6
全体練習が始まり、ストレッチやランニングのあとで、ミニゲームが行われた。それぞれグリーンとピンク色のビブスを着た二組に分かれ、四対四で試合を行う。
レインはピンクのビブスを着て、最初のミニゲームをタッチライン際で観戦していた。少人数で行うミニゲームは、一人のボールのタッチ数を増やし、技術力を高め、戦術的な動きを確認するために行われるものだ。
「ナイジェル! スターンの動きをよく見るんだ!」
ハーツが指示を飛ばしている。ピンクのビブスを着ているナイジェル・グラントは、同じセンターバックコンビを形成しているスターンの動きに合わせて、引きさがる。
グリーンのビブスを着たテレンスがボールをサイドへ回し、ゲイリーがドリブルをする。そこへピンク組のヴェールが華麗に足を繰り出して、ボールをカット。転がったボールをアレックスが取り、フェイントをかけて、同じグリーン組のバートンへボールを繋げる。
「もっと互いにプレスをかけるんだ!」
ハーツは激を飛ばす。
監督の叫びに促されるように、ボールを持った相手へ、プレッシングをかける動きが活発になる。
レインは口を結んで眺めていた。ミニゲーム全体を視界に入れながら、無意識にアレックスの動きに反応していた。
――さっきのって、何だったんだろう。
練習に集中しなければならないのだが、どうしても気になってしまう。
レインはこっそりと、同じタッチライン際に立ってミニゲームを見ているギルフォードを盗み見る。
――ギルに何か言われたのかな?
クラブのチームメイトであるフランス人選手ヴィクトール・ヴュレルをして「チームメイトをナーバスにさせることに関しては、世界トップクラス」と言わしめるギルフォードだ。実際、ナーバスになった元チームメイトたちもいたらしい。
――でも、ギルがアレックスに何を言うんだろう。
うーんと首をひねる。下手くそとでも罵られたのかなと考え込んでいると、足元にボールが転がってきた。
レインは足でボールを止める。アレックスが走ってきた。
「はい」
拾い上げて手渡すと、アレックスも両手で受け取った。
「ありがとう」
普通に礼を言って、ライン際からボールを投げ入れる。ボールはゲイリーへ渡った。
「さあ! あと五分で交代だ!」
ハーツは両手を叩く。選手たちのボールの奪い合いが活発になる。
――オレの考え過ぎだよね。
当のアレックスはミニゲームに集中している。
レインは頭の中でモヤモヤしているものを捨てるように、軽く首を左右に曲げた。自分も意識をサッカーに傾けようと思った。その場で腕を上へ伸ばし、足の膝を折り曲げる。ミニゲームの前なので、簡単に体を動かす。
「五分経過! メンバー交代!」
やがて、ストップウォッチで時間を計っていたブリストルコーチが告げ、次にミニゲームを行う選手たちの名前を呼ぶ。レインも呼ばれ、気合十分に腕を振り回しながら、グラウンドに入る。
「転ぶなよ、坊主!」
入れ替わる際にゲイリーがレインの鼻をぎゅっと摘んで、背中を叩いていった。
「転ばないよ!」
鼻をさすりながら言い返し、ピンク色のビブス組に駆け寄る。同じ組にはギルフォードとバートンがいて、バートンの足元にはボールが置かれてある。
コーチがホイッスルを鳴らした。
バートンはボールをギルフォードへ回す。ギルフォードはすぐにレインへボールを蹴る。レインは軽く足で止め、隣にいるベンジャミン・ライトへ蹴って渡す。
「早いパス回しをするんだ!」
ハーツが指示をする。
「パスをカットして、ボールを繋げる! 正確に、早く!」
グリーンのビブスを着たジュード・モーリスがパスカットし、同じ組のバリー・ホーンへスルーパスを送る。ホーンも素早くゲーリック・バーションへパスを繋げる。
ミニゲームではボールの奪い合いが何度も繰り返され、選手たちのボールタッチ数をあげる。レインもアレックスの件はすっかり忘れて、ゲームに集中した。
「よし! 今から互いにゴールを狙って打つんだ!」
両端にはゴールポストが置かれていて、それぞれキーパーが立っていた。監督の指示で、様子を眺めていたキーパーたちもミニゲームに参入する。
レインはちらっとゴールポストを見た。ボールはギルフォードの足に戻って、同じようにゴールポストを振り返った。
よし! とレインは駆けだす。それをわかっていたように、ギルフォードはボールを蹴って合わせる。
レインは足元にきたボールを、思いっきり蹴った。ボールは少し歪んで飛んでいき、ゴールポストに当たった。
「あー!」
両手で頭を抱える。ゴールネットを狙っていたのだが、どうも足の向きが悪かったようだ。
「ちゃんと前を見るんだ! レイン!」
ハーツが指先を伸ばして、指摘する。
「ただ、ボールを打てばいいんじゃない!」
「はい!」
レインは素直に返事をする。
「惜しかったね」
バートンがレインの頭を軽く撫でる。
「一応、狙ったんだけどさ」
少々悔しそうにレインはぼやく。
「シュートって、そういうものだよ」
バートンは肩をすくめた。
キーパーのトレヴァー・アンダーソンがボールを投げる。モーリスが足でうまくキャッチして、即座にバリーへ繋げる。今度はバリーが俊足を生かして走り、シュートする。
ボールはまっすぐにゴールネットに吸い込まれた。
「その調子だ!」
ハーツは手を叩いて、周囲を鼓舞する。
「サッカーはゴールが決まらないと勝てないスポーツだ! とにかくゴールを決めて、我々がユーロに出場するんだ!」
その言葉に後押しされるように、練習は熱を帯びていった。
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