第115話
プライベートルームにワープすると変な空気が流れていた。
「フトシ、大丈夫か? 代償とかは無いのか?」
「寿命を数年削るとか無い? 大丈夫? 死にに行くようにワープして行ったから」
「もし具合が悪いとかあったら言って」
女性陣が滅茶苦茶心配して来た。
「いえ、大丈夫です」
ハンマさんが前に出た。
「フトシ、色々聞きたいことがある。レッドオーラ、ありゃなんなんだ?」
「1分間身体能力が上がるスキルです」
「金棒を太く出来るのになんで最初からやらなかったんだ?」
「魔石を食べたら金棒が進化して伸びるだけじゃなく、大きくすることも出来るようになりました」
「そ、そうか、あんなに強いなら、事前に言って欲しかったねえ」
「役に立てるかどうか、分からなかったです」
「フトシ君は死にそうな顔でワープして言ったでしょ? 不安定な天才なのよ」
「ああ、確かにそうだったねえ、うっかりしてたぜ」
「自分の命を賭けて前に出たのかい?」
「いえ、死にたくは無いですが、1体だけなら、時間稼ぎが出来るかもしれないと思いました。粘ってからみんなを呼ぼうかと」
『繊細さと鈍感さを併せ持った不安定な天才か』
『トッププレイヤーはどこか矛盾してる所があるよな』
『確かに、覚悟を決めたような顔でワープしていた。倒せると思ってなかったんだろう』
「あ、ただ、最初にダンジョンに来て皆さんがアシュラを倒した時、このままじゃ自衛も出来ないと思いました。なのでたくさん魔石を食べようと思って、たくさん食べました。皆さんのおかげで強くなれました」
『普通の冒険者もたくさん魔石を食べようと思ってるんだよなあ、でも実際はうまくいかない』
『やろうと思ったのでやったとか、発言が天才っぽい』
「……なるほどねえ。俺はレイカの言った言葉をまるで理解しちゃいなかった、か」
『ハンマが一人で納得してるけど、解説をお願いします』
『ハンマが一人で納得してるけど冒険者じゃない俺らは何も分からないからな』
「お兄ちゃん、さっきの言葉、説明して」
「大した意味じゃない。繊細さと鈍感さを併せ持った天才、ブレーキが壊れて、前に前に進むアクセルに特化したその性格、そうなのかと浅く考えていたねえ。何といったらいいか」
ハンマさんが目を閉じて頭をかいた。
「俺は今まで、冒険者の実力を見ただけでそこそこ分かって、スキルを使っているのを見れば大体の事が分かる、自分でそう思っていた。だが、俺はレイカの言葉を浅く捉えて、フトシの事を見誤っていた。俺はフトシの砦スキルに目が行っていた。だがそうじゃない、それだけじゃなかったって事だ」
「フトシ自身が強かった、そういう事?」
「そうだ、砦が強い、それだけじゃない。それよりももっと大事な本質、フトシ自体が魔王のように、化け物のように強い。底が見えない魔王感があるねえ」
「い、いや、そんな事は」
スズメさんが俺の前にずいっと出た。
「な、何ですか?」
「フトシ、17人がかりでアシュラ1体を倒した。そしてみんな消耗した。OK?」
「スズメさん?」
「OK?」
「……OKです」
「フトシは、1人で、5体のアシュラを倒した。OK?」
「OKです、え?なんですか?」
「フトシは特級17人掛かりで苦戦したアシュラ1体を、1人で5体倒した。フトシ最強、OK?」
「い、いやいやいやいや!相性ってあるじゃないですか。ほら、俺の金棒は打撃系でアシュラに効いたし、レッドオーラも防御が高いアシュラと相性も良くて、パワーで戦う俺とパズルのピースが三重に噛み合ったみたいな感じです。違うんですよ。ほんと違うんです。皆武器の調達が間に合わなくて苦戦しましたけど本当は皆もっと強いわけじゃないですか。そういう情報操作みたいな言い方怖いなあ。特級冒険者のスズメさんみたいな影響力のある人が言うとみんな誤解するので、黒が白にされるみたいな、そういうの怖いなあ。違うんですよ。俺まだまだなんです! 俺初級レベル7なんですって!!」
『こいつ!まだ自分の強さを認めないだと!』
『うわああ!怖い怖い!鳥肌が立ってきた!』
『急に焦り出して草』
『レイカちゃんの言った意味が分かって来た。これが不安定な天才の本当の意味か』
『凡人が天才を排除するの意味が分かった。確かに底の知れない恐ろしさみたいなので頭の悪い人間ほど本能で天才を潰すだろう』
『あれだけ活躍しておいてあんなに自分の強さを否定するって!おかしいだろ!』
「フトシ、落ち着いてくれ」
『ハンマさんがフトシをなだめてるwwwwww』
『そりゃあ、不安定な天才だからな』
『優しくしないと』
「フトシ、すぐに冒険者ランクの試験を受けて欲しい」
「試験、ですか?次の試験は受ける予定ですよ」
「いや、レイカに言ってすぐにねじ込んでもらう」
『ハンマが説得を諦めたwwwwww』
『1つ1つフトシに現実を認識させていくスタイルでワロタ』
『確かに、戦闘機の力を持っているのに自分は自転車に乗っているだけだと思っているような怖さがある。このままじゃ危ないよな』
『フトシは昇格しないと駄目だわ、規格外すぎる』
周りを見るとみんながコクコクと頷いた。
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