第2話 女装男子爆誕

 「アキちゃん!お待たせ!」


 そのカフェはボックス席が個室になっていて、周りからは見えないようになっていた。周りを気にせず会話できるし、大人っぽい雰囲気だし、メニューはかわいいしで最高だな。


 そう思って席について目の前の光景に目を丸くした。


 「は……?山田君じゃない?なんで?」


 そこにいたのはクラスで私をバカにしていた、幼馴染の山田君だった。



 「え、やっぱ……わかる?」

 「いや、わかるけど。え?なに?アキちゃんは?」


 マスクして顔を隠しているけれど、十数年見慣れた相手を見間違うわけがない。もしかして、バレないとでも思ったんだろうか。


 「なに?私のことバカにしてるなら、あんたのお母さんに言うからねこのこと」

 「え!親、親はちょっと勘弁してくれないかな……これナイショにしてるからさ……」


そう言って、山田君はうえに羽織っていただぼだぼのパーカーを脱いだ。……その下は、女の子の可愛いキャミソールだった。


 「えっ?どういうこと?」


 混乱する私の前で、山田君はマスクをとり、持っていたバックからかつらを取り出した。素早くかぶってアイラインを引いたら……そこには、正真正銘アキちゃんがいた。


 「あのさ……ずっと言おうと思ってたんだけど……タイミングなくてさ……ゴメン。だまってて」

 「そうだよ!色々ぺらぺらしゃべっちゃってたよ!どんだけ恥ずかしい気持ちかわかる?」


 私は顔が真っ赤になる。

 ニキビで悩んでる、みたいな簡単なものから、クラスで居心地が悪くて将来は勉強のために都会の学校に受験しようと考えている。みたいな真剣な夢まで語ってしまっていたのだ。


 「本当に……すまん。だますつもりなかったんだ。本当、最初はメイクの勉強のためにネットで検索したらお前と同じ名前のヤツがいるなって。その程度で仲良くなったんだ。だんだんと、俺の学校と同じ日に体育祭をしてるなとかで疑問に思って。ある日、お前が家の中の写真を上げて、そのカーテンの柄でお前だって分かった」


 アキ……山田アキラは自分のリアルの情報はほとんど話してこなかった。それで私はずっと気づかなかったんだろう。まさか幼馴染が女装するなんて思わないし。


 「お前の相談事、バカにしてるわけじゃないよ。むしろ尊敬してる。お前がクラスで女装してるヤツのこと、自慢げに話してただろ?『なりたい自分になる努力をして勉強と練習して体を作って衣装を用意して。これはアートなんだ』って。俺、それを聞いてさ。すげーうれしかったんだよ。けど、口に出たのはお前を茶す言葉で……俺、その日の夜、家に帰ってめちゃくちゃ泣けてきてさ。もうこれ以上我慢できない、って思ったんだ。カフェは個室だって窓から見て知ってたし、いつか来てみたかったから……」


 そうだ、田舎の男子高校生だ。おしゃれでかわいい女性向けの店に一人で入ることもできなくて、友達も誘えなくて苦しんでたんだ。


 ただ店に入る。それすらできなかった苦しさを今気づかされた。そして、それはあの時、苦笑いして苦しんだ私と同じなんだってわかった。


 お互いかわいいものが好きで、かわいいものになりたくて、表現したくて。だましてたんじゃない、『言えなかったんだ』。


 それは私も同じだ、ネットでど田舎でダサい高校生してますって言えない私。学校でも周りに合わせて笑って文句も言えない私。


 「今日会いに来たのはさ……謝りたかったから。そしてさ、直接色々教えてほしいなって……虫のいい話かもしれないけどさ」

「バカ……謝ることなんか何があるわけ?じゃ、今日からもっと『友達』だね、アキ」


 私は、照れて顔が真っ赤だった。少し泣いてたかもしれない。

 けれど、アキのほうがもっと顔をぐちゃぐちゃだったから、オシャレの先輩の威厳は保てたはず……だ。

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