八瀬女

毎日ある夢を見る。自分で命を絶たなければ覚めない夢を。

 ただ正直言えば、この夢は途中までは楽しい。夢の中なので何をしても、誰にも何にも言われない。ゲームをしても、散歩をしても、人を殴っても何も言われない。

 けれど最近はどうにもおかしい。見たことの無い人が俺の前に現れる。大人の女と男、あと小さな子供。うるさいけれど殴れば静かになるから、そこまで気にしていない。自分の夢をコントロールできないことを恥ずかしく思う。

 取り敢えず、最近の夢の出来事を書いてみる。


―1月13日―

 仕事から帰ってすぐに寝た。俺の仕事はかなりブラックでさっさと辞めてやりたいが、俺がいなくなると仕事が回らない。もう少しだけ我慢しようと思う。

 夢の中に上司が出てきた。自分は大して仕事が出来ないくせに、人に文句ばかり言って、若い女の子にはセクハラばかりする、どうしようもない上司だ。

 取り敢えず顔を見ていたら腹が立ったので殴った。上司は目を覚ませ正気になれ、と言っていたが今覚めてもストレス発散にならないので、まだ死なない。

 飽きてきたので最近の俺のブームをする。それは、昔にタイムスリップすることだ。けれど何故か昔の人もスマホを握っている。あんまり、のめり込めないので止めたいが、どうしようも無いので最近は我慢している。

 俺はよく好きな小説家に会いに行く。今日は夏目漱石に会いに行った。『こころ』を書いているところに行きたかったが、書いていたのは『夢十夜』だった。残念だったが『夢十夜』も好きなので、大人しく横で執筆しているところを見ていた。

 今日はもう満足したので、車に轢かれてみた。そろそろ全ての死に方を試したので、死ぬのにも飽きてきた。明日は森鴎外の『高瀬舟』を執筆しているところを見に行きたい。


―4月28日―

 今日は散歩に行ってきた。かなり長い距離だったし、久々の運動だったから足がパンパンになっている。シャワーを浴び、歯を磨いて眠りについた。

 今日の夢では俺は鼠だった。動物になる事は良くある。鼠になったのも、おそらく6回目くらいだ。数ある動物の中から、何故こんなにも鼠になるのか分からないが、多分俺が小心者だから体も小さい鼠になるのだろう。

 仲間の鼠が外出を控えるように言われた。そんなことを言われても、俺は散歩になんか夢の中では出ていない。何を言っているのか分からないから、こいつは後で猫にでも食わせよう。

 鼠になった時は暇だ。スマホは弄れるが、そこまでハマれない。だから外に出て夕飯を取りに行こうと思う。外国は行ったことがないので分からないが、何となくイギリスな感じがする。初めての外国が鼠の状態で夢の中というのは、少し味気ないが仕方がない。

 外国人は街の観光客や学校くらいでしか見なかったが、ここまで多いとイケメン酔いしそうになる。

 レストランに入って夕飯の確保をする。最初は順調だったのだが、シェフに見つかってしまった。出来れば離して欲しいが無理そうだ。尻尾を掴まれ外にいた猫に喰われた。自分自身の体が無くなる感覚を噛み締めながら死んだ。


―7月7日―

 とにかく眠たい。今日は何もしてないのに、ただただ眠い。今日は何もせずに眠りに着く。

 今日は何だか視点が高い。どうやら身長180cmのイケメンになっている。横から声が聞こえたので見てみると、小さな子供がいる。俺のことをパパと呼んでいるので、俺はこの子のお父さんらしい。なんだか可愛いのでキャンプに連れて行く。

 キャンプをしていると雨が降り出した。不幸なことに俺と子供は外で散歩をしていた。しかも川沿いだった。川はみるみる増水していった。逃げたいが子供が邪魔だし、足元がおぼつかないので逃げづらい。仕方がないから子供は川に捨てて一人で逃げた。おかげで川から離れられたが、桜に見惚れている間に川の水に巻き込まれて死んだ。溺死が今まで経験してきた死に方で一番辛いけど、7月の桜は趣があったので、最後に見れて良かった。


―11月8日―

 今日は誕生日だ。自分用のケーキを買ってきてパーティを開いた。何故か母親が入れてくれた飲み物を飲んでからずっと眠い。

 気付いたら眠ってしまっていたみたいだ。もう少し楽しみたかったが、別に夢でパーティをまた開けばいいので気にしない。

 取り敢えず中学校の友達と高校の友達を呼んでみた。久しぶりに会った。みんな変わっていなかったが、一つだけ問題があった。中学と高校を通して俺をいじめていた奴がいた。呼んだ覚えは無いが丁度良いのでいじめてみた。ついでに、そいつを呼んだ奴もいじめた。俺の夢なので、みんな俺に賛同してくれて、一緒にいじめてくれる。正直気分が良かった。あの時のこいつは、こんな気持ちだったんだなと思うと、また腹が立ってきた。

 すると、二人組が何をやっているんだと聞いてきた。俺はただやり返していただけで、悪いことはしていないのに文句を言われて腹が立ったので、そいつらもいじめた。しばらく殴っていると動かなくなったので、家に放置して、俺は疲れたから死んで目を覚ました。今日は四肢をノコギリで切った。


―12月32日―

 夢の中で家に警察が来た。家宅捜索らしい。家には前にいじめた奴と、それを止めた二人組の死体があるので、何となく嫌だったが、夢なので了承した。当たり前だが連行された。留置所は何もなく暇だったが、死ねないので夢から覚められない。

 気づけば俺は起訴されて、裁判所で判決を下された。死ねば関係ないので覚えていない。

 そういえば、留置所で訳の分からないことを言われた。肉親を殺した気分はどうだと言われた。俺が殺したのは同級生のはずなのに、あいつは目が無いのかと思った。


―12月33日―

 昨日は一睡もできなかった。気づけば33日になっていた。早く死にたい。死んで夢から覚めて、家族に会いたい。そういえば長い間家族と一言も交わしていない。俺の家族構成は両親、俺、弟の4人兄弟だ。弟はまだ2歳と小さい。両親同士も仲が良かった。俺ともそこまで悪いわけでは無いはずだ。家族に手紙でも出そうと思ったが、看守に説明すると変な顔をされた。気分が悪くなったので辞めた。


―12月45日―

 家族が一度も面会に来てくれない。明日にでも看守に聞いてみようと思う。


―12月46日―

 看守はお前が殺しただろうと言った。


―12月47日―

 少しずつ思い出してきた。俺の上司はどうなったのか看守に聞いてみた。重体で最近目を覚ましたが、左半身がよく効かないらしい。


―12月48日―

 こんなものは悪い夢に違いない。

 死ねば夢は覚める。

 服を裂いて、ロープにして、首を括った。

 起きたら何をしようか。

 皆んなでテーブルを囲んでご飯を食べたい。

 腹立つ上司だったが一緒に吸ったタバコは美味しかった。

 弟にはオモチャを買おう。

 母の日も父の日もずっと祝っていない。

 菊の花でも送ろう。

 そうやって俺は死んだ。二度と目は覚めなかった。

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