第136話
「アシスタントのハヤテさんです」
「い、今から撮影をします。こ、このスーツに着替えて、レン君は白、フトシ君は黒いスーツでお、お願い」
ハヤテさんは顔立ちが整っているんだけど、髪が異様に長くてどこか引きつったような笑い方をする。
化粧をしてナイフを持たせればホラー映画に出て来てもおかしくない。
「人が集まってきましたけど、迷惑になりませんか?」
「大丈夫です。むしろいい宣伝になるでしょう。さあ、着替えましょう」
レンと俺は水着の上からスーツを着た。
「ふ、フトシ君はこのソファに座って、足を組んで、もっと偉そうにして、ワイングラスを持って不敵に笑って」
「え? え? 不敵に?」
「そう、不敵に笑って」
「わ、分かりました」
「レン君はフトシ君の後ろに立ってフトシ君の後ろに抱き着くように、あ、そうじゃなくて、抱き着くギリギリで止めて、決して触れないで」
カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!
「次はワイングラスを置いて、レン君はフトシ君の横に顔を持って来て、そして見つめ合って。フトシ君はレン君の頬を触って、違う! もっと鷲掴みにするようにして、レン君は顔だけフトシ君に向けて目だけは横に逸らして、も、もっと逸らして、顔の向きはそのままでカメラ目線、あ、フトシ君はレン君から目を離さないで、そう、そう、そのまま」
うわあ、指示がめっちゃ細かい。
手の置き方から表情までめちゃめちゃ細かい。
カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!
「次はこの構図で」
タブレットに絵が表示された。
「ちょ、ちょっと待ってください、この構図は何枚あるんですか?」
「だ、大丈夫、後15枚だけだから」
「はあ! 時間がかかるぞ!」
「……」
俺とレンはハヤテさんの指示の元、写真のモデル役を進める。
◇
「はあ、はあ、ありがとう。助かったわ! も、もう我慢できない!はあ、はあ」
ハヤテさんはタブレットを手に取った。
「スキル! BL加速!」
しゅぱしゅぱしゅしゅしゅ!
「スキルを使った!」
ハヤテさんの手が高速で動き、絵が出来上がっていった。
「冒険者だったんですか!」
「ふ、ふふふふ、そうよ、BL作家、兼冒険者よ。私のスキルは元々体全体の動きを一定時間加速するだけのスキルだったわ。でも、効果はすぐに切れてしまうわね。私は願ったわ。自分の欲しいスキルを、加速するのは脳と右腕だけで良い、その代わり長い間スキルを使えるようになりたいと。そうしたら覚えたのよ、このスキルを」
「願えば、スキルを覚えられるのかな?」
「どうだろうな、でも、願っている方が覚えられるかもしれない」
正直、最初はつまらないと思っていた。
でも、何かが変わる気がした。
「勉強になりました!」
「い、良いのよ。気にしないで。サムネ撮影のついでに、い、色々お願いしたから」
「俺も、欲しいスキルを願う事にします!」
「僕も、そうするよ」
「はあ、はあ、いいわね。2人はお似合いよ。2人は最高の」
「最高の?」
「ふ、ふふふふふふふ」
「……プールに戻ろうか」
「うん、そうだね」
2人でプールに戻った。
レンがリナさんと合流し、俺はサイダーを喉に流し込む。
「ん、ん、ぷはああああ!しみるううう!」
「フトシ君」
「シンさん? あ、シンさんはサードプレイスに住んでますもんね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。