16話 コラボ配信1

【月影シノブ視点】


 私の変態的な鶴の一声により、

織姫ココロちゃんと私は、ランジェリーショップ店員さん達の、圧倒的な接客サービスから逃れる事が出来ました。


さらに、私の“ちっぱい発言”に対してココロちゃんは、怒る事も無く――


「助けてくれてありがとうシノブちゃん。

 シノブちゃんが、ボクのお胸、好きなら……

ボク……小さいままで居れるように、頑張るよ…」


 ――と、頬を真っ赤にしながら言ってくれました。

ですから私は、そんな優しいココロちゃんと、お友達である事をとても嬉しく思いました。


 そのような感じで、店員さん達からの猛攻を凌いだ私達は、高級下着をゆっくりと見る事が出来ました。


私達は、基本的に陰キャなので、静かにショッピングを楽しみたいのです。


 しかし、お店の下着の種類はヤバいぐらい多く、

天井まで届く棚にビッシリと並んだ商品を前にし、私は途方に暮れる事になりました。


色とりどりの下着を前に、気圧され、やや口を開けながら私は呟きます。


「やはり……『胸を寄せて上げて寄り切って押し出す』みたいな感じのブラの方が良いのでしょうか?」


と私が、お相撲さんみたいなセリフを呟いていると、「パンツの山から脚が生えた物体」が近付いて来ました。


それは、大量のパンツを抱えた織姫ココロちゃんでした。


私は、「ココにゃんが、またしても店員さんの過激な接客サービスに陥落したのかな?」と思いましたが、そうでは無いようです。


 彼女は、布面積が少なそうなパンツを、私の前で広げて言います。


「シノブちゃん……これとか、シノブちゃんに良いと思うんだけど……どうかな?」


 私は答えます。


「色はピンクで可愛いと思います。

 ですが……パンツのお尻の部分に、大きな穴が空いてるように見えるんですが?」


「Oバックだよ……お尻部分の布が無いパンツだよ……どうかな?……」


「色は良いと思いますが、やめておきます。

 ”見た人”がビックリすると思いますから」


「”見た人”…? じゃ、じゃあ…これは、どうかな?」


「え!?

 そのパンツ……股間に金属の錠前が付いてませんか!?あとオールステンレスっぽいんですが??」


「うん……。貞操帯って言うんだ。可愛いでしょ?どうかな?」


「何に使うんですか?その錠前!?

 アイドルはトイレに行きませんが……

 でも、不便じゃないですか?トイレに行く時に。

 それに、それも”見た人”がビックリしちゃうので、辞めときます!」


「え? また”見た人”……?」


 そこで、大量のパンツを抱えた織姫ココロちゃんは、少し考え込んでから、言います。


「シノブちゃんって……もしかして…。

 誰かにパンツ……見せてるの…?」


 私は大いに焦って、ココロちゃんに聞きます。


「え!? 何故それを!?

 いや!どうして、そう思われるのですか!?」


「だって……忍ちゃんが、そう言ってたから……。

 でも、良いな…羨ましいな……

 ボクなんて……まだちゅーもした事が無いのに…」


 と言いながら織姫ココロちゃんは、とても悲しそうな顔をします。


可愛いココロちゃんが悲しい顔をすると、満開の桜も一瞬で散る程の破壊力があります。


 いやでも……「ちゅー」ってどういうことですか?そういう性的な交渉の経験が無いって事ですか?そうですか。それなら私も同じです。


 ともかく私は、オロオロしながら狼狽えます。


「ご、誤解ですよ!ココにゃん??

 わ、私は、変態さんではありませんから!!

 本来の私は、大事な人にしかパンツを見せないタイプの女の子ですから!!」


「本当に……?」


「ほ、本当です!!」


「本当に……?

 シノブちゃん……誰にもパンツ……

 見せてないの?」


「も、もちろん。そうです!

 い、一応、自分から見せた事はありません!」


「そうなんだ。シノブちゃん……まだ、誰にもパンツ見せてないんだね?……良かった……」


「……良かった?」


「じゃ、じゃあね……。

 ボクとお揃いのパンツ……今日、買おう?」


「それは問題ないですよ。

 言うならば無問題モウマンタイです。

 私達、お友達ですから!」


「一緒に買ったら……ボクとお揃いのパンツ……履いてくれる?」


「ええ。それも、問題ございません。

 お友達ですから!」


 言ってから思いましたが……

 女の子って一緒にパンツを買って、お揃いで履くものなんでしょうか?

友達が少ないので分かりませんね。


 私のそんな疑問を他所に、ココロちゃんは満面の笑みで喜びます。


「わぁあ! 嬉しい!!」


 まあ。可愛い。ココロちゃんの天使のような満面の笑みです。


 私も、彼女の素敵な笑顔を見れて、ご満悦でした。


 ココロちゃんは、その笑顔のまま、金属の錠前が付いたオールステンレスのパンツを私の目の前でガチャガチャ広げて言います。


「じゃ、じゃあこれ……

これを一緒に付けよう?

……カギは交換しようね?」


 しかし、私は角度90度のお辞儀をして言います。


「貞操帯以外でお願いします!

 もっと布っぽいのが良いです!!」


 次に彼女は、普通のパンツを出して来ました。

ピンク色のハートのワンポイントが付いてます。

しかし、そのピンク色のハートも、ちゃんと見てみると——


 ——錠前でした。


「じゃあ、このパンツ……

これなら、ハートが可愛いでしょ?

……カギは交換しようね?」


 しかし、私は、またしても角度90度のお辞儀をして言います。


「ですから、錠前はやめて下さい!!

 あと今、あわよくば私を騙すつもりじゃ無かったですか??

 それと何故そんなに鍵を交換したがるんですか??」


 という感じで、私達がパンツと錠前を見たり、お辞儀したりしていると……


 突然、男の人の大きな声が店内に響きます。


「我らは討幕新鮮組!!

 既得権益を貪り、資本の亡霊となった富裕層へ天誅に参った!!

 おとなしく我らに従え!!さもなくば…」


 …というセリフを彼が言い終わる前に、私の蹴りが彼の頭を捉え、

彼の身体は店のドアのガラスを突き破り、店の外に吹っ飛んで行きます。


 私は、言います。

もちろん既にナノマシーン衣装に着替えています。


「あなたの言いたい事は、全く分かりませんでしたが!…

 女の子の花園であるランジェリーショップに乱入し銃を突きつけるのは、変態行為であり!

犯罪行為です!!

 ゆえに、720度回し蹴りの刑に処しました!!」


 遅れて店内の人達から悲鳴が上がります。店の中はパニックになりました。


「はわわわ!!シ、シノブちゃん?!」


 と、織姫ココロちゃんも、トゲ付きのV字型のロープのような物体を持ちながら「はわり」ました。


それはパンツですか?……もしかして、それを私に勧めるつもりだったんですか?


 そして、アイドル衣装に変身した私は、WABIちゃんに言います。


「へい!WABISABI!! 索敵をお願いします!!」


 ホログラムで現れたWABIちゃんは、言います。


「索敵は既に終了しました。敵は討幕新鮮組。

 別名フレッシュギャングと呼ばれる反体制組織です。」


 続いて、織姫ココロちゃんの戦闘AIのSABIちゃんも言います。


「まったく……。

 アンタ達が気付くのが遅かったから、アタシとWABIちゃんで先に索敵だけは済ましておいたのよ? 感謝しなさい?」


 ちなみに、みなさんは既にご存知だと思いますが……”SABIちゃん”とは、戦闘AI WABISABIの東奉行所仕様の通称です。


 そんなSABIちゃんに対して、織姫ココロちゃんは、大量に持ち出した下着を棚に戻しながら、感謝します。


「いつも……ありがとう。SABIちゃん。

 よいしょっと」


 幼女なSABIちゃんは、呆れた様子で言います。


「ココロ? あんた……

 こんな時にパンツで遊んで、何してるの?」


 私は、お姉さんなWABIちゃんに聞きます。


「いま、テロって来たその――討幕新鮮組フレッシュギャングさん達の、規模を教えてください」


 WABIちゃんは、お姉さん声で答えます。


「敵の戦力規模は――運送用トラックを違法改造した戦車が7台。

 さらに、武装した人間21人と、カラクリアンドロイドが50体です」


 私は、驚いて言います。


「多過ぎませんか!?」


 可愛い幼女のSABIちゃんが説明してくれます。


討幕新鮮組フレッシュギャングが、富裕層の屋敷や店を組織的に襲うのは、よくある事よ?

 アイツらは、資金に困ると店や家から、金品を強奪し、あげく人質から身代金までせしめるクソ野郎共よ。

 つまり、大義名分は、偉そうな事を言っているけれど、実態は電脳ヤクザと対して変わらない連中ね」


 美人お姉さんのWABIちゃんが、続きます。


「敵の数が多く、苦戦が予想されます。

 よって、織姫ココロ様との共同作戦を推奨します」


 SABIちゃんが、小さい手を腰に当て、笑顔でそれに答えます。


「もちろん。

 既に東奉行所から共同作戦の許可を取り付けているわよ」


 そのSABIちゃんの言葉に、私は答えます。


「私達の西奉行所も大丈夫です!!

 ココロちゃんとの”コラボ”をお願いします!!」


 SABIちゃんは織姫ココロちゃんに言います。


「決まりね?

 じゃあ、ナノマシーン衣装に着替えるわよ?

 ココロ?」


 それを聞いて織姫ココロちゃんは、「はわり」ます。


「はわわわわ!待って!SABIちゃん!!

 商品のパンツが!まだ畳めてなくて!

 それに、まだ心の準備が!!」


 と言う、ココロちゃんのセリフは無視され……

彼女の身体は緑色に発光。


 ココロちゃんのナノマシーン衣装の着替えが始まりました。


 今まで皆さんには黙っていましたが、

織姫ココロちゃんのナノマシーン衣装は……


 【スク水タイプ】です。


胸の部分に「織姫」と書かれたスク水に、少しばかりの鎧具足と白いニーソが彼女のアイドル衣装です。


 彼女のその衣装は、頻繁にセンシティブ認定されますので、皆さんには言わないようにしていました。

しかし、今は戦闘中です。致し方ありません。


 しかし、意に反して突然”お着替え”させられたココロちゃんは内股になり、ペタンと座り込み、

顔を真っ赤にして言います。


「はわわわわ!!

 急にスク水は、恥ずかしいよぉ……!!」


 その様子を見て、私の顔も赤くなります。


 ともかく、私はアイドルらしく笑顔でウインクしながら言います。


「それでは、これより月影シノブと織姫ココロちゃんの“コラボ配信”を始めますだニン!!

 みなさん是非見てくださいだニン!!」

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