第8話 貴方は、私の全て 《紫織視点》

「これ一応…停電した時用に懐中電灯です」


「うんありがとう」


星夜から懐中電灯を受け取る。


「あっ……そっそれじゃごゆっくり」


受け取る時、手が触れ合った事に

星夜くんは、驚きおどおどしながら

部屋を出て行った。


「ふふ…可愛い」


私は、微笑みながらお布団に寝っ転がり

うーと身体を伸ばす。


「ん〜不思議、ここ数日どうやって

 死のうかとかずっと考えていたのに

 今はそんなのどうでもよくなっちゃった」


今、頭にあるのは星夜くんの事だけ。


星夜くんは、料理はどんなのが好きで

どんな性格でどんな格好の

女の子が好きなのか

そんな事ばっかり考えてしまう。


ふふ昨日の私に言ったら信じられないでしょね。


蝶よ花よと育てられ

純白ゆえに汚されて、

全てに絶望し閉じこもり

家族に捨てられた愚かな女


「純白だったのは、

 何も見ようとしなかっただけ

 汚されたのは、

 警戒心なかっただけ

 家族に捨てられたのは…!?」


紫織の呟きは、雷の音にかき消される。


「ふっ酷い雨…でも…救いの雨」


古き良き日本家屋である星夜くんの家の

雨戸に激しい雨が打ち付ける。


この雨のおかげで私は、星夜くんに出会い

ずっと側に居られる。


紫織は、テレビの電源をつける。


『現在…この一帯に大雨洪水特別警報が

 発令されています。

 この一帯にお住まいの方は、

 自分の身の安全を第一に考え行動して下さい』


テレビから危険を知らせる声が聞こえる。


「…あの紫織さん」


「ん?星夜くんどうしたの?」


障子の外から星夜の声が聞こえる。


「少し出かけて来ますので

 留守番頼んでいいですか?」


「えっ?でも外は危険だよ」


紫織は、障子を開けて星夜を見る。

星夜は、カッパをすぐ出かける準備を整えていた。


「そうなんですけど、

 ちょっと近所の人の様子が気になるので

 見に行こうかと」


「電話じゃダメなの?」


「電話かからなかったんですよね

 避難所に行ってるのならいいですけど

 そうじゃなかったら…ね?」


そう言って苦笑いを浮かべる。


星夜くん…君は本当に優しいんだね。


「わかったわ…無事に帰って来てね」


大袈裟ですよと

笑いながら星夜は、家を出て行った。




「大袈裟じゃないわ

 貴方は、私の全てだから」

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