第47話

 ヒトミをおんぶして学校に向かう。

 背中に当たる胸の感触が気になって仕方がない。

 

「おおお!今日は速いですね」

「そうか?気にしてなかった」

「信号がフトシ君を歓迎するように青になっています。フトシ君、信号が青になる時間を暗記してます?」


「ま、まさかあ。運がいいだけだ」

「だとしたらあり得ないほど運がいいですね。毎日フトシ君を歓迎するように信号が青になります」


 ヒトミをおんぶできる時点でラッキーだ。

 俺は走って学校に向かった。


 学校に着くとヒトミが俺の手を掴んだ。


「1年生の教室まで付いて来て欲しいです」

「ん?分かった」


 教室に入るとヒトミが話し始めた。


「皆さん!武器の販売宣伝に来ました!今リトルスケルトンの剣を使い、物足りなさを感じてはいませんか?そんなあなたにぴったりの商品がこちらです!」


 リトルスケルトンがドロップする剣は小さい。

 刃渡りが短い為1年生が魔石を取り込み能力値が上がると物足りなさを感るのだ。


 俺はアイテムボックスから武器を出す。

 黒刀・おしゃれな模様の入った剣・白い刀・刃に文字が刻まれた刀

 さらに武器には値札が付けられていた。

 品数は少ないがおしゃれな見た目はゲームの武器を連想させる。


 錬金スキル持ちは戦う冒険者に比べて多い。

 ヒトミより多く魔石を取り込み、性能の高い武器を作れる人は他にもいる。

 デザインで勝負しつつ商売を続けて錬金スキルを上げていく作戦なのだろう。


 1年生が集まって来た。

 武器をスマホで撮影したり写真を撮っている。


「どこで売ります?」

「元の素材は何ですか?」


 だが男子生徒が近づくとヒトミはすっと俺に隠れた。

 俺が代わりに話を進める。


「学校の売店で販売する、元の素材はゴブリンのナイフだ。昼になったら見に来て欲しい。宣伝は終わり」


 俺は武器をアイテムボックスに入れて教室を出た。

 ヒトミは塩対応というより、男の人が苦手なのか。

 俺は、男として見られていないのか?


「ありがとうございます」

「いや、いいって。それよりも早めに1年の教室を回ろう」

「はい、行きましょう」

「時間がないからさっきより早く終わらせよう」

「助かります」


 他のクラスも回って教室に戻るとユイが話しかけてきた。


「武器を売ってるの?」

「情報が早いな」

「うん。もう噂になってるよ」


 スマホに武器の画像と値段が映し出された。


「手伝いだけだけどな。ユイも買うか?」


 俺は冗談っぽく言った。


「この値段なら、買おうかな」

「値段まで広まっているのか」

「オーダーでロングナイフは作れるかな?」

「ホームルームが終わったら2人で聞きに行かないか?」


「うん、行こう」



 ホームルームが終わりヒトミの所に向かうとレンが俺とユイに手を振った。


「どうしました?」

「レンも来てくれ。ヒトミ、ユイにロングナイフを作って欲しい」

「お願いできる?」

「素材はゴブリンのナイフを元にします。いいですか?」

「うん。2本欲しいの」

「長さはどのくらいにします?」


 ユイとヒトミが話を始めた。


「僕も買おうかな」

「ん?レンもか?」

「剣は刃が悪くなりやすいんだよ。サブウエポン用に欲しいな」


「ユイとレンが買うならいい宣伝になるんじゃないか?」

「フトシ君、レンさん、ユイさんもありがとうございます」


 ヒトミはレンに対しては距離を取っている。

 いや、他の生徒よりはまだ距離が近いか。


「でも、思ったより評判が良くて、ゴブリンのナイフが足りなくなりそうです」

「ナイフならもっとあるから後で」

「え!いいんですか!?」


 ヒトミは目をうるうるさせながら言った。

 泣きそうになっている。

 ヒトミの今までを考えてみた。


 高校の1年で寮に入る事が出来た。

 でも錬金のスキルは戦闘には向かない。

 多分、両親に頼る事は出来ないんだろう。


 パーティーを組む事は難しいだろう。

 ならば、戦闘に向かない生徒だけでパーティーを組むことになる。

 でも、その生徒の多くがモンスターとの戦いを諦める。

 結果パーティーを組んでくれる生徒は減っていく。

 魔石を食べなければスキルは成長しない、能力値もアップしない。

 苦しい思いをしただろう。


 俺が1年の頃、逃げ回っていたあの頃を思い出す。

 惨めでモンスターを思うように倒せず、今より自分に甘かったあの頃を思い出す。

 俺より更に酷い状況、そう考えると苦しかったんだろう。


 更にヒトミはバイトをしようとすると男性に声をかけられ、バイトを続ける事が出来なかった。

 どこかで聞いた話だ、突出して見た目が良いと不幸になる。

 ユイと小さいころから一緒だったが、よくちょっかいを出されていた。


 2年生になるとモンスター素材の納品金額や錬金の納品金額が成績に反映されて下の生徒は寮を出る事になった。

 これは、国民から嫉妬の声を受けて高校の予算削減を迫られた結果だ。


 錬金スキルを持つ錬金術師の数はモンスターと闘う冒険者と比べて余っている。

 ヒトミが2年生になるとキャンプ生活をしながら高校に通った。

 キャンプ生活をするほど貧乏、か。


 対して俺はどうだ?

 父さんが頑張って働いたお金で不自由無く暮らせた。

 お金で本当に困った記憶がない。

 

 俺は、ヒトミに比べて恵まれている。

 癖はあっても戦闘に使えるスキルを得られた。

 

 いつの間にか俺が恵まれている話に思考が変わっている事に気づいた。

 いや、全部繋がっている。

 ヒトミは不遇な環境で苦労し、俺は恵まれていた。

 ヒトミはぐいぐい来る。

 でも、気を使う。

 前から不自然だった、そうか、ヒトミは余裕が無かったのか。


 俺はどうすれば良い?


 何が出来る?


 テレビで聞いた言葉が思い浮かんだ。


『錬金術士の能力は札束の殴り合いだ』


 俺が出来る事。

 札束=魔石だ。

 ああ、簡単だ。

 簡単な事だったんだ。


「……ヒトミ、ゴブリンの魔石を後300個食べないか?」


「「300個!」」


 クラス全員が反応した。


「フトシはいくら魔石を取り込んでるんだ!」

「300個をまるでペンを貸すようにさらっと食べさせようとしている。数千は食ってるだろ」

「グレートオーガの金棒をブンブン振り回すフトシだ。数千は食ってなきゃおかしい」


「貸してください!先生に連絡します!」


 ヒトミが職員室に向かった。


 ユイが俺を見た。


「ユイも魔石を食うか?」

「それは……悪いから」

「そうか」



 アマミヤ先生が来て、俺とヒトミは呼び出しを受けた。


 魔石を渡すとヒトミとアマミヤ先生に感謝された。


「ありがとうございます!絶対に返します!」

「オオタ、先生は感心したぞ。自分の事を後回しにして周りを助ける、これは中々出来る事じゃない。ここまで貯めるのは本当に、本当に大変だっただろう」


 簡単に貯まった。

 最初は魔石集めに苦労したが今では大きめのゴブリンのハザマに行けば1回で50~90個ほどの魔石が手に入る。

 ……ドロップ率100%の件は誰にも言わないでおこう。




あとがき

新作投稿開始


タイトルは:転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

キャッチコピー:遊び人なのに何で遊ばないで修業してるのよ!

URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330658366712764


今作のテーマは、

遊び人×明るい作風×少年漫画のお色気枠×ギャンブル要素のドキドキ

となります。


新作とどうかよろしくお願いします。

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