要は……『パンツァーの持続時間』が、この戦闘とアンタの命を左右するって事。

 パンツァーは、起動時に見たパンツの“愛着性癖”に応じて持続時間が変化する訳だから、よく考えて起動させなさいよ?」


 俺は深く納得し、SABIちゃんを見ながら言う。


「なるほどな。

 愛着を感じる……パンツ……だな?」


「え?……ちょっと何?

 アンタ……アタシの下半身を見て言わなかった……?

 もしかして……アタシのパンツを……?

 ……キモいんだけど……」


 と言ったSABIちゃんは、俺を蔑みながらポップアウトした。


そして俺は、彼女のその——“蔑み目線”にちょっとゾクっとした。

しかし……誤解されては困るんだが、俺が“新たな何か”に目覚めた訳じゃない。


何故なら、これは、武者震いだからだ。

来るべきチャンスに対する武者震いだ。


だから、俺はロリコンでもマゾでもない。

つまり、まだ変態じゃないんだ。

とにかく、安心して欲しい。



―――――――



 

 SABIちゃんの有難い作戦アドバイスの後、戦線復帰した俺は、パンツァー起動の為に織姫ココロに、電脳リンクで指示をしていた。


『俺とシノブで紫電セツナを引き付ける。

 織姫ココロは、戦線から引いてほしい。』


『わ、わかったよ……でも、大丈夫かな……』


 という織姫ココロの返信を受けた瞬間……


 何の前触れ無く、俺の数m前の空間に、紫電セツナが現れる。


 しまった、一瞬、完全に目を離していた。


 油断も隙も無い。


「くそ!!」


 と俺は叫び、後ろに飛ぶ。


 同時に紫電セツナが、死の微笑を伴いながら言う。


紫電七刀流しでんしちとうりゅう…… 五陰剣ごうんけん


 そのセリフが終わる前に、彼女は5つの剣撃になり、空中の俺に襲い掛かる。


 俺の回避のタイミングが良かったのか、4つの剣撃は完全に空を切った。


 しかし、5つめの剣撃だけは避け切れず、俺の目を狙い、正確に追尾して来る。


 俺は頭を躱してなんとか、その剣撃を避けようとしたが……


その瞬間、俺の身体を強烈な衝撃が襲い、空中に居た俺は、何故か真横に吹っ飛んだ。


「!!??」


 直ぐに、俺は地面に激突し、そのまま5mほど地面を滑った。


 そして、俺のすぐ前方に、月影シノブが着地し、叫ぶ。


「プロデューサーさんは必ず、私が守ります!!」


 月影シノブの10m先に紫電セツナが降り立つ。


 抜いた5本の刀を、順に納刀しながら紫電セツナは言う。


「いい判断だ。シノブ君。

 君が、ナユタ君を蹴り飛ばしていなかったら……

彼の電脳は、今頃、僕の剣で串刺しになっていた筈だ。

BBQびーびーきゅー”みたいにね? ふふふ」


 月影シノブは、紫電セツナの目を睨みながら言う。


「プロデューサーさんの電脳のBBQびーびーきゅーとか、ブラックジョークが過ぎて笑えないです!

 あと……

 BBQの事を陽キャは”バーベキュー”って読みます。

 BBQを”びーびーきゅー”って読んでしまうのは陰キャの証です!

ソースは私です!!」


 と何故かシノブは“陰キャ暴露話”を披露した。

そんな彼女に俺は礼を言う。


「すまない……シノブ。

 また、命を助けて貰ったみたいだな。

 ありがとう」


 その俺のセリフを聞いたシノブは、顔を赤らめて俺に言う。


「か、感謝の言葉なんて!そんな!!

 私は当然の事をしただけです!

 えへへ……ぐへへ……」


 なぜ照れるんだ?

それに“ぐへへ笑い”はアイドルの笑い方じゃないぞ。それはアイドルヲタ側の笑い方だぞ。

と思いながら、俺は紫電セツナを見た。


ちょうどその瞬間、紫電セツナは銀髪の隙間から目線だけをずらし、織姫ココロを見ていた。


 だから、俺は確信した。


 やはり紫電セツナは、織姫ココロとの距離を気にしている。

つまり、ユニークスキル雷葬は、織姫ココロが射程内に居ると使えないんだな。


 ここで唐突に、美人のWABIちゃんが、俺の網膜ディスプレイ上に現れて言う。


『ただ今の戦闘中の連携行動により、シノブ様の“LP”が100増加。

 ナユタ様はプロデューサースキル「電脳リンクlv.1」を獲得しました。

 これにより「基礎ステータスの強化」が可能となります』


 『LPって何?』と疑問に思ったが……それよりも気になった事を、WABIちゃんに電脳内で聞く。


『プロデューサースキルってなんだ?』


『ナユタ様専用スキルです。

 ナユタ様がシノブ様のナノマシーン衣装を、遠隔で操作するスキルの事です』


『分かった。“プロデューサースキル”ってのは俺が使えるスキルなんだな。

 あと、それと……「基礎ステータスの強化」ってのは……つまり俺が「バフ」を使えるようになったって事か?』


『はい。その通りでございます。

 プロデューサースキルの「バフ」は、シノブ様にもナユタ様にも効果がございます』


『ただの人間の俺へのバフだなんて……意味があるのか?』


『バフによりナユタ様にもナノマシーンシールドが生成される訳ですから……。

 “アイドル様同様”とまでは申せませんが、ある程度の効果は見込めます。』


『ある程度の効果か……まあ、無いよりマシか……。

 それで、バフを適応する為にはどうすれば良いんだ?』


『起動に際しては、口頭か電脳内で対象をご指定頂ければ、適応可能です。

 効果時間は数秒で、かつ再起動にはクールタイムの必要がございます。

あらかじめご了承ください』


 そう言って、WABIちゃんはポップアウトした。



 攻撃の手を止めていた紫電セツナが、チューブワンピの裾を直しながら、戦闘の構えを解き、左手を腰に当てて言う。


「少し、僕と話をしないか?」


 俺は、紫電セツナに拳銃を構えたまま答える。


「俺に言ってるのか?」


「もちろんそうだ。

 僕の攻撃を、幾度も受けて立っている君に興味が湧いてきた。

 だから、僕と話をしてくれないか?ナユタ君」


 紫電セツナの胸元のネクタイが風になびいて揺れ、

Eカップの胸の谷間が見え隠れする。


 彼女の銀髪と紫の瞳が、ネオンの光りで妖しく反射した。

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