第16話 涙と土下座

「それじゃ…行ってきます…」


「…はい」


そう言って紫織は、車から降りて店の中に入って行った。


こんな事になるとは、思っていなかった。


家から買い物に出掛けて、

店に行くまでの車内も楽しげな雰囲気だったのに……


星夜自身原因が自分にあるのはわかっている。


店での食品の値段の

自分とは違う価値観に触れ

それに困惑し嫉妬し自分が惨めになり

紫織さんに冷たい態度をとってしまった。


その結果紫織さんが店から戻ってきた

車内は、無言になり気まずい雰囲気になり

紫織さんもその雰囲気を感じ取り

テンションが見るからに下がってしまっていた。


星夜は、ハンドルに頭を当てながら落ち込む。


「……ハァ…何やってんだろ俺

 俺が貧乏人なだけで紫織さんは、

 何も悪くないのに……」


…ハァ…とにかく謝ろう。

そう思いながら紫織さんが買い物を終えて出てきた所に視線を向ける。

       

         ・

         ・

         ・


「…あの…」


「…なに…?」


星夜は、自宅に向けて運転しながら

隣で俯いている紫織に話しかける。


「えっと…買い物それだけで

 よかったんですか?」


チラッと紫織が買ってきた袋を見る。

袋の大きさ的に

服が入っていそうになかった。


「…うん、あんまり買うと荷物になるから」


「…そうですか」


そう言って車内の会話が止む。


星夜は、紫織が戻って来てから

何度も謝ろうとしたがうまく会話ができず

謝ることができなかった。


「……っ……」


どうしようか考えていた星夜の耳に、

「…ぐすっ…」と言う泣き声が入る。


「紫織さん?」


紫織の方をチラリと見ると

大粒の涙をこぼす彼女の姿があった。


星夜は、急いで車を路肩に寄せ止める。


「…ごめんなさい」


「えっ何を…」


「ごめんなさいごめんなさい」


「えっどうしたんですか?

 落ち着いてください紫織さん」


その言葉は、彼女には届かずごめんなさいと

呟きつつ泣き続けている。


突然泣き出した紫織に星夜は、

どう対応すればいいのかわからない。


(泣きたいのは、俺のほう…いや違うな

 俺が泣かせてしまったんだ…なら)


『女の子を泣かせてしまったら

 誠心誠意謝りなさい』


星夜は、記憶の奥底に押し込んでいた記憶を

思い出した後

少し車を動かし安全な場所に移動した後

車から降りる。


「グスッ…グスッ…えっ……えっ?」


その予想外の行動に泣いていた紫織も困惑する。


「あっ…あの」


星夜は、車をぐるっと回り助手席の方に回りガチャっとドアを開ける。


紫織は、何を思ったかはわからないが

顔を青く染まる。


「あの…星夜くん…その」


星夜は、その言葉に返事を返さず

無言で立っている。


「グスッ…ごっごめ!?星夜…くん???」


紫織が謝罪の言葉を出し切る前に

膝を地面につけ…そして…


「すいませんでしたッーー!!」


星夜は、頭を地につけた。

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