Edith und Dietrich
エーディットお嬢様と使用人のディートリヒ
#1 Erwachsener
「エーディット、カッフェー飲むか?」
「ミルクが入っているなら考えるわ」
「ああ、お嬢ちゃまのご所望は砂糖の入ったミルヒだったな」
「ディートリヒ、あなたわざと聞いたわね。いじわるな人」
ほんとうは、早く貴女と一緒にカッフェーを飲みたいんだ。
ミルヒは抜きで、でもきっと、砂糖はたくさん入れてしまうんだろう。
*
#2 Tanabata Sternenschau
「一体どれ程の願い事があるっていうんだい、お嬢」
願いの数に縛りはなかろうが、人間は相変わらず欲に塗れているものだと考えると、ディートリヒはどうも「願い事」に対して嫌悪感を抱く。
「あなたの分の短冊も書いてあげたわ。ディートったらちっとも短冊を書こうとしないんだもの」
溜息をつくエーディットは呆れ顔だ。
「それで?俺の願い事はわかったのかい?お嬢」
「『俺の願い事が叶いますように』」
ディートリヒは一瞬目を丸くして、それから吹き出すように笑った。
それから二人で願い事が書かれた短冊を、一つずつ笹に下げていく。枝一杯の願い事の書かれた短冊を見ると、不思議と欲への嫌悪は消えていた。そうだ、余っていた短冊に、何か書いてやろう。
ほどんどやけくそだった。
「そうよ。はじめから素直にお願いすればいいのよ」
「まったく、人間は欲深いったらありゃしない」
「あたりまえじゃない!ほんとうは叶わないことばっかりなんだもの!」
エーディットは得意げに笑う。
「・・・・・・で、あなたは何を書いたの?」
「『エーディットの願い事が叶いますように』」
「私のまねっこじゃないの」
*
#3 In den Sommerferien
ひまわりの花が咲いている。
目が眩むような真っ黄色を背にして、エーディットははしゃぐ。背の高いひまわりがあつまり、影をつくる。茎のあいだからはちらちらと陽の光が差し込んできて、ディートリヒは薄く瞼を閉じた。
「太陽よ!こんなにたくさん!」
白い光を背中から受けながら、エーディットが笑った。
たいさんの太陽を背に、貴女は美しく輝いていた―――
「ディート、ディート、帽子をかぶってと言ったじゃないか」
目を開けると、ショウがバケツを片手にディートリヒの顔を覗き込んでいた。ディートリヒの体は庭で横たわっており、そのうえ全身ずぶ濡れだった。
「太陽にあてられていた」
水をかけた犯人はショウだった。
「熱射病、か」
上半身を起こして、周りのひまわりを見上げた。
『太陽よ!』
エーディットの嬉しそうな声が、まだ頭に響いていた。ひまわりが好きな彼女は毎年夏を楽しみにしていた。
ああ、今年もまたきれいに咲いているじゃあないか、お嬢。
「こら、ディートリヒ。聞いているかい?いい歳なんだから帽子くらいかぶりなさい」
「わかってるよ」
ディートリヒは立ち上がり、顔に落ちてくる水滴を振り払いながら不貞腐れた返事をした。
ねぇ、お嬢。
貴女はいったいどこまでひまわりを探しに行ったんだい?
一緒に見に行きたいと、言っていたじゃあないか。
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