第87話

【レイカ視点】


 私は高校生の強化合宿に参加した。

 目的はダイヤの原石を探す事、それが私の仕事で生きがいでもあった。


 配信を始めるとレン君が先行した冒険者を守る為に飛び込んだ。

 彼を目の敵にしていた不良高校生を助ける。

 分かりやすい優等生、注目ナンバーワンの冒険者高校生だ。


 戦い方も分かりやすい。

 まるで魔法剣士のような派手な戦い方。

 黄色く光る雷撃も華があって分かりやすい。


 好かれる存在、それがレン君だ。

 高校を卒業する頃には上級になっているのがイメージ出来る。

 でも、私が魅了されたのはレン君では無かった。

 その後にレン君を助けたフトシ君だ。


 フトシ君はレン君に華を持たせるべきか迷っているように見えた。

 でも彼は決断した。


 レン君を助ける為に走り、最初はグレートオーガの金棒を出したのかと思った。

 でもその金棒が伸びて、一瞬でスケルトンがたくさん倒れた。


 召喚系のスキル!


 まるで普通に剣を振るような感覚で金棒を伸ばしているように見えた。

 ただ、私の位置からは角度が悪く、上にいて草が茂るフトシ君の動きをすべて見る事は出来なかった。


 そして2人を投げて無事救出させてから思いつめたような顔で、決心したように言った。


『俺がおとりになります!砦!』


 そして苦しそうに言った。


『こっちに来いよ!!スケルトン共!!!』


 スケルトンがフトシ君の出した魔法陣に入って行く。

 そこで乱戦状態になり、私は自衛のために戦った。


 戦いながら不安が襲った。

 フトシ君は自らの命を犠牲にしてみんなを守ったのではないか?

 1万のスケルトンが魔法陣に入って行く。

 レン君と不良グループを投げたのは魔法陣から逃がす為の行為に見えた。


 早く魔法陣に行きたい。

 でも私の意識はスケルトンとの戦いに割かれた。

 余裕が無い!



 そして時間が経ち、乱戦が収まる。

 上からガサガサと音が聞こえた。

 山の上を見るとフトシ君が草むらから起き上がってみんなを見つめる。

 まるで倒れそうになった自分自身を隠すように、皆に心配をかけないように立ち上がったように見えた。


 きっとそうなのだろう。


 でも彼は力を使い果たしたようにゆっくりと降りて来た。

 不良グループが納得できないように顔を歪めながらレン君に謝り、フトシ君に謝り、そして先生たちから怒られるとフトシ君は泣きそうになりながら言った。


『レン、俺、まだまだだ』


 その瞬間にゾクゾクと鳥肌が立った。


 あの言葉、あの言い方は!

 特級冒険者パーティー4本の牙の双剣使い、ソウガさんを思い出す。

 30代にして今だ現役、他の特級冒険者も彼の動画を参考にして動きを真似しているほどの人物だ。

 フェイズ1化した上級ハザマを殲滅して完璧に目標を達成した上でのあの一言はあまりにも有名。


『俺、強くなりてえよ』


 同じだ、スケルトンの大軍を退け、皆を救った上での『レン、俺、まだまだだ』


 特級冒険者にありがちなモンスターに斬りこむ大胆さを持ちながら繊細さを併せ持っている!

 フトシ君は特級と同じものを感じる。


 特級に上り詰めて強くなってもまだ強さへの枯渇感を抱えて苦しむ不安定な天才!

 普通の人間なら持っているはずのブレーキが壊れ、アクセルのみで前に前に、高みへ昇っていく特級冒険者と同じだ。


 天才、ダイヤの原石を見つけた!


 フトシ君を見ると揉めていた。


「これはレンが倒した魔石なんだって!」

「僕は、そんなに倒してないよ。それにみんなが倒した分もあるんじゃないかな?」

「はあ?レンはあいつらの命を救ったんだ。貰っとけって、慰謝料代わりだ」


「それは良くないよ」

「いやいや! レンはめちゃめちゃスケルトンを倒してたんだ。それに、レンのパーティーは前衛がレンだけだろ?パーティーのみんなも心配している。スケルトンは防御力が上がるスキルも覚える、食べとけって」


 レン君の言葉は皆に分かりやすい。

 でも、フトシ君は凡人から理解されない。

 フトシ君の話が専門的すぎて凡人からは話の真意が理解されにくい。


 レン君1人が前衛、これはパーティーとしてはバランスが悪い。

 オタク気質なコアなファン以外気にもとめない。

 フトシ君の意見を多くの人は解説無しで理解できないだろう。

 多くの国民は大量のスケルトンが発生した事に目を向けてフトシ君の天才性に気づかない。

 

 フトシ君は不安定な天才だ。


 凡人には理解されにくい天才だ。


 日本はあらゆる分野で凡人が天才を潰してきた。


 凡人がフトシ君を見ればこう思う『気味が悪い変人』凄味とアンバランスな脆さが共存する得体の知れない存在、凡人には理解されない存在だ。


 フトシ君を守れと、私の母性が目を覚ます。


 人気が出ない地下アイドルに貢ぐファンのように彼を助けたくなる女の私もいる。

 フトシ君をみんなに分かってほしい。

 私ならフトシ君の言った意味を、苦渋の選択を、みんなに翻訳できる! 

 解説出来る!


 私の母性、女の私、私の本能がフトシ君を助けたいと突き動かす。


 フトシ君を18人目の特級冒険者に出来たら、とても気持ちいい。


 私は配信用のドローンを見つめて考えを巡らせた。




 フトシは配信力を持ったレイカに目をつけられた、この事でフトシの力を皆が知る事になっていく。

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