第112話

 朝起きると知らない天井で、柔らかい感触に気づいた。

 レイカさんが俺に抱き着いて寝ている!

 どっちも服を着ていない!


「これは!夢なのか!」

「ううん、フトシ君、おはよう」

「これは!な、なんでこんな状況に!」

「おちついて、フトシ君が車で寝ちゃって、起こしたくないと思ってホテルの部屋に運んで、体をタオルで拭いたわ」


「だから俺は裸だったのか。で、でもレイカさんも裸だし……」

「その後私もシャワーを浴びていない事に気づいて、シャワーを浴びて髪を乾かしたら立ち眩みがしちゃって、何とかベッドで眠ったわ」


「俺、何もしてないですよね?」

「フトシ君は何もしてない、大丈夫」


 そう言って俺の頭を撫でた。


「でもね、寝ぼけていたとはいえ、この状況はまずいの。知られたら私が社会的に潰されるわね。秘密にしましょう」

「わ、分かりました」

「すぐに服を着て出て行くわ」


 レイカさんは俺の前できれいに折りたたまれた服を着ていく。

 そしてすっと部屋を出て行った。


 4時44分。


 目が冴えて、眠れない。


 俺は部屋を出た。


 ビジネスホテルか?


 ロビーに降りるとホテルスタッフが声をかけて来た。


「昨日はお疲れ様でした。食べ物、飲み物の要望があればお受けします」

「いくらします?」

「すべて無料ですのでご安心を」


「コーヒーと、軽いトーストセットみたいなのをお願いします」

「かしこまりました」


 レイカさんがめちゃめちゃ抱き着いていた。

 何も無いはずだ、何も無かったよな?



 ホテルスタッフがコーヒーを持って来た。


「大丈夫ですか?」

「え?」

「昨日は激戦で連戦続きでした」


「いえ、少し目が冴えただけで、大丈夫です」

「ゆっくり休んでください」

「ありがとうございます」


 軽く食べてぼーっとしているとチュンチュンジャンプのハンマさんとスズメさんが降りて来た。


「あ!」

「待ってた」

「やっと来たか」


 スズメさんが俺に近づいて来た。

 顔が近い。

 ノーモーションで俺にキスをする。


「んぐ、んん?」

「んんん、ちゅぱ!ちゅるん!」


「はあ、はあ、え?なんで?」

「朝の、挨拶」

「スタッフさん、ステーキ定食を頼む。それとコーヒーも一緒に」


 ハンマさんが何事も無かったように食事を頼む。


「ハニートーストセット、大盛りで」


 トースト大盛りってなんだ? 始めて聞いた。

 スズメさんは座って隣の席をポンポンと叩く。

 隣に座るとハンマさんがため息をついた。

 妹がよく分からない男とキスをした、ため息は当然だろう。

 怒られるのか?


「フトシ、聞いてくれ。スズメがフトシまだ? フトシまだ? ってうるさい。何百回も聞いて気がめいってくる」

「あれ? さっきのキスは?」

「だから、しばらくスズメを頼む。ゆっくり眠りたいからな」


 キスはスルーなのか?


「いや、でも、ダンジョンがありますよね?」

「ダンジョンに行く間お守を頼む。そろそろ、またアシュラが出てくるだろうねえ」


 レイカさんが降りて来た。

 なんか気まずい。


「丁度いい所にいました。航空写真で、アシュラの発生が確認され、全国ニュースで報道されました。特級、およびフトシ君はすぐダンジョンに向かってもらいます」


 アシュラ、出たか。





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