第178話
俺は毎日レギオンを倒した。
倒しても倒しても被害が増えていく。
ゼンさんやゴウタさんは新たにスキルに目覚めた希望者の訓練を引き受けた。
政府から戦闘訓練を受けて冒険者が多い地域に住めば生存率が上がるデータが出た。
政府を批判していた国民も大分意識が変わった。
昔のように守ってもらう時代ではなく自衛の時代になったのだ。
ヒトミには魔石を食べて貰い、魔法の弾丸を作って貰っている。
みんながレギオンとの戦い方に慣れてきた。
思いつくことは全部やった、神殿からハザマに入る以外は全部だ。
高校3年になり、学校に通わなくなり、レギオンを倒して魔石を食べ続けるがスキルに変化が無い。
能力値は上がるがスキルが進化しない。
俺のスキルならまとめてモンスターを倒せる。
俺は雑魚狩りが得意らしい。
ちまちまレギオンオスまで走り回って倒しに行くのはもやっとしていた、そのもやもやが募り、いらだちに変わり、神殿のハザマに行きたい想いに変わっていく。
そしてその思いは日に日に増していた。
日本のみんなを助けたいとかそういう想いよりもまとめてレギオンを倒したい想いが強いのだ。
多分俺はおかしいのかもしれない。
テレビをつけるとまたレギオンのニュースだ。
『村にレギオンが現れました。多数の被害が出たと思われますが、今回も被害者数は分かっていません』
テレビの画面で子供が泣いていた。
これはさすがに可愛そうだ。
……でもよく考えるとおかしい。
マスコミは政府の批判を促すような報道をしているが、問題の根っこは政府が緊急事態宣言を出して都市部に移住を促しているのにいまだに移住を拒む村の大人に責任があるように思う。
避難用の仮設受託は政府が用意している、それでもマスコミのコメンテーターは、『過疎地域をこのまま消滅させて予算を削減しようとしている』とか『仮設住宅の湿気が酷い』と散々だ。
日本には余裕が無い、限られた予算でみんなを生かす必要がある。
となれば、過疎地域の役所とか、そういう利権を村の消滅によって淘汰していく必要がある。
村の維持は東京なんかの都会から成長のリソースを吸い取ってばら撒くことで成立していた。
今政府は珍しく予算の削減を行って持続可能な運営を目指している、珍しくまともな事を言っている。
なんだろう、どこかで見た事が……ああ、そうか、マスコミはお金が無い親に『おもちゃ買って! 買って買って!』と駄々をこねる子供と同じだ。
しかも親に金が無い事を分かった上で騒いでいる分子供よりたちが悪い。
自分で出来る事をすればいいのに。
……自分で出来る事、俺が神殿のハザマに行く事か。
結局色々考えて、その結論にたどり着く。
他の事を考えていても最後はそこに行きつくのだ。
『出来るのにやらないのは卑怯だ』
それが結論だ。
神殿に行ってみよう。
どうするかはまだ決めていないけど、神殿と話をしてから決めよう。
神殿と対話をする為レイカさんの車に乗った。
「フトシ君、神殿が開くハザマに行きたいの? まだ世界中の誰も行った事が無いのよ? 無理してない?」
「まだ、分かりません。神殿と対話をしてみて、それで決めたいです」
「今分かっているのは、
ハザマを作るのも消滅させるにも7日かかる。
モンスターがどの程度発生するかはやってみないと分からない。
……自由に帰る事が出来なくなるのよ?」
神殿ハザマはざっくり言えばこちらの世界に侵攻しようとしていたモンスター側と同じ条件になる。
いつものハザマ狩りと違って気軽に出入り出来なくなるのだ。
「はい、対話をしてそれから決めます」
「分かったわ」
俺は神殿に到着し、配信を止めて貰い、集中して対話をした。
「神殿さん、もし僕がハザマに行くとしたら、日本に出てくるレギオンはどの程度減らせますか?」
「やってみなければ正確な数字は分かりません。ですが方法はあります。この神殿結界を世界から切り離し、日本だけに結界を張るよう再構築したとします。やってみなければ分かりませんが、ざっくり、被害を3割ほど軽減できる予想です、ですがそれはあくまで予想にすぎません」
日本だけに結界の範囲を絞っても予測は3割程度……十分じゃないか。
俺1人で日本の3割も減らせるなら、十分だ。
むしろ俺1人で3割も減らせる、十分多い。
「僕が死んでも、モンスターはこの世界に溢れませんよね?」
「フトシ君が死んだ場合、ハザマが消滅してレギオンは向こうの世界に戻ります」
いつも消滅させているハザマの逆バージョンか。
都合がいい。
「物資を補給したらハザマに行きたいです」
「結界で日本だけを守るように再構築しますか? ただし世界に溢れたモンスターは海を伝って日本に来るでしょう」
「日本の政府が決めるまで待ってほしいです」
「命を危険に晒してハザマに挑む戦士にしか決定権はありません」
日本だけを異世界から守っても他の国に出て来たモンスターが海から攻めてくる。
それでもいい、自分の国の事は自分でやる、それがいい。
それが自然だ。
多分、グローバル化された世界は終わろうとしている。
もっと言うとその地域の事は地域の力で回していくようになるだろう。
俺は世界から批判されるだろう、でも、しばらくハザマに籠るから直接何かを言われる事も無い。
自分で何もしないで口だけ出す世界の批判者は卑怯者だ。
みんながスキルに目覚めつつある今、皆を助けたい人は地道にモンスターを狩るか戦闘訓練を受けている。
無視する、卑怯者は無視でいい。
「日本だけを守るように結界を再構築してください」
「分かりました。結界再構築の用意をします。あなたがハザマに入った瞬間に結界は再構築されます」
レイカさんは色々な表情が入り混じったような顔で言った。
「……やっぱり、行くのね」
「はい、物資の補給をお願いします」
こうして、俺が神殿のハザマに行く準備が進んだ。
レイカさんが自分の首をかけて失敗の責任を取る事を決めた。
総理は結界の再構築と俺のハザマ狩りを世界に向けて配信する事を世界に公開して世界からバッシングを受けた。
だが日本のみんなから俺は歓迎されていた。
総理は……何をやってもバッシングされるのか。
出発の日、皆が見送りに来た。
スズメさんが俺の手を握る。
「帰ったら、結婚」
「分かりました。帰る事が出来たら結婚ですね」
「絶対、帰って来るって言って」
「……絶対に帰ってきます」
レイカさんが俺にキスをした。
「レイカ、さん」
「私は、フトシ君が帰ってきたら、モンスター省を辞めるつもりよ。私も、フトシ君と結婚したいわ」
「分かりました。まずは戻ってからですね」
ユズキさんが俺の手を握った。
「私も、帰ってきたら結婚したいよお」
「ユズキさんは、まだ話をした事があまりないので、お互いに話をしてから決めましょう」
「そ、そんなあ! 私だけ!」
「急に結婚しようと言われても、正直困惑しますよ」
「そ、そうだよね、帰ってきてね?」
「……はい」
「私だけ結婚が決まってないかあ」
「まずは、戻ってからです」
「そうだねえ。戻ってから、話をしようね」
俺はその日、世界で初めてハザマ神殿に行く。
俺はその日、ファーストペンギンになる決意をした。
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