第86話
レンが雷神を使って冒険者を助けに行った。
雷神は一定時間速度を上げるスキルだ。
このスキルは本来モンスターに出来るだけ接近してから使い、効率的にモンスターを倒す使い方が有効だ。
だがレンは前に出た冒険者を助ける為に、救出の為に切り札を使った。
レンはどんどんモンスターを倒していく。
その隙に先行した冒険者が下がっていくが足をやられた冒険者1人が逃げ遅れた。
リナさんが叫んだ。
「あれじゃ爆雷を使えないじゃない!」
爆雷はレンの半径5メートルを雷撃で攻撃する、今使えれば殺到して来たスケルトンを一斉に倒し、離脱出来た。
だが爆雷を使うと足をやられた冒険者も攻撃する事になる。
レンの速度アップが切れると2回目の切り札を使った。
「雷神!」
レンはまた速度を上げどんどんスケルトンを倒していく。
レンは人を助ける為に不利になる選択を2回決断した。
1回目は遠距離からの雷神。
2回目は剣より魔法攻撃が効くスケルトンに爆雷ではなく雷神を使った事だ。
もっと接近してから雷神を使えれば多くのスケルトンを倒す事が出来た!
爆雷を使えれば包囲を脱出出来ていた!
調子に乗って先行した冒険者を庇わなければ雷神で後ろに下がる事だって出来た。
「ユイ!ユズキ!援護するわよ!」
ユイとユヅキさん、リナさんがレンを援護の遠距離攻撃を使った。
皆が焦っている?
その瞬間に分かった。
レンが危ない。
俺は走りながらアマミヤ先生との話を思い出した。
『合宿ではハザマが出せる事だけは秘密にしてくれ』
俺は迷ってしまった。
ドロップ率100%を知られたくない。
能力を知られたくない。
レンなら大丈夫だ、そう思っていた。
でも、それじゃ駄目だ。
ハザマを出せる以外は全部ばれてもいい。
俺がすぐに前に出れば良かった!
弓や魔法銃、剣はスケルトンと相性が悪い。
でも金棒の打撃武器はスケルトンに効く。
レンだけが人を助ける為に迷わず前に出た。
そして今レンは、切り札を使い尽くして消耗している!
何度も浅く斬られて服がボロボロになっていく。
バカにして来たイノシシの牙を助ける為に前に出て包囲されている。
俺が今前に出ずに、いつ前に出ろって言うんだ!!
山を駆けあがりながら叫ぶ。
「金棒!」
金棒を召喚した。
金棒を伸ばしてワンスイングするとスケルトンが100体ほど魔石に変わり、周りの木もろとも粉砕した。
更にレンの周りを回るように走って周りに生い茂る木もろともスケルトンを倒した。
足をケガした冒険者を掴んだ。
こいつの事が気に入らない。
違うな、本当に気に入らないのは俺自身だ!
「先生!受け取ってください!」
俺は強めにこいつを男性教師にぶん投げた。
「ぐお!」
先生は受け止めきれずに投げた奴と一緒に転倒した。
次はレンを抱きかかえてバックステップした。
「投げるぞ」
「僕は、まだ戦えるよ」
「もういい! もういいんだ!」
「僕はまだ」
「リナさん!受け取って!」
「分かったわ!」
俺はレンをふわっと弧を描くように投げるとリナさんがキャッチした。
スケルトンが1万体以上押し寄せてくる。
「俺がおとりになります!砦!」
フォン!
俺の足元に砦に続く魔法陣が出現し光を放った。
大きく息を吸い込む。
「こっちに来いよ!! スケルトン共!!!」
周りにいる全員が俺に反応した。
俺は砦のプライベートルームに入った。
スケルトンが入ってきて矢の道でやられていく様子を眺める。
これは……問題無い。
一気に殺到されたら厄介だったが、分散するようにスケルトンが入って来る。
これなら矢が効きにくくても矢の道で余裕だ。
何もしなくていい。
どんどん魔石とドロップ品の剣がたまっていく。
ソファに座り、アイテムボックスから水と菓子パンを取り出し、食べながらモンスターの様子を見つめる。
さっきレンが急いで助けに行った時の事を思い出す。
おかしい、レンの動きが遅く感じる。
前はあんなに大きく見えたレンが小さく見えた。
途中からレンの事を危なっかしく感じた。
俺は、自分が思っているよりも強くなったのか?
俺は考えながら違う思考を始めた。
ユイが悩んでパーティーを抜けた理由が分かった。
レンのパーティーには致命的な弱点がある。
『レンパーティーの前衛はレン1人』
レンは1人で矢面に立っている。
レンの事だ、今までだって自ら進んで前に出ただろう。
レン1人だけが危険を冒している今のように。
レンが前に大ケガをした時、回復カードの力で助けられたと思っていた。
違う、なるべくしてそうなっている!
それもあってユイは悩んでいた!
ユイの言う攻撃力が足りないを真に受けていた。
攻撃力が足りないから前衛のレンが負担を負っている、そういう意味だったんだ!
レンだけがいつも無理をして負担を負い続けて苦労し続ける状況。
ユイなら耐えられないだろう。
多分周りにいたみんなもそれを分かっていて気にかけている。
でもレンは『僕は大丈夫』しか言わないだろう。
俺はレンを馬鹿にしたイノシシの牙が死んでもいいと思っていた。
でもレンは自分が馬鹿にされてそれでもイノシシの牙を助けに入った。
俺は周りが見えなくて、レンは周りをいつも気にかけている。
レンは大人で、俺は、子供だ。
「……終わったか」
砦から出ると、戦闘は終わりそうに見えた。
地面に落ちた魔石を拾った。
魔石をレンに渡そう。
これはレンが食べなきゃだめだ。
魔石を拾い終わり、起き上がって山を下りると拍手が巻き起こった。
拍手されても、歓声が上がっても、何も嬉しく思えない。
俺は魔石を持ってレンの元に向かった。
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