第3話

「よいしょ…紫織さんどうぞ」


星夜は、運転席に乗り込み助手席に置いてあった荷物を片付ける。


「…えっと」


紫織さんが何かを躊躇って

一向に軽トラに乗ろうとしない。


「どうしました?」


「あの乗っていいの?その…」


紫織は、倒れた拍子に汚れた自分の服を見せながら申し訳なさそうにこちらを見る。


(あぁ車が汚れるのを気にしているんだな

 そんな事気にしなくていいのに)


「俺なんていつも汚れた作業服で

 乗ってるので気にしなくていいですよ

 後で掃除すればいいんですから」

 

「…でも」


「んーならこうしましょう」

 

星夜は、上着の作業着を脱ぎTシャツ1枚になる。


「えっ?キャ///」


紫織は、突然脱ぎな出した星夜を見て

顔を真っ赤にして手で覆う。


「んっよし!紫織さんこれでいいでしょ」


「なっ何言ってるんですか?

 よくないです良くないです!!」


「えっ?これでいいと思うだけどな〜」


「なっ何を…ってあれ?」


紫織は、指の隙間から見た光景は、

助手席の座るところに作業着の上着が敷いてあり背もたれには、タオルがつけられていた。


「これだけすれば軽トラは、

 汚れないと思いますよ」


「…そうですね」


「どうしました?」


「…何でも」


「はぁ…わかりました。

 じゃまずは、自分の家に行きましょう

 このままじゃ風邪ひいちゃいますから」


「はい……家!?」

         ・

         ・

         ・


「紫織さん着きましたよ

 玄関に鍵がかかってないので勝手に

 入っていいですよ?」


星夜は、紫織を下ろす為に

車を玄関の前に止める。

幸いな事に雨は、一時的かもしれないが

止んでいた。


「…紫織さん?」


返事がない事を不審に思い隣を見ると

紫織さんが肌は、青白く震えていた。


「紫織さん!?大丈夫ですか!!」


「……大丈夫です」


どうやら長時間濡れた服を着ていたためか

体温が下がってしまった様だ。


(軽トラの暖房ガンガンつけたけど

 やっぱりダメだったか)


「とりあえず…紫織さん降りましょう?」


「えっと……はい」


星夜は、助手席の方に回り込み

手を差し出す。


紫織は、少し一瞬戸惑った後

「仕方ない…か」と小さく呟いた後


星夜の手を取り降りようとするが

体制を崩してしまう。


「キャ!!」


「おっと…大丈夫ですか?」


星夜倒れ込む紫織を優しく受け止め抱きしめる。


「うん…ありがとう」


紫織は、星夜の胸の中から顔を上げる

それにより紫織は、見上げる形になり

長い髪により隠れていた顔が見える。


「いいえ気にしないで下さい…ッ!!」


「どうしました?」


「いっいえ」


(かっ…可愛いッ!!)


紫織が顔を上げた事により

顔が至近距離になり

星夜は、咄嗟に顔を背ける。


流石に不自然過ぎたのだろう

紫織さんがこちらをジーと見ている。


その姿をチラッと見るが星夜は、

紫織の目を見た瞬間と不思議な感覚に陥る。


「星夜くん?」


「はっはい」


『もう一度聴くわ…どうしたの?』


「どうしたって…」


星夜は、本能的にこのまま見つめ合ったらダメだと思い視線を無理やり下げる。


「ん?……あっ…」


そして、それに釣られて視線を下げた紫織は、何かに気づきいた様で星夜から距離を取る。


そのおかげか謎の感覚から抜け出された

星夜だったが距離を取った紫織を見て

何か面倒臭い事態になった予感がした。


「あの紫織さ「ビクッ」」


話しかけただけなのに何故か警戒される。


(えっ何でそんなに警戒されてる?)


星夜は、訳もわからず困惑するが

紫織さんが胸の辺りを隠しながら

こちらを睨み付ける姿…いや


紫織さんの濡れて透けた服

…から見える黒い紐を見て、

答えに気づく。


「あっああ!!

 いやっ!?違います!!おれは、」


「じゃ…何でそんなに

 動揺してるんですか?」


「そっそれは…」


(隠キャだからだ!!)とは、

言える訳もなく星夜は、答えに困窮する。


(どうする…このままだと弱ってる女性を

 変な目で見ている変態だと思われる

 どうする…どうする)


「おっ俺は…」


「…俺は?」


「胸じゃなくて…太股派ですッ!!」


バンッッ!!ザザァァァ!!

星夜の告白と同時に雷がなり土砂降りの

雨が降り注ぐ。


「……最低」


紫織は、そう呟いて玄関に向かった。

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