冒険者試験編

第34話

 ダンスが終わり席に戻るとちらっと女子生徒を見た。

 俺よりもレンを見ている女子生徒が多い。


「お疲れ様、今日のダンスは凄いキレだったね」

「フトシは凄い人気だね」

「レンとユイの方が凄い。あ、そういえばレンとユイのランクはどのくらい上がったんだろ?ランクアップの試験があったんだろ?」

「中級レベル1だよ」

「私は初級レベル7かな」


 冒険者ランクは、

 初級

 中級

 上級

 特級

 と別れている。


 更に同じ初級でも

 レベル1からレベル10まで細かくランクが分けられている。


 冒険者ランクを上げるにはドロップ品の納品ノルマを達成した上で定期的に行われる試験に合格する必要がある。

 俺は基礎戦闘訓練が終わってから納品ノルマをこなしておらず試験を受けていない。


 俺は初級レベル1

 ユイは初級レベル7

 レンは中級レベル1か。


 女子生徒がレンに話しかける。


「レン君は凄いね。高校を卒業する頃に中級に行ければかなり優秀なのに、2年生になったばかりで中級でしょ?」

「本当に凄いよ」

「レン君は将来有望だね」

「今も大活躍でしょ」


 レンに話しかけてから女子同士でレンの話が始まって盛り上がる。

 レンに対して黒い感情が噴き出してきた。


 ……俺は、羨ましいのか。


 女子にモテたい、ちやほやされたい。

 俺は中学の時何もやってこなかっただけだ。

 その間レンは戦闘訓練を受けていた。

 3年の差は大きい。

 今の俺は、部活の練習には出たくないけど試合には出たがるような、そんな人間だ。

 俺はただ、やってこなかっただけだ。


「フトシ、また変な事を考えてない?」

「あ、いや、俺も、ランクを上げようかなと」

「うんうん、いいと思うよ。パーティーを組もうよ」

「僕も手伝うよ」


「いや、俺はまだまだだ。自分で出来る事を全部やってからにしたい」


 そう、まだまだなのだ。

 俺はレンに嫉妬してしまった。



 ダイエットには成功した。

 俺はスタートラインに立っただけの状態か。

 痩せて終わりではない。

 ここからが始まりだ。

 もっと頑張ろう。

 モンスターを倒して、納品して、試験に受かる!


 いきなりレンのようになれると思うなよ、俺!

 中級なんて大きな目標は立てるな!

 身の程を知れ!

 ユイは初級レベル7……俺は、すぐにそこまでは行けないだろう。


「フトシ、フトシ、」


 ユイが俺の頬をつんつんした。


「あ、ああ、悪い。目標が決まった」


 その瞬間、周りの皆が聞き耳を立てた気がした。

 レンはイケメン担当。

 俺はお笑い担当なのだろう。


 だがそれでいい。

 身が引き締まる思いだ。

 俺は息を吸い込んだ。

 みんなに宣言する。

 こうする事で甘えを断ち切る!


「俺は!初級レベル5を目指す!!」

 

 宣言した。


 もう後戻りはできない。


 自分自身を追い込んだ。


 後はダイエットと同じで目標達成の為に動けばいい!

 だが、ユイとレンは驚いた顔をした。

 目標が大きすぎたか?


「も、もっと上を目指そうよ!」

「フトシ、中級を目標にしてもいいんじゃないかな?」

「いや、まず初級レベル5だ。今の俺が大きな目標を言っても、部活の練習には出たくないけど試合には出たがるような、そんな人間になってしまう」


「……また変な話が始まった」

「フトシ、中級を目指しても誰もバカにはしないし変に思わないよ」

「いや、まずは初級レベル5になれたら、それから考える。俺、まだまだだから」


 俺は立ち上がって食堂を出た。

 フトシが立ち去った食堂で皆が話し始めた。


「あいつ、絶対中級を狙えるだろ」

「1500メートル走でズボンを押さえながら走って2位を取ってたぞ?」

「それより、訓練の時間に金棒を振ってる時のあの速さがヤバイ。ブオンブオン音が聞こえてくる」


「レン君に隠れて目立たないけど、フトシ君も強いよね?」

「レン君は別格だからね」

「それよりも、更衣室で着替える時、フトシの体を見たか?筋肉が出来上がってるぞ」

「腕の筋肉がいいよね。かっこいい、ちょっと痩せすぎだけど」

「Tシャツの上から筋肉が見える、良い体してやがる」

「あいつ戦士の目をしてる。絶対に修羅場をくぐってるぞ」

「いつもニコニコしてるけど、金棒を持った瞬間に人格が変わったように目つきが変わるんだよなあ。それを見て特級冒険者が刀を持った瞬間にスイッチが入る動画を思い出したわ」


「フトシはこれからますますモテていくのか」

「フトシの俺はまだまだだは、まだまだ詐欺だからな」

「あいつのあの狂気は何なんだろうな?」



 フトシの努力は、細かな表情、動きにより溢れ始め、周りの人間に得体のしれない何かを感じさせていた。

 フトシだけがその事を分かっていない。

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