第146話

 施設に入ると、オーナーの金入勝カネイリスグルが出迎えた。


「悪いね、謝礼を渡すから対談をさせて欲しい」


 嫌な予感がした。

 お金は受け取らない方が良いだろう。


「お金は結構です」

「そう硬くならずに」

「お金のやり取りがあるようでしたら帰ります」

「では、対談だけでも頼む」


 そう言って撮影が行われ、俺はソファに案内された。

 あれ? やると言ってないんだけど?

 ソファに座るとカネイリさんが笑顔で質問した。


 強引だな。


「ドリーム1は気に入ってくれたかな?」

「う~ん、施設はとてもきれいでした。ですが、まだスタッフさんが慣れていないようですね」


「そうか、では、ホテルの居心地はどうだった?」

「とてもきれいでした、でも、考え事があって寝付けませんでした」

「そうかそうか! ありがとう」


 そう言って握手をする。


「握手はもっと笑顔で」

「え? はい?」


 俺は笑顔で握手をした。

 こうして短い対談は終わり俺は解放された。



 その日家に帰るりみんなで夕食を食べると俺がテレビに映っていた。


『施設はとてもきれいでした』

『ホテルの居心地は』

『とてもきれいでした』


 その後俺とカネイリさんが笑顔で握手をする映像が流れる。


「切り取られている! 他の事も言ったけどいい所だけ切り取られている!」

「フトシ、企業はこういう事をする、次からは気をつけろ」


 父さんは俺の言葉だけで大体の事を把握してアドバイスまでくれた。


「本当はどうだったの? 施設は良かった?」

「施設はきれいだけど、スタッフの動きがお金儲け優先な感じがして居心地は悪かった」


 カネイリさんが司会から質問を受ける。


『超大型ハザマ施設の滑り出しは順調なようですね』

『はい、おかげさまでトラブルは無く、順調に走り始める事が出来ました』

『改めて、このドリーム1を作ったその想いをお聞かせください』


『今この国はアシュラ災害により危機に瀕しています! 熟練冒険者の半数を失い、更には海外に冒険者が流出しています! 今出来る事があります! それが超大型ハザマ施設、ドリームです!』


 ドリーム1のきれいな外観と内装が画面に映し出された。


『今まで小規模のハザマ施設が多すぎました。その為見張りの冒険者を多く配置する必要がありました! しかし、超大型施設、ドリーム1に施設を集約させることで! 冒険者の皆さんには守りから攻めに転じて頂く事が出来ます! その為のドリーム1です!』


 カネイリさんが手を広げて力強く力説する。

 まるで政治家の演説を聞いている気分だ。


『この国には魔石が必要です! 魔石は冒険者の強化! 電力の供給源! 医療の要でもあります! 資源が無く、高齢化が進んだこの国は魔石を確保する為モンスター狩りから逃げることは出来ません! となれば、超効率的な施設の運用が必要となります! その答えがドリーム1なのです! 今ドリーム1の隣にドリーム2を建造し、運用はもうすぐ開始します! 超大型施設2つが日本を救う一助になると確信しています!』


 カネイリさんの話を聞いて思った。

 この人は金儲けの為にやっている。

 小さいハザマ施設を潰したらサービスの質を落とし、冒険者にじわじわと負担をかけていくだろう。


「フトシ君、レイカから連絡があったわ」

「レイカさんから」

「サードプレイスの支援に来て欲しいそうよ、経営がうまくいってないみたい」


 サードプレイスか。

 頑張って欲しい。

 ドリーム1の1強は避けたい。

 俺はスマホで連絡した。


「行きます!」




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