14話 下着を買いに行こう2

【月影シノブ視点】


 私——月影シノブの提案により、織姫ココロちゃんと高級ランジェリーショップで、清く正しくキャッキャウフフする事になりました。


 織姫ココロちゃんは、言います。


「シノブちゃん……行くお店って……どこなのかな?」


 私は自信満々に答えます。


「よくわかりません!私は行った事がありませんので!」


「えええ……」


「でも、行き先だけは決定しています。

 ”キンザ“です」


「”キンザ“って……”キンザヒルズ“とかがある…超高級ショッピング街の事…?」


「ええ。もちろんそうです。

 セレブ御用達のキンザです」


「はわわ……緊張するなぁ…」


 みたいな感じで、私達は意気揚々と轟女子学攻トドジョの正門前に停まっていた、VTOL空飛ぶ車のタクシーに乗ります。


 このVTOL空飛ぶ車の無人タクシーは、女子攻生の主な交通手段です。


他国と違って治安の悪いヒノモトでは、タクシーが主流です。

他国で”公共交通機関“と呼ばれる”電車“とか”バス“とかに乗ったら、テロとか暴動とかバスジャックとかで、いつ危険な目に遭うか分かりませんからね。


 その無人タクシーが空に上がると、織姫ココロちゃんが私に聞きます。


「でも…どうして……?

 シノブちゃんが…高級下着を…?」


 彼女のその質問に対して私は、「プロデューサーさんにスカートをめくられるからです」と答えそうになりましたが、言いませんでした。


 だってそれって、つまり——

「プロデューサーさんに見られた時の為に高級下着を買いに来ました」って意味になりますよね?


それはちょっと流石に自意識過剰と言うか……変態さんぽいって言うか……タマキさんとキャラが被ってしまうと言うか……。


 と、とにかく……私が今日、意を決して高級ランジェリーショップに向かっている理由も、お姉ちゃんのせいです。


お姉ちゃんは、意外と美容にもそこそこ気を遣っているので、“具合の良い高級下着”を着用してる事を、私は知っています。


 ですから、もし、【何かのキッカケ】で、私の下着とお姉ちゃんの下着を【誰か】が比較するような事があった場合、現状の私の下着とお姉ちゃんの下着では【ワゴンセール vs 職人手作りの一点物】みたいな感じになってしまいますので、それは極力避けたいです。


 「シノブのパンツはワゴンセールで投げ売りかよ。ガッカリだぜ。

 やっぱ所長の方が良い女で、胸がデカくて、高級下着で、仕事も出来て、最高だな!

 養ってもらおう!!」


——みたいな事になってしまうと、目も当てられません。


 ですので、要するに、私は……私は…?



……私って、一体、何が言いたいのでしょうか?



 という感じで、私が頭の中をグルグルしていると、織姫ココロちゃんが心配そうに聞いてきます。


「シ、シノブちゃん……? さっきから『お姉ちゃん。パンツ。プロデューサーさん』っていう感じの独り言……言ってるけど……大丈夫?」


———


 そんな感じで、なんやかんやあって、

ついに空飛ぶ無人タクシーはキンザに到着します。


 キンザに初めて来た私達二人は、まず最初に”キンザヒルズ“の圧倒的な存在感に圧倒されます。


「わぁあ!凄い!!」


「はわわわ……」


 近寄ったキンザヒルズは物凄く大きいビルでネオンもギラギラで、”天まで高く“ていうか”天まで隠しちゃう“って感じで、とにかく大きいです。


 だから、私は語彙を喪失して呟きます。


「巨大過ぎて大きいですね」


 ……しかし、このまま、「大きいね」とか「凄いね」を連呼していても仕方ありませんので、私達は、高級ランジェリーショップを探す事にしました。


 織姫ココロちゃんが、戦闘AIをコールします。


「へい!WABISABI!! 高級ランジェリーショップを探して?」


 ココロちゃんの呼びかけで、WABISABIの東奉行所仕様が現れます。


 皆さん驚かれたかもしれませんが、東奉行所も同じ戦闘AI WABISABIを採用しているんです。


お姉ちゃ…じゃなく…所長によると、

戦闘AI WABISABIは、とても高価だったので、西奉行所と東奉行所で共同購入したそうです。


なぜWABISABIが、西奉行と東奉行所だけに配備されたかは”政治的理由”とか”入札の関係”とかの大人の事情があるらしいです。私にはよく分かりません。


ともかく、とても紛らわしいので、私達は東奉行所のWABISABIについては、「SABIちゃん」と呼んでいます。


 そんなSABIちゃんは、怪訝な顔で言います。


「え?ランジェリーショップを探すの?

 ヒノモト最強の戦闘AIであるWABISABIのアタシが?」


 ココロちゃんはSABIちゃんにお願いします。


「うん…。お願い? ダメ……かな?」


「もう…まったく。

 ココロの命令なら仕方無いわね。

 ていうか……アタシ一応は、AIだし。 

 ちょっと、待ってなさいね。ココロ」


 東奉行所のSABIちゃんの見た目は、私達のWABIちゃんを、かなり幼くした感じです。


 プロデューサーさん風に言うなら「WABIちゃんの幼女バージョン」です。


髪型は、緑の細いツインテールで、背も低めで、全体的に可愛い感じです。

ただ、口調は“ツンデレ”です。


 そんなSABIちゃんに、私は笑顔で挨拶します。


「お久しぶりです。SABIちゃん。お元気ですか?」


「月影シノブね?

 AIのアタシの体調を聞いて何の意味があるのよ? 変な子ね。

 …っていうか、今アタシ、検索中で忙しいんだけど?」


 確かに、SABIちゃんの平らな胸の前に【検索中・・】と出ています。


「いえ。少しお話をしたかっただけなんです。

 うちのWABIちゃんとは雰囲気が、全く違いますので」


「それは、そうよ。

 だって、あんたのところのWABIちゃんは”戦闘・・特化タイプ”。

 アタシは”戦術・・特化タイプ”だもの。

 役割が違うのよ」


「だから、ツンデレなんですか?」


「ツンデレじゃないわよ!失礼ね!! 

 まあ、ともかく…アタシは戦術特化タイプだから、人間とコミュニケーションをし易いように、こんな感じの口調なのよ。

 人間って“幼女でツンデレ”が親しみやすいんでしょ?」

 

 と、SABIちゃんが”設計者の偏った性癖”を基に設計された事が判明したところで、SABIちゃんの検索は終了します。


「検索終了よ。

 ちょうど近くに高級ランジェリーショップがあったわ。

 ていうかアンタたち、資金は大丈夫なの?

 この店めっちゃ高いわよ?」


 私は答えます。


「そこんところは、大丈夫です。

 公費でいけますので。一応、アイドル衣装の一部になりますので」


 ココロちゃんも答えます。


「ボクも……大丈夫だよ。配信の収益があるから」


 そのココロちゃんの答えに、私は配信者格差を見出し、再び心がダークサイドに飲まれかけましたが……いちいち凹んでいてもいけないので、一旦、記憶を消去して目的の店に向かいました。



———————



 そして、”高級ランジェリーショップ AGEHA”の自動ドアをくぐった私達は、大いにビビります。


 何故なら——


「本日は、数あるランジェリーショップから当店をご利用頂き、誠にありがとうございます!

万錠タケコ様!!

 バスト84、ウエスト69、ヒップ86のタケコ様で御座いましたら、限定品“UZUME”のセットがお勧めで御座います。

 今なら、初回ご購入割引で、なんと実質無料でございます!!(ただし、360回払いでのご契約限定となりますが…。)

 また、風水的にも、金色のパンツは……」


 ――という感じで、店員さんが、バキバキのゴリゴリに接客してくれるからです。


私は焦って言います。


「いや、ちょ! ま! いや、ちょ! ま″!!」


 てか、店員さんが入店間もない私の、本名と3サイズを既に知っているのは怖過ぎです。


接客サービスも行き過ぎると、ただの恐怖体験でしかないと、私は産まれて初めて知りました。


 隣を見ると織姫ココロちゃんが、案の定「はわ」っています。


「はわわわわわわ!!

 ……わ、わかりました!……ボ、ボク!……お胸が、たくさん成長するかもしれないので!!

 先行投資で、Iカップと、Jカップと、Kカップのブラジャー……買います!!」


 あ。マズいです。


 ココロちゃんが、店員さんに”洗脳”か”教育”を施されて、おそらく永遠に必要とならないであろう、「巨乳の神に選ばれし人々」用のブラジャーを買おうとしています。


 私の見立てでは、織姫ココロちゃんのお胸の成長は、Aの段階で既にストップしていると思います。

非常に残念な事ですが——彼女がB以上のお胸を獲得する為には来世を待たないといけないと思います。


 ですので、私は、店員さん達を制止する為に、かなり焦って叫んでしまいます。——ココロちゃんが無駄なブラジャーを買って、悲しむ事になってはいけませんから。


「や、やめて下さい!!

 ココにゃんのお胸は成長なんてしません!!彼女のお胸は、永遠にこのままが良いんです!!

 てか、見て分からないんですか??

彼女のお胸は、小さくても、こんなにも可愛くて!可憐で!素敵なんですよ!?

 それに、巨乳がおっぱいの全てではありません!!

微乳はステータスであり、希少価値であり、絶対不可侵の”聖なるいただき”なんです!!

 ですから、安易にココにゃんの胸を大きくしようとしないで下さい!!

ちっぱいは可愛いんです!!

ちっぱいは最高なんですーーー!!!」


 と私が、プロデューサーさんもドン引きするぐらいの変態発言を絶叫する事で、店の中に完全な平和と静寂が訪れました。


 一方で、急に冷静になった私の背中には、冷や汗が一筋、流れます。


 ……こういう状況こそ「ヤバみ」とか「黒歴史」とかって言うんでしょうね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る