第150話

 特級のみんなと一緒に送別会を参加した。

 緊張していたシンさんを誘い、最後に写真撮影と握手をしてもらうよう言うとみんな快く引き受けてくれた。


 これで特級パーティーは4つから2つになる。


 Tレックス→海外に進出

 4本の牙→引退

 残ったのはチュンチュンジャンプと7本の矢だけだ。


 4本の牙のリーダー、ソウガさんはお酒を飲みながら独り言のように言った。


「年には勝てない」


 シンさんはそれを聞いて号泣していた。

 俺は、思わず声を出した。


「ソウガさん、Tレックスは4本の牙の牙をイメージして名をつけました。7本の矢も4本から取って名をつけています。4本の牙は後に続く特級を生み出しました。4本の牙は日本の冒険者の見本になっています。4本の牙は影響力があるんですよ」

「そうかねえ」


「そうですよ。ニュースで大きく取り上げられます」


 ハンマさんも頷いた。


「全くの同意だが、チュンチュンジャンプの俺達だけリスペクトしてないみたいになってしまうな」


 皆が笑った。


「だが、俺やスズメだって4本の牙を見て育った。その動きや、特に足さばきは参考にしていた。俺だって4本の牙は凄いと思ってるんだ」


 シンさんはずっと泣いている。


「俺はおっさんになってしまったが、次の世代が育っている」


 ソウガさんが俺を見た。


「は、はははは、レンはブルーサンダーで一気に強くなりましたよね。俺なんて砦が進化した程度で、本当にそれだけなんですよ」


 レイカさんが目を見開いた。


「フトシ君、進化が終わったのよね? どんなスキルになったの?」

「いやあ、ただ砦が城に進化しただけですよ」

「魔王城じゃなくてか?」

「城です」


「能力はどう変わったの?」

「ただ、防衛施設が多少強くなっただけで代り映えしませんよ。ああ、そうそう、城の魔法陣を出すと、そこを中心に大きな魔法陣を展開出来ます。範囲内のハザマを侵食して城の中に取り込んだり、ハザマを消して中にいるモンスターを出したりできる程度です。刺身がうまいですよね。ご飯が進みます」


「……フトシ君、無理強いはしないけど、もし良かったらハザマ施設を閉めに行きましょう」

「え? え?」


 俺はレイカさんに連れられてハザマ施設に向かった。


「急にどうしたんですか?」

「今中小型のハザマ施設がぽつぽつと経営破綻し始めているわ。フトシ君の能力があればハザマを即消滅させられるかもしれないの。フトシ君の能力は数少ない召喚系の中でも特殊よ。需要は高いわ」


「分かりました。すぐにハザマを消します」



 ハザマ施設に着くと冒険者が地道にハザマを消し、入り口を守っていた。

 俺が呼ばれた理由が分かった、コストをかけすぎている。

 冒険者を呼べば依頼料がかかる、しかも経営破綻をしたハザマ施設は税金を使って処理が行われる。

 巡り巡ってこのコストは国民が支払う。


 しかも国民の一部は何かある度に政府やモンスター省を批判する。


 レイカさんが配信を始めた。

 俺がハザマを消せることをみんなに分かってもらうための動画か。

 色々なクレームを全部『有事』で潰すためのものだ。


「まずは1つだけハザマを侵食して城に移動できる?」

「はい」


 俺は城の魔法陣を出現させると第一階層にハザマの魔法陣を移動させた。


「次は1つだけハザマを消して」

「消すとモンスターが出てきますよ」

「いいわ。すぐに金棒で倒して」


「はい」


 俺はゴーレムのハザマを侵食してハザマの魔法陣を消した。

 ゴーレム4体が現れるが金棒を伸ばして瞬殺した。


「次は城の中でハザマの魔法陣を消すことは出来る?」

「はい」


 俺は城に入ってハザマの魔法陣を消した。

 するとスケルトンが出て来て第二階層の矢の道で矢を受けて倒れた。


「今度はフトシ君のペースでハザマの魔法陣を第一階層に移動させて殲滅出来る?」

「はい」


 俺は城の外に出てハザマを侵食した。


「城の中だと浸食出来ないの?」

「いえ、出来ますが、外にいた方が早く浸食できる感じがします」


 すべてのハザマを第一階層に取り込んで、その後浸食して出て来たモンスターをすべてを倒した。


「早い!フトシ君、今から経営破綻しそうなハザマをすべて侵食したいわ。無料でお願いできる? 当然ドロップ品はフトシ君の物、これでどうかしら?」

「行けますよ」


「助かるわ、高校に通えなくなるけど、それよりも今は有事なのよ」

「ハザマの処理はコストがかかりますよね」


 レイカさんはスマホで連絡を取り始めた。


「はい、はい、今の配信を見て欲しいです。フトシ君なら無料で、ですが、魔石はフトシ君の物にする事で即、ハザマを侵食できます。中小型のハザマ施設すべてに連絡を、はい、無料で、私が車で移動して進めますので、はい、お願いします」


 ただならぬ雰囲気を感じて俺はスマホを取り出した。


『フトシがハザマの経営破綻問題を解決しようとしてる』

『熟練冒険者が減ったからな』

『これでフェイズ1は防げる』


『フトシを高校に通わせろとか訳の分からんクレームを入れるやつがいるけど、モンスターが溢れて死ぬ覚悟があって言ってるのかな?』

『覚悟は無いだろ、そういう奴はモンスターが溢れてからまた国にクレームを入れるで』


『フトシはサードプレイスを救って、次はハザマの経営破綻処理か。俺もレイカさんが運転するスポーツカーの隣に乗ってかっこよく登場してみたいわ』

『サイレンを鳴らして信号無視できるのかっこいいよな』

『フトシの重鎮感が凄い』


「は、話が大きくなってる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る