第121話
家に帰るとユイとヒトミが出迎えた。
「待っていました!」
ヒトミが俺に抱き着いた。
「ちょ、ちょっとヒトミ!」
「夏休みは遊びましょう」
「そうだな、でも、俺はユイと遊ぶ約束をしていたんだ。まだ守っていない」
「私も行きます!」
「いや、約束が終わってからな」
「そ、そんな! 強化合宿に行くときに置いて行かれて、ハザマ施設に行くときも置いて行かれて、その次は国会議事堂に行く時も置いて行かれました! 私は何度も置いて行かれています! 私も行きます!」
「ユイと遊んだ後にな」
「そ、そんな! 作戦ミスです! 私も遊びに行くと言っていれば!」
ヒトミが深刻な顔をした。
「ヒトミ、そろそろ離れたら?」
「このくらいでは足りません。フトシ君が足りません!」
「2人でどこに行くか話をしよう」
「2人だけで! 怪しいです! 2人だけにはさせません!」
「ヒトミ、離れてくくれ」
「ヒトミ! 離れて!」
「離れません!」
ヒトミは俺から離れない。
ユイは俺の部屋に入って用意をすると言っていた。
意味が分からない。
結局どこに遊びに行くか決まらないままその日は終わった。
【次の日】
テレビをつけるとモンスター省の長官が辞任していた。
アナウンサーの女性が冒険者のイケメンコメンテーターに話を聞く。
『上級レベル10にしてインフルエンサーでもあるシンさん、今回の件についてコメントをお願いします』
『その前に経緯を説明します。モンスター省はスケルトン災害の初手で冒険者を集合させ、たどり着いた順に即スケルトン狩りを行ってもらう事で多くの冒険者が犠牲となりました。そこまでは仕方がありませんでした。急なスケルトンの進軍と森の中で衛星画像が役に立たない状況と予想を超えるスケルトンの数が進撃を開始していました。問題はその後です』
シンさんはくいっとメガネを上げた。
『戦力の逐次投入だと批判を受けたモンスター省長官は自らの責任で決断を下さず、若手職員のレイカさんに権限を与えるのみでした。しかもレイカさんの動きを妨害したと思われるような動きすらありました。これはゲームの何もしないを選んでターンを終了するようなものです。ここからが僕の考えです』
シンさんの目つきが険しくなった。
『何もせず身を屈め、批判をやり過ごそうとするような人間はモンスター省の長官には向きません! モンスターが日本に大量に出て来るような状況は不確定要素の塊です! 決断を下して間違いがあればすぐに修正して次の手を打つ、その連続の判断が求められます! そもそもハザマ施設の合理化問題、冒険者の海外流出問題、世界に比べて改革の遅れた冒険者制度、今までの改革の遅れが冒険者の戦力低下につながりスケルトンの群れに押し負けたのです!』
モンスター省の元長官が滅茶苦茶叩かれてる!
総理も長官に激怒したらしいし、裏で色々あったのかもしれないけど、上の人は大変だなあ。
ユイがバックを背負い下りてきた。
俺にバックを渡した。
「準備できてるよ」
「どれだけ楽しみにしてたんですか! 私も行きます!」
「今日はユイと遊びに行く」
「ぐぬぬぬ、次は私です!」
「とりあえずカフェに行こうよ」
「そうだな」
2人で家を出て、カフェに入った。
飲物を頼んで落ち着く。
「そう言えばバックが少し大きい気がするんだけど、何が入ってるんだろ? ん? 俺の下着? 歯ブラシもある?」
「どこに行くか決めなかったから、何でも出来るようにと思って」
「そ、そうか、ユイは事前に準備する方だよな」
「どこに行くか決めよう」
「そうだな、そういえば、上級になって電車とか色々ただで乗れるようになったから、遠出するのもいいかもな」
「遠出にしよう」
「昨日ユイは温泉に興味があるって言ってたよな?でも、男と行ってもつまらないかな、はっはっは」
「いいよ、温泉に行こう」
こうして電車とバスで温泉に向かった。
景色を眺め、何気ない話をしてあっという間に目的地に着いた。
「すまん、すっかりお昼が過ぎてしまった」
「ううん、大丈夫、この旅館は温泉が有名で、料理もおいしいんだって」
「旅館、食事と温泉に入れるか聞いてみよう」
2人で旅館に入ると若い女性のスタッフが出迎えた。
「お食事と温泉のみのサービスは行っておりませんが、宿泊扱いにする事でどちらも利用可能です。上級冒険者のパーティーでしたら、すべて無料で提供できますよ?」
「宿泊扱いにしてその日に帰っても大丈夫ですよね?」
「はい、問題ありません。ですがどうでしょう?出来れば実際に宿泊して頂いて夜の温泉を体感して頂ければ嬉しいです。絶景ですよ?」
後ろからはお客さんの列が出来ていた。
「あ! やばい、とりあえず宿泊扱いで、ご迷惑をおかけします!」
俺はすっと礼をした。
「いえいえ、宿泊2名様ご案内です」
焦って一緒の部屋にしてしまった。
「見て、景色が綺麗だね」
「そうだな、外に部屋専用の露天風呂があるのか」
失敗した。
窓から風呂が丸見えでどう考えてもカップルや夫婦で来る所だ。
10品以上ある料理が運ばれてきた。
ここ、高級旅館だ。
ユイと2人で高級旅館にいる。
「ユイ、悪い、俺高級旅館にチェックインしてしまった」
「いいよ、それよりおいしそう」
ユイは気を使ってくれている。
優しいな。
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