A-side:2-3
嫌な夢を見た。あの時のシンバルの夢……何故そんな夢を見たのかは、目を覚ましてから視界に入る光景によって理解させられる。
「お姉さん、ちょっと」
警察官一人、私の前に立っている。
「新宿?」
新宿――そう、新宿だ。目の前にラーメン二郎がある。小滝橋だったらこの構図はあり得ない。つまり今私は歌舞伎町の交番の近くに居て――だから。だから……ああ!
「警察!」
だから警察が居るんだ。私は理解した。深酒の結果生じた記憶の欠落は私の思考を一時遮断し、まるでアブダクションされた後のように私に状況考察を迫る。
ラーメン二郎歌舞伎町店は、歌舞伎町交番すぐ近くにある。……私の脳にある記憶をかき集めたところ、高円寺で飲んだ三軒目の居酒屋で矢野が帰り、飲み足りないと思った私は一人大久保へ行き何らかの店で酒を飲み、そこから、そこからだ! 私の記憶は途切れている。最後の記憶と言えば、マトモに歩けないのででんぐり返しでこのまま錦糸町にある家まで帰ろうと決意した瞬間である。アラサーとは言えまだまだ若い女の身空で大久保の裏路地に居るのでは危ないと無意識に判断したのか、行き着いた先がこの新宿歌舞伎町交番前だったのだ。以上。了解――推理完了。Q.E.D。
「あ、あ~……お疲れさまです」
私の思考にほんの少しだけ残されていた社会性が吐き出したその一言を聞いても、警察官は笑顔一つ零さない。
「お姉さんまだ若いんだから気をつけてよ。もう始発出てるし、さっさと帰りな?」
「あの~……あのう」
「何?」
「しじみの味噌汁……」
「警察はコンビニじゃないよ!」
「じゃあ、ブラックニッカ……」
「本当に酒飲みなんだね、お姉さん!」
「あえ?」
「大酒飲みだって言ってるの!」
「ああ? ああ! うん、そう。私、大酒飲み。そうです」
「早く帰りな。家はどこ?」
「え~、え~……錦糸町」
「結構遠いね!」
「そうです……遠いです」
「はよ帰んな!」
「そうですね~……そうします」
言って私は立とうとするが、ふらついていて上手く立てない。態勢を崩しそうになったところで、警察官が手を貸してくれた。
「ありがとうございます~……」
「お姉さんねえ……酒は程々にしなさい」
「そうですね。これからは、そういう風にします~……」
ところで。そう言って私は警察官に質問をする。
「ブラックニッカ、どこで売ってます?」
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