第188話

 ハザマから戻って来るとみんなが俺に抱き着いた。


「フトシ君! お疲れ様です!」

「フトシ、ゆっくり休もう」

「フトシ君、お疲れ様」

「フトシ君、もう無理はしないでね」

「無事でよかったよお」

「一件落着です☆」


「一件落着なのか?」

「はい、日本はかなりいい方です☆」


 ネットを見ずにレギオンを倒す事だけに集中していた。

 そう言われると日本や世界がどうなったのか気になってしまう。


「世界は、日本は、どうなったんだ? 俺のやって来た事に、意味は、あったのか?」


「フトシ、今日くらいはゆっくり休もう」

「マイルームに行きましょう!」

「マイルーム、か、そうだな」


「その前に、街に戻りましょう。神殿はすぐに崩壊するわ」

「うん、戻ろう、街へ」


 俺は街に向かい、車に乗ると安心した。

 眠くなって背伸びをしようとした。


 横にいたユイとヒトミが俺を押さえた。


「眠ればいいのに」

「そうですよ、ゆっくりしましょう」

「悪い、しばらく、眠る」


 俺は、眠った。



 ドリーム2の近くで目が覚めた。

 車は止まっている、そうか、俺がぐっすり眠れるように、着いてもそっとしておいてくれたのか。


「あれ? ドリーム2の駐車場じゃなくて結構前で車が止まるんだな」


 車を降りて街を見ると建物が所々廃墟のようになっていた。

 歩いて前に進む。

 ドリーム1の建物が崩れて完全に廃墟になっていた。


「日本は、どう、なったんだ?」


 ゴウタさんが笑顔で手を振って出迎え、近づいた。

 そして俺に肩を置いた。


「犠牲は出たが、新しく発展しようとしている場所もある。まだまだ日本は捨てたもんじゃねえさ」


 ドリーム2を見ると、周りには畑が広がっている。

 トマトや、なす、キュウリが実っていた。

 水魔法の雨を浴びて輝いている。

 ドリーム2は無事だった。


 ドリーム2に入るとたくさんの人がいた。


「フトシ君! お疲れ様!」

「フトシ君、お帰り!」

「お疲れ様」

「今までありがとう!」


 人間は生きていける。

 ラグナロクは絶望ではないのかもしれない。

 そう思いながらドリーム2の中に入った。



 数日後、俺・ユイ・ヒトミは真夏の卒業式を迎えていた。

 体育館に生徒は3人だけ。

 少ない先生、ゴウタさん、そして俺の両親が卒業式を見守る。


 セミの鳴き声と温かい空気が心地いい。

 モンスターを倒して、途中からあまり高校には通っていなかった。

 体育館が懐かしく感じた。


 卒業式が終わるとヒトミが大きな声で言った。


「6人で結婚式です!」

「また!」

「また3人の結婚式をやるので私ももう一回やります!」


「いいんだけど、小さく、ひっそりとやろうな」


 ドリーム2で訓練を受け、前向きに生きていく人だけではない。


 モンスターに襲われて家を無くした人。

 政府に対してデモを行う人と反応は様々だ。

 中には「結婚式をやるくらいなら俺達を守れよ!」とか言ってきそうな人もいる。


「配慮はします!」


 結界が消えて世界が本来の姿に戻りつつある。

 世界の法則は変わり、モンスターが世界に出てくるようになった。

 ラグナロクが起きて日本にもモンスターが増えている。

 犠牲者は増えるだろう。


 でも、何故だろう?

 前より居心地がいい。

 自分の顔が笑顔な事に気づいた。

 俺は、おかしいのか?



 小学校の頃、不良グループに囲まれたあの時を思い出した。


『おーい! 踊ってみろよ!』


 しぶしぶブレイクダンスを踊ると蹴られた。

 笑いながら蹴られた。


『やめて! 痛い痛い!』


 不良グループは笑いながら俺を蹴って遊んだ。


 そうか、俺は、ふて腐れて、ダンスを辞めた。

 ここは居心地がいい、没頭しても何も言われない。

 人が良いんだ。


 久しぶりに空を見上げた。


 きれいな空、


 優しい空気、


 大空をはばたく鳥、


 この世界は、とてもきれいだ。


 END





 あとがき

 物語はこれで完結ですが、これ以降は蛇足の後日談が何話かあります。


 本作から少し後の作品がこっちです。

 ↓

 雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった

 https://kakuyomu.jp/works/16817330665987330978


 お読みいただければ嬉しいです。

 最後までお読みいただきありがとうございました。


 あ、それと、良いお年を(笑)




 


 

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