第4話 インターネットの悪意
「こんにちはー!今日は有名コスプレイヤー『アキ』ちゃんとのコラボ動画でーす!」
「よ、よろしく……」
「今日は新作ドラックストアコスメの紹介です!」
アキは声を上げた。つまり……男の声を。写真では加工していてわからなかった男性の部分が動画でわかるようになる。
視聴者たちは驚いていた。けれども私たちは気にせず楽しそうにメイクを続ける。
そんな動画を何本も上げているうちに、もともとあった知名度はさらに上がっていく。
『え、アキが男だなんて…オレ、女だと思ってたからフォローしてたんだけどな』
『リコちゃんの動画好きだったのに、コスプレ男とかキモい!』
『男と付き合ってんのかよ?アピールお疲れ様ですー』
『リコも何か言えよ、だんまり決めてないで』
『女装見に来たわけじゃないんで、コラボやめてください』
たくさんのネガティブな言葉の嵐。ネットは私の自由な表現の場所だと思っていたけれど。それは違っていた。
『みんなが求める、常識的なもの』なら自由に表現できるところだった。
そして、その常識というのは、結局あの辛い思いをした教室と変わらないのだ……私は、それが嫌で動画を作っていたから。何度も何度も涙が浮かんではこぼれていく。もういっそ、アカウントを消してしまおう。
そう思って、ネットでの活動を辞めることをアキに相談した。放課後私の部屋でそのことを話すと、アキはしばらく黙って、
「お前がそう……言うなら」
とだけつぶやき、一人で壁をじっと見つめた。
「じゃあ……最後の動画、あげるから。そこで待っててね。終わったら打ち上げにあのカフェ行こうよ。1か月くらいだったけど、すごく楽しかったよ」
「……ああ……」
カチリ、と動画撮影のためにスマートフォンを用意する。
「あの……今日は生放送になります。今日で私の活動はやめる予定です。皆さんありがとうございました。私とアキちゃんは付き合ってません。メイク仲間です……そう言っても信じない人は信じないと思いますけど。実際ただの友達です。また、アキちゃんにメイクを辞めろって言う人がいるけれど。そういうことはやめてください。あなたが嫌いでも、それを人に押し付けないでください。私はそういう人がいてアキちゃんが苦しむのは見てられません。かといって、批判されたからってアキちゃんを切り捨てて動画を作るつもりはないです。それはとっても恥ずかしいことだと思うから。それならと、もうネットで活動はやめます。私とアキちゃんはこれからも友達として、メイクやくだらない好きな物の話をしていきます。ネットにあげなくてもそのことは変わりません。今までありがとうございました……」
ああ……あとさようならを言えば……もう私の活動は終わる。でもいいんだ。現実でも同じ悩みを持つ友達ができたんだから。
「さような……『待てよ!』」
カメラの画面に突然アキが入ってきた。どうして?それに制服を着ているし、恰好も普段の男のまんまだ。誰が見ているかわからないのに、どうして……そこまでして。
「俺は……しっかりと自分をもってる『リコ』が好きだ……!だから、アカウントは消さないでくれ……!」
「えっ、え?えええ……?!」
突然の告白に、顔が真っ赤になる。リアルチャットコメントも
『え!ガチ告白?』
『わ、すごいイケメンじゃん』
『おい!リアルタイム告白?』
『やばーい!ネタじゃなくマジ!?』
と一気に書き込みが増える。えっ、ど、どうしたら……どうしたらいいのだろう……頭が真っ白でパニック状態だ。それなのにアキはぐいぐい私に迫ってくる。
「どうだ?お前は好きなのか、嫌いなのか?はっきりしてくれ」
顔が近い……!真剣な表情、息がかかりそうなほどに……そして、私が出た精いっぱいの言葉は、
「ば、バカー!!!カメラ回ってるところで!言うな!!!」
と張り手とともに返すことで精いっぱいだった。
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