19話 コラボ配信4

 俺がキンザの現場に到着したすぐ後、目前に現れた”それ”の名は……


美少女殺しアイドル@バスター」という名のパワードスーツだった。



 それを見た、可愛くてしかも幼女なSABIちゃんが言う。


「” 美少女殺しアイドル@バスター”ですって!?」


 それを聞いた、美人でしかも美女なWABIちゃんも言う。


「試作品でしょうか?

あの――”美少女殺しアイドル@バスター”。」


 俺は聞く。


「なんなんだ?

 その……殺伐として可愛さの微塵も無い、クソみたいな製品名は」


 SABIちゃんが、幼女な声で説明する。


「『一般人のオッサンでもアイドルに勝ちたい』のキャッチフレーズでキチク芸能社が開発中で、特許出願中のパワードスーツよ。

 うたい文句どおりの性能であれば、ココロや月影シノブが使っているナノマシーン衣装同等の戦闘能力があるそうよ。

つまり、だから……”美少女殺しアイドル@バスター”ってわけ」


 俺が聞く。


「キチク芸能社って……芸能系メガザイバツじゃなかったのか?」


 WABIちゃんが、美人な声で説明する。


「現在のキチク芸能社は、

メディア、政治、軍事……等といった様々な方面を裏から牛耳る――

文字通りの『悪のメガザイバツ』として名が通っております」


 俺は、ため息交じりに言う。


「……芸能系メガザイバツが、メディアと政治と軍事を影から操ってるとか……

”世も末”にも程があるだろ」


 SABIちゃんが、皮肉交じりの笑顔で言う。


「知らなかったの?

 ヒノモトはとっくに”世の末”を越えて”世の地獄”なのよ?」


 それを聞いた俺が、「奉行所の戦闘AIがそんな事を言うもんじゃないぞ」とSABIちゃんに注意していると……

美少女殺しアイドル@バスターに乗ったオッサンは、無視され続けて寂しくなったようで、ムキになって叫ぶ。


「おい!!お前ら!!余裕ぶっこいて雑談カマしてんじゃねぇぞ!!

 こうなったら見せてやる!!|

美少女殺しアイドル@バスターの性能ってヤツを!!」


 とオッサンが拡声器をハウリングさせながら叫び、


美少女殺しアイドル@バスターのブースターで空高く飛び上がった瞬間……



 それは、突然、大爆発を起こした。



「は!?」


 と言う俺。


「え゛!?」


 と言うシノブ。


「はわわ!?」


 と言う織姫ココロ。


 そして、空中の美少女殺しアイドル@バスターの爆発からは、大小様々なパーツが飛び散り、俺達に降り注いだ。


「プロデューサーさん!!」


 とシノブは言い、ナノマシーン衣装のピンクの光学シールドで俺を守った。


「すまない」


 と俺が、顔を庇いながら、その爆発を見ていると……。


 美少女殺しアイドル@バスターの爆煙の中から、

ピチピチ衣装を着たキラキラの絶世の美少女が飛び出してきた。



 「コイツ遂に美少女に狂って幻視を?」とお前達に思われそうだし……

それに、俺だって一瞬、自分の電脳がバグったのかと思ったが、

しかし、何度目を凝らしても、そこには絶世の美少女が居た。


 その”爆炎の中の彼女”は空中に居て、さらに、地上にいる俺達からして200m以上の距離が離れていた。

しかし、それでも分かるぐらいに、彼女は”絶世の美少女”だった。


 身長は155cm程、胸まであるカールした銀髪に、深い紫色の瞳、長いまつ毛、繊細だが真っ直ぐの眉。

顎のラインはシャープで、肌は白く、象牙の彫刻のようだ。


服は彼女のスレンダーな体型がハッキリと分かる、濃紺のピチピチ&テカテカのチューブワンピースだ。

 

 手には凝った意匠の銀の手甲。

ワンピースに押し上げられたEカップの谷間には、紫のネクタイが垂れ下がっている。


もちろん、グレーのニーハイブーツにより、絶対領域も標準装備されている。


 そして、何よりも彼女の特徴は、背中と腰に合計7本・・の太刀が、装備されている事だった。



 その絶世の美少女は、空中でくるりと身を翻し、敵の集団のど真ん中に音も無く降り立った。


 その様子を見たシノブが目を見開いて叫ぶ。


「セツナ様!!尊み!!」


 俺は、怪訝な顔で聞く。


「セツナ様…?」


「え!?プロデューサーさん、知らないんですか!?

 あの”セツナ様”ですよ??

超絶トップアイドルの一角!

銀髪の雷電プラチナブリッツ』の通り名で有名な、みなさんご存知の”紫電しでんセツナ様”ですよ!?

尊み!!」


 俺は、目を細め、遠くにいる紫電しでんセツナを凝視しながら言う。


「ああ……確かによく見ると……

ホログラム広告で、見た事がある顔な気がする…」


 美人のWABIちゃんが解説する。


「彼女の名は、紫電セツナ。19歳のトップアイドルです。

 コクシカンアンダーグラウンド地下闘技場にて千戦無敗の記録を打ち立てた彼女は、数年前に突如アイドルに転身……。

 今は、どこにも所属しない”サイボーグ侍アイドル個人勢”として有名です」


 幼女のSABIちゃんが続く。


「紫電セツナが、無茶苦茶に強い理由は、彼女の”ユニークスキル”……

 7本の剣を同時に操る『紫電七刀流しでんしちとうりゅう』のためよ」


 俺は、驚いて聞く。


「7本の剣を同時に扱うだって?

 サイボーグだからか?腕が増えるとか……か?」


 シノブが腰に手を当て、何故か自慢げに解説する。


「甘いですね!プロデューサーさん!

 セツナ様は、2本の腕で7本の剣を使う事ができるから凄いんですよ!!尊み!!」


 SABIちゃんがさらに説明を続ける。


「電脳と義体の超高速処理による、居合術の連続が紫電七刀流しでんしちとうりゅうよ。

 その音速を超える太刀筋は、ヒノモトで一番の速さね」


 俺は良く分からなかったが、とにかく彼女は凄いらしい。


 そんな彼女に視線を移すと、彼女の周りで秘密兵器を失った倒幕新鮮組フレッシュギャングの連中が騒ぎ始めていた。


「貴様!!よくも我らが副局長と!秘密兵器を!!

美少女とはいえ!天誅からは逃れられんぞ!!」


 紫電セツナは、優雅にしなやかなに歩き、穏やかに微笑みながら話す。


「僕は、それを作ったキチク芸能社から依頼を受け、ここに来たんだ」


 彼女の透き通る声は静かだったが、なぜか俺達までハッキリと聞こえた。


 彼女は、微笑み、続ける。


「僕にとって”これ”は仕事だ。

 だから、私怨は無いよ。

しかし、依頼主のキチク芸能社の社則によると……

 その試作機に触れた『全ての部外者の抹殺』が必要だそうだ。

 だから僕は、君達を殺す必要があるんだ」


 ……俺は、正直に言って……

この段階で紫電セツナに対し恐怖を感じていた。


 それは、彼女の微笑みに何の感情も込められていなかったからだ。


 しかしそれでも、彼女の笑顔は、見た物の魂を吸い取る程に美しい。

例えるなら、死の女神か……あるいは、銀河を飲み込むブラックホールか……。


 俺は今まで、これ程までに美しく恐ろしい物を、見た事は無かった。


 そんな紫電セツナの雰囲気に気圧されながらも、倒幕新鮮組フレッシュギャングの男は聞く。


「お、お前は……もしかして……?」


「失礼したね。名乗りが遅れたよ。

 僕の名は、紫電セツナだ」


 その名を聞いた彼等は、完全に戦意を失った。


武器を落とす者が居た。

怯えて逃げる者すら出て来た。


 絶望したリーダー格の男が言う。


「ま、まさか……

お前が……『銀髪の雷電プラチナブリッツ』……紫電セツナ……」


 紫電セツナは言う。笑顔で。


「僕の事を君達にも知って貰えて、嬉しいな。

 アイドル冥利に尽きるよ。

 それでは……僕が言うべき事は、以上だ」


 そう言った彼女は、無造作に立ったまま、右手だけを少し上げ……


 ゆっくりと、腰の刀に手を置く。


 そして、紫電セツナは微笑み、紫の瞳を輝かせる。


「ちなみに、安心して欲しい。

 痛みは無い。

 一瞬で終わるから……」

 

 彼女の前方の空間に、紫色のホログラムが表示される。


紫電七刀流しでんしちとうりゅう 十二天剣じゅうにてんけん


 ここで……

絶世の美少女が、七本の刀を同時に扱う様子を想像して欲しい。


ジャグリングを想像するだろうか?


あるいは、早回しの剣術を想像するだろうか?


 俺が見た紫電セツナの「紫電七刀流しでんしちとうりゅう」は、そのどちらでも無かった。


彼女のそれは”神事の舞”のようだった。


 その、滑らかな腕の所作や——

 その、乱れのない体裁きや——

 その、きらめく銀色の剣撃は——


優雅で、神聖で、官能的ですらあった。


 まあ、もちろん……

「血の雨が振らなければ」――の話だが……。


 彼女の”舞”は、人間を血煙に、カラクリアンドロイドを爆炎に変えた。


 巻き上がった血と破片は、広く飛び散り、雨になり……

俺達の足元に血だまりを作った。


 そのあまりの凄惨な様子に、俺の隣の月影シノブが息を呑んだ。

織姫ココロも黙り込み、俺達は金縛りに合ったように、身動きが取れなくなった。



 そして、血の雨の中、こちらを振り返り、紫電セツナはゆっくりと歩いてくる。


 彼女は、言う。笑顔のままだ。


「君達を、放ったらかしにしてすまなかったね。

 先に仕事を終わらせたかったんだ」


 月明りに照らされた彼女の銀髪は透明に見えた。

あれだけの惨劇の中、血の一滴も浴びていない。


 彼女は、散歩でもしているかのように歩きながら、話し続ける。


「しかし、僕がここに来たのは、仕事だけじゃないんだ。」


 彼女の紫の瞳から、俺は目が離せなかった。


 さらに彼女は続ける。


「僕が今日、会いたかったのは、ココロと…。

 そして……」


 紫電セツナのスレンダーなニーハイブーツが、俺の前で止まった。


 彼女は、俺の目を見て微笑んで言う。


「ナユタ君……君だよ」


 絶世の美少女の紫電セツナの呼びかけで、俺はやっと金縛りから解放された。


 あまりの突然の名指しに、俺は驚きを超えて唖然とした。


 だから俺は、かなり間抜けな声で質問する。


「え?? 俺??

 ……なんで??」

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