Edith und Dietrich

エーディットお嬢様と使用人のディートリヒ



#1 Erwachsener

 

「エーディット、カッフェー飲むか?」

「ミルクが入っているなら考えるわ」

「ああ、お嬢ちゃまのご所望は砂糖の入ったミルヒだったな」

「ディートリヒ、あなたわざと聞いたわね。いじわるな人」


ほんとうは、早く貴女と一緒にカッフェーを飲みたいんだ。

ミルヒは抜きで、でもきっと、砂糖はたくさん入れてしまうんだろう。



#2  Tanabata Sternenschau


「一体どれ程の願い事があるっていうんだい、お嬢」


願いの数に縛りはなかろうが、人間は相変わらず欲に塗れているものだと考えると、ディートリヒはどうも「願い事」に対して嫌悪感を抱く。


「あなたの分の短冊も書いてあげたわ。ディートったらちっとも短冊を書こうとしないんだもの」


溜息をつくエーディットは呆れ顔だ。


「それで?俺の願い事はわかったのかい?お嬢」

「『俺の願い事が叶いますように』」


ディートリヒは一瞬目を丸くして、それから吹き出すように笑った。

それから二人で願い事が書かれた短冊を、一つずつ笹に下げていく。枝一杯の願い事の書かれた短冊を見ると、不思議と欲への嫌悪は消えていた。そうだ、余っていた短冊に、何か書いてやろう。

ほどんどやけくそだった。


「そうよ。はじめから素直にお願いすればいいのよ」

「まったく、人間は欲深いったらありゃしない」

「あたりまえじゃない!ほんとうは叶わないことばっかりなんだもの!」


エーディットは得意げに笑う。


「・・・・・・で、あなたは何を書いたの?」

「『エーディットの願い事が叶いますように』」

「私のまねっこじゃないの」



#3 In den Sommerferien


ひまわりの花が咲いている。

目が眩むような真っ黄色を背にして、エーディットははしゃぐ。背の高いひまわりがあつまり、影をつくる。茎のあいだからはちらちらと陽の光が差し込んできて、ディートリヒは薄く瞼を閉じた。


「太陽よ!こんなにたくさん!」


白い光を背中から受けながら、エーディットが笑った。

たいさんの太陽を背に、貴女は美しく輝いていた―――



「ディート、ディート、帽子をかぶってと言ったじゃないか」


目を開けると、ショウがバケツを片手にディートリヒの顔を覗き込んでいた。ディートリヒの体は庭で横たわっており、そのうえ全身ずぶ濡れだった。


「太陽にあてられていた」


水をかけた犯人はショウだった。


「熱射病、か」


上半身を起こして、周りのひまわりを見上げた。


『太陽よ!』


エーディットの嬉しそうな声が、まだ頭に響いていた。ひまわりが好きな彼女は毎年夏を楽しみにしていた。

ああ、今年もまたきれいに咲いているじゃあないか、お嬢。


「こら、ディートリヒ。聞いているかい?いい歳なんだから帽子くらいかぶりなさい」

「わかってるよ」 


ディートリヒは立ち上がり、顔に落ちてくる水滴を振り払いながら不貞腐れた返事をした。


ねぇ、お嬢。

貴女はいったいどこまでひまわりを探しに行ったんだい?

一緒に見に行きたいと、言っていたじゃあないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る