第120話

「フトシ君、今すぐに手続きをしましょう。文句なしの合格です」


「ええ! こんなにあっさり!」


『フトシだからあっさり行ったんだよなあ』

『試験を通過しても不安定な天才はまだ実感を持てないようだ。自分の強さをな』

『上級レベル1はモンスター省も頑張った方だと思う。恩恵が大きいのはこのランクからだし』


「失礼しました。皆さんも、本当にお疲れさまでした。今日だけでもゆっくりお休みください。配信はこれで終了です」


 こうしてホテルに戻り、手続きが終わった。


「上級レベル1おめでとうございます。上級になりますと、公共交通機関やホテル、レストランの利用が無料となります。一定期間納品金額が少ないままだと納品の勧告が来ます。それでも納品しなければさらに勧告が来て、それを無視すると中級レベル10にランクダウンしますのでたくさんモンスターを倒してたくさん納品してください」

「今すぐ上級ハザマに行きたいです」


「もう少し説明があります。パーティー登録したメンバーもさっきの無料が適応されるのでパーティーを育てましょう。後は、上級以上になると国から要請を受ける機会が増えます。注意点はそのくらいですね」


 ふっとレイカさんの表情が変わった。


「フトシ君、これから上級ハザマに行く?」

「はい、行きますよ?」

「様子を配信していい?」

「ん?」


 レイカさんが俺の右手を両手で握った。


「説明不足よね。大人の事情になるけど、フトシ君が上級レベル1に昇格したその効果を国民の皆様に知っていただきたいの」


 スズメさんがぬんと出て来た。


「私が、配信する」

「すずめちゃん、出来るだけモンスターはフトシ君に倒してもらってくださいね。分かりやすくフトシ君が上級ハザマのモンスターを狩っている絵が欲しいので」

「まかせて」


 スズメさんが俺をぐっと引っ張ってハザマまで走る。



 俺がただ、上級ハザマのモンスターを狩る配信が何故かバズった。


 グレートオーガだけじゃない。

 グレートガーゴイルも、グレートスケルトンも、グレートゴーレムも簡単に倒す事が出来た。

 群れで襲い掛かってきても、一切苦戦しなかった。

 ちょっと、自信がついたな。


 ホテルに帰るとレイカさんがほくほくと笑顔を浮かべた。


「いい絵でした。今後の予定を話し合いたいです。部屋に行って良いですか?」

「分かりました」

「私も、行く」


「スズメちゃんはまた今度」

「そう」


 スズメさんが去って行った。


 俺が部屋に向かうとレイカさんが付いてきた。

 2人裸で寝ていたことを思い出す。


「部屋入り口の扉は開けておきますね」

「いいのいいの、そんな公務員みたいなのは良いのよ」


 ガチャリ!


 レイカさんは扉を閉めた。


「緊張しないで、堅苦しい話じゃないわ」


 レイカさんが俺の肩に手を置いた。

 距離が近い。


「本当にありがとう! フトシ君のおかげで首にならずにすんだわ!」

「え?」

「フトシ君を国会議事堂近くの中級のハザマに1人で行かせて色々危なかったの」

「あー、ルール違反になりますもんね」

「本当にありがとう」


 レイカさんが俺に抱き着いた。


「ちょ!レイカさん!」


 後ろに下がろうとするとベッドでバランスを崩して2人ベッドに倒れた。

 レイカさんが俺から離れない。



「……」

「……本当に、ありがとう」


 レイカさんの唇が俺と重なる。

 上品な感じのレイカさんが野性的なキスをした。


 レイカさんが俺の上に乗ったまま、俺は動けないまま、長いキスが続いた。



「はあ、はあ、フトシ君、出来れば何日かここに泊まってハザマを狩って欲しいの」


 ここに泊まると言ったら、俺はこのままレイカさんと……

 俺の上に乗るレイカさんを持ち上げた。

 横に座らせて俺はベッドから起き上がった。


「い、いえ! 遊びに行く約束があって、夏休みが終わる前に遊びに行きます!」

「……いのり? それともユイちゃん? ヒトミちゃん?」

「そ、それは秘密で」

「そっかあ、うん、残念ですが、仕方ありません。でも、また一緒に仕事をしましょう」


 2人で握手をした。


「あ、そうそう、キスの事は秘密でお願いしますね」

「はい! 分かりました」


 俺はホテルを出て家に帰った。



【レイカ視点】


 フトシ君は無防備で行けそうに思えた。

 

「あー、惜しかったなあ、2回目は出来なかったのね」


 でも、まだチャンスはある。


 私はホテルの窓からフトシ君の後姿を見送った。

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