第123話

 俺とユイが密着し、ユイが両手で俺の目を押さえている。


「ユイ」

「ダメ、振り返っちゃダメ」


 めちゃめちゃ密着している。

 見られるのが恥ずかしいのか俺に抱き着くように両手で目を押さえる。


「分かった、振り返らない」

「うん」

「手を離さないのか?」

「うん」


「疲れるだろ?それだと腕を温泉に入れられない」

「うん」

「手を離さないの?」

「うん」

「俺の魔石を食べる?」

「う?」


 引っかからないか。


「タオルは巻かないのか?」

「温泉にタオルを巻いてはいるのはマナー違反だよ」

「さすがヤマトナデシコ、ユイ」

「え? 違うよ?」


 自分の性格に気づいていないのか。


「自分の性格を知るのって難しいよな」

「フトシは、自分の事が分かって来たの?」


「え?」

「え?」


「え?」

「え?」


 話が噛み合っていない気がする。

 話題を変えよう。


「所で、どうやって出ようか」

「このまま、部屋に入る?」

「うん、部屋に入ってタオルで自分の体を拭くときに、ユイの事が見えてしまうかもしれない」


「……私がフトシの体を拭くよ」

「……え?」


「……」

「……」


 2人でこの体勢のまま温泉に浸かった。

 長い。



 そして出る!

 部屋に戻ると、ユイはやっと俺の目から手を離した。


 そして俺の体を拭き、俺が下着を着ると、後ろでユイが自分の体を拭く。


「はあ、はあ、もう、浴衣を着たから、振り返って、だいじょう、」


 振り返るとユイが俺に倒れこんできた。

 俺が抱きとめてユイを見ると顔が赤い。


「のぼせた?」

「……うん」


 ユイを布団に横にして、うちわで仰いだ。


「……ありがとう。良くなって、来たから」

「最近、無理してないか?」

「大丈夫、でも、いのりにも、同じことを言われたよ」


「今日は、ゆっくり休もう。ここに泊まろう」

「……うん」


 夕食が終わるまでゆっくりと部屋で過ごした。



「ユイ、魔石を食べてくれ」

「頑張ってモンスターを倒すよ」

「俺の魔石をあげたい」

「それは、だめだよ」


「でも、また無理をして倒れるぞ?」

「そ、それは、フトシと一緒に、お、お風呂に入ったから」

「疲れに緊張が重なってふっと気が抜けて倒れたんだ」

「……」


「魔石を食べてくれ」

「それは悪いから」

「俺に遠慮しないでくれ」

「でも、悪いから」


「どうしたら食べてくれるんだ?」

「食べないよ」

「食べてくださいお願いします」

「ダメ、それはダメだよ」


「貰っても、何も、返せる物が無いから」

「俺はユイの世話になってる」

「……ダメ」


 ここまで断られると、意地でも食べさせたくなってくる。


「治って来たからもう大丈夫」

「良かった、これで出来る」

「え?」

「ユイ、もういいから」


 俺はユイを布団に寝かせて馬乗りになった。


「え、エッチな事、するの? ゴムなら、持って来たから」

「違うぞ」

「……え?」


 俺は強引にユイの口に魔石を入れていく。


「ふほひ、だめ!んぐ!」

「断っても詰め込むから」

「なにも、かえせな、だめ! んんん」


「俺が勝手に口に押し込んでいるだけだ。何も返さなくていい」

「ダメ」

「ダメは聞かない。はい以外の言葉は聞かない」

「だ、だめ、んぐ!」


 俺は何度も何度もユイの口に魔石を入れ続けた。



「ユイ、はいは?」

「……はい」


 魔石を口に入れると抵抗せず食べていく。


「また食べて」

「はい」

「次は抵抗しない?」

「はい」


 ユイの顔がとろんとして赤く、全く抵抗しなくなった。



 魔石を食べさせ終わると、ユイが言った。


「何も、返せる物が無いのに」

「俺が強引に食べさせただけだから、気にしないでくれ」

「……」

「ユイ?」


「私ね、フトシに魔石を食べさせてもらったから、何か返したいの」

「気にしなくていいぞ。俺が強引に食べさせただけだ」

「フトシは、私の体を見てるよね?」

「ん?そ、そりゃあ、見られるなら見るぞ」


「はあ、はあ、うん、そっか」


 ユイが何度も何度も髪をいじった。


 そしてユイが立ち上がって浴衣を脱ぎ、脱いだ浴衣と下着を丁寧に畳んだ。


「あげられるのは、私だけ、迷惑、かな?」

「そ、そんなわけがない、だろ」


「で、でもね、ゴムをつけて、欲しいかな?」


 俺は、ゴムを、受け取った。



 ◇



【3日後】


 電車の窓から景色を眺めているとユイが俺の肩に寄りかかって無防備に眠っている。


 ユイは俺に裸を見せるようになった。


 ユイの体を洗った。


 ユイはとても従順で、


 そして必死に俺を気持ちよくしようとした。


 ユイの頬を撫でると、ううんと声を漏らした。


 夕日を眺めながら、俺は家を目指した。

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