第122話

 食事が美味しい。

 ユイを見ると自分の唇をペロッと舐めて、俺の視線に気づいて顔が赤くなった。

 自分の唇を舐めたのが恥ずかしかったのか。

 ユイはどうでもいい事で恥ずかしがる。


「どれもうまいよな」

「そうだね、全部食べられるよ」


 冒険者は運動量が多い。

 食事量はアスリート並みなのだ。


 ユイは上品に食事を食べていく。

 仕草が綺麗だ。

 姿勢が良くてただでさえ良いスタイルが更によく見える。


 食べ終わり、料理が回収されるとユイが温泉を見た。


「汗、掻いちゃったね」

「俺は、部屋を出ていようか?」

「それは悪いからいいよ」


「でも、温泉が窓から見えるし。ユイが温泉に入ったら見てしまう」

「それは……一緒に入れば、大丈夫」


「……ん?」

「そ、そうじゃなくてね! そうなんだけど! 2人で入れば私が見られなくて済むでしょ! そういう意味じゃないけどそういう意味なの!」


 ユイが焦りだした。


「ユイアサシンが俺の後ろを取り続けるか」

「そ、そうなるかな」


「俺は見られても大丈夫だから、俺の後ろにユイがいる感じで、出来るだけ振り向かない、でOK?」

「お、OK]


「中々苦しいミッションになるだろう。ちなみにだが、もし振り向いた場合は」

「ダメダメ!振りむいちゃダメ」


 なるほど、振り向いたらミッション失敗、でもユイならアクシデントがあっても許してくれる、あれ、結構簡単じゃないか?

 うむ、脱ぐならまず男から、俺は服を脱いでいく。


「え?え?」

「脱がないと入れないだろ?」

「う、うん」


 俺は露天風呂の入り口前で正座し、ただ景色を見つめた。


「せ、正座しなくていいよ」

「いや、集中力が切れると後ろを向きそうに」

「ダメ!」


「出来るだけ前を向いているから、風呂に入ろう」

「う、うん」


 シュル、シュルシュル!


 ユイが服を脱ぐ布スレの音が聞こえる。

 聴覚に意識が行く!

 まさに全集中!


 シュルリ!


 ユイが俺の背中に両手を当てた。

 そして小さな声で言った。


「ぬ、脱いだよ」

「う、うむ、出発進行!」


 露天風呂がある庭のようなベランダに出ると、木の露天風呂、木の桶、石鹸があった。

 

 露天風呂の前でユイが木桶で俺にお湯をかけていく。

 そして自分にもかける。


「背中、洗うね」


 ユイが石鹸で俺の背中を洗う。

 俺は自分の体を手で洗い、頭を洗うといいタイミングでユイが頭にお湯をかける。


「入ってていいよ」


 俺はユイに背中を向けてお風呂に入った。

 後ろではユイが自分の体を洗う音が聞こえる。

 木桶にお湯を入れる時にユイの腕が見える。



 ユイの体が洗い終わると、ユイが話しかけて来た。


「私も入るから、少し前に出て」

「え?」


 俺は反射的に振り返ろうとした。

 その瞬間ユイが俺の頭をガっと抑える。

 その後俺の両眼を両手で塞いだ。


 ユイが後ろから抱き着くように温泉に入って来たが、ユイは体にタオルを巻いていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る