第99話

「スズメ、フトシが困ってるだろ」

「うん」


 ハンマさんの一言ですっとスズメが離れた。

 ハンマさんは大男でゴツイハンマーを持っている。


「じゃ、フェイズ2の現場に行くけど、いいかい?」

「……え?フェイズ2って、ダンジョンが出来るあれですよね?」

「知らなかったのか」

「はい」

「今ハザマがあった場所付近に3つのダンジョンが出来た。俺達がやる事は、フトシをフェイズ2発生源付近に送り込んで砦を発動させて拠点を作る事、次がハザマを消滅、次がダンジョンの消滅になるねえ」


「分かりました。砦の魔法陣を正確にどの位置にするかは決まっているんですか?」

「いや、適当に高台とかの良さげな所に作っとけばいい。場所は後で変えられるんでしょ?」

「はい」

「じゃあ適当に見晴らしのいい場所で決まりね。おし、いくか!」


 俺は皆に守られながら移動した。



 そしてあっさりと目的地に到着した。

 スケルトンもグレートスケルトンも皆が倒してくれて楽を出来た。


「砦!皆さん、ここに入ってください!プライベートルームにワープできますよ!」


 全員が素早く砦に入った。

 みんな判断が速い!

 動きが速い!

 プライベートルームに入ると砦にモンスターが入って来る。

 矢の道に入って来たスケルトンが魔石や剣に変わっていく。

 都合がいい。



 スズメさんが配信を終わらせる。


「配信終わり、じゃあね~」


 気の抜けたような不思議な声だが何故か心地いい。


「おい!ベッドがふかふかだぞ!」

「お風呂もサウナもあるわ!」

「キッチンもきれいね!」

「洗濯も出来る!」



「預かっている物資を出しますね」


 物資をロビーに置くとみんなが武具ではなく食料を漁りだした。

 大変だったんだろうなあ。

 毎日走って効率の悪い戦いを強いられるキャンプ生活。


「皆さん、キッチンもベッドもお風呂も自由に使ってください!ここではリラックスしましょう」


 ハンマさんが話しかけて来た。


「外の様子は映せるかい?」

「はい」


 俺は空中に画面を表示させた。


「もし負担が無ければ、出しっぱなしにできる?」

「出来ますよ。出しっぱなしにしておきますね」

「うん、どうも周りの様子が分からないと落ち着かなくてねえ」

「ハンマさんの部屋が決まれば、そこにも画面を出しますよ?」


「助かるねえ。あの奥の部屋を1人で使っていいかい?」

「いいですよ。画面の位置を決めに行きましょう」


 ハンマさんの部屋に画面を出して戻るとスズメさんが俺の前に立つ。


「な、なん、ですか?」

「フトシ、どこに寝るの?」

「俺は、余った部屋に寝ます」

「……そう」


 スズメさんはすっと去って行った。

 え?

 何?

 スズメさんがよく分からない。

 俺はプライベートルームを一周する事にした。


 洗濯機のある場所に人が集まっている。

 そうか、洗濯機は1つしか置いていない。

 特に女性陣は早く洗濯をしたいだろう。


 俺は魔力を消費して洗濯機を増やした。


「ふう、これで、皆洗濯機を並ばずに使えます。ここにいる時くらいはゆっくり休みたいですよね」

「「おおおおおおおおおおお!」」


「何かあればどんどん言ってください。出来る事なら魔力の許す限り、色々追加しますよ」

「ありがとう」

「助かるぜ」

「性格までイケメンかよ。さすが天才」


 最近何故か天才と言われる事が多い。

 なんなんだろう?

 あれか、珍しいスキル=需要が多い=天才か?


 後ろから気配がする。

 振り向くとスズメさんがいた。


「お、気配に気づくか」

「スズメちゃん、どうしたの?フトシ君に何かある?」


 スズメさんがこくりと頷いた。


「何でしょう?今日はホテルスタッフの気持ちで対応させていただきます」

「一緒にお風呂に入って」

「お客様、そのような要望はお受けできません」


 俺はふざけた感じで返すが、表情が読めない。

 周りのみんなを見てもどういう対応が良いのか分からない。

 冗談?

 冗談だよな?


「スズメちゃん、もっとグレードを落とさないと聞いてもらえないわよ?」

「水着で一緒にお風呂に入る?」

「……いや、それはちょっと」


「おしい、もう少し下げて」

「マッサージ」

「……ん、いや、それもちょっと」


「あとちょっと」

「おんぶ」

「ちなみに、どっちがおんぶされる方ですか?後、これはどこまで冗談でどこまで本気なんでしょう?本当に分からないです」


「そうねえ、私はシテもいいと思うわよ」

「大丈夫、外には情報を漏らさないから」

「ゴムさえつければ大丈夫」


「はっはーん、俺からかわれてますね?」

「「うん」」

「私は本気」

「……休みますね」


 そう言って立ち去ろうとするとスズメさんが俺の服を掴んだ。


「明日にしましょう」

「……うん、分かった」


 スズメさんが去って行った。

 う~ん、何を考えているのか分からない。

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