第33話

「え?俺?」

「そうだぞ。マイルームは召喚スキルに分類される。ゴブリンの魔石を摂取すればドロップ率が上がりやすい」


 クラスメートが声をあげた。


「そう言えばオオタはゴブリンのハザマで毎日戦っている!」

「フトシ君のドロップ率も上がってるんじゃ!」

「あり得る!」


 10万個より多く魔石を食べている気がする。

 偽キングやボスの魔石も食べているから効果は更に高い気がする。

 今日は、頭が、ぼーっとする。


「オオタ、元気が無いな。いつもならもっと喜ぶだろう?」

「ああ、すいません。ぼーっとしてしまって頭に入ってきません」

「……オオタ、顔色が悪いな」

「朝から調子が悪そうです」


 ユイが言うと全員が俺に注目した。


「フトシは無理なダイエットで調子を崩していると思います」

「無理はしてないけど、昨日の夜は眠くておにぎり1個だけで、朝は寝坊して何も食べてない」


 アマミヤ先生が俺の前に歩いて来た。

 そしてしゃがんで俺のおでこに手を当てた。

 いい匂いがするし、胸がドキドキする。


「オオタ、最近体重計に乗ったのはいつだ?」

「昨日です」

「何キロか覚えているか?」

「58.9キロでした」


「減量中のボクサーみたい」

「そう言えばいつも走ってるよな」

「フトシの腹筋を見たことあるか?バッキバキだぞ」

「もうすぐ授業が終わるか。オオタ、保健室に来てくれ。歩けるか?」


「大丈夫です」


 キーンコーンカーンコーン!


「すぐに保健室に行くぞ」

「私も行きます!」


 俺はユイとアマミヤ先生に付き添われて保健室に向かった。

 そして身長と体重を測定した。……

「58.4キロの身長175センチ、やせ過ぎだ」


 アマミヤ先生が俺をベッドに寝かせて言った。


「やっぱり!」

「ツムギ、オオタが体重60キロを目指していたのは1年前だったな」

「はい、間違いありません!」


「1年前なら60キロの目標でもまだ良かった。だが今は身長が10センチも伸びた。そして筋肉が発達している。今は痩せすぎだ。最近常に空腹を感じなかったか?」

「そう言えば、感じていました」

「体に力が入らないと感じた事はないか?」

「よくありました」


「……まずは10キロの増量、70キロを目指してくれ。そこまで行ったらまた相談しにこい。今後は体重ではなく健康的な体型かどうかで判断するのがいいだろう。オオタはしばらく自分で判断するな。それと……」


 先生は時間をかけて体重についての講義をした。



 ◇



 あれ、話が長い。

 いつものアマミヤ先生なら短く言って終わらせるのに。

 10キロも、増やして、いいのか?

 確かに、身長が伸びたのに目標を変えなかった。

 偽モンスターとの戦いに没頭していた。

 痩せたような気になってそのたびに自分自身に喝を入れ続けて来た。 


 でも、確かに痩せすぎだよなとは思ってもいた。

 目標を達成するまでは意地でも目標を変えなかった。


「アマミヤ先生、もう分りました。10キロ増量してみます」

「ふう、やっとわかってくれたか。何度も言うが1年前のオオタは確かに甘えがあったかもしれない。だが今のおオオタは性格が大分変った。自分を厳しく見過ぎだ。そして多感な時期は心の変化も大きい」


「今日のビュッフェはたくさん食べます」

「それでいい」


 ダイエットはきつかった。

 でも、太っていいなら楽だ。

 10キロの増量なんて簡単だ!


 ビュッフェ……

 よだれが出て来た。


 グ~~~~~~~!


「でも、また太ったら嫌だな」

「今なら多少食べ過ぎても大丈夫だ。冒険者として体が強化されている。適正体重まで増えた後はそう簡単には太らない。空腹も収まるはずだ」

「そうだよ、フトシは1年間頑張って魔石を取り込んできたよね?もう大丈夫だよ」


 冒険者として強くなれば、ベストな体を維持する力が働く。

 ユイとアマミヤ先生の体を見た。

 魅力的な体形が……キープされている。


「フトシ、顔が赤いよ?」

「な、何でもない」

「お年頃だな」


「ビュッフェで……たくさん食べようかな」

「うんうん、いいと思うよ。今日はたくさん食べようよ」

「冒険者は胃も強くなっている。多少食べすぎても体を壊す心配は無いだろう。食事の時間になるまで寝ていろ。もし我慢できなければ食べ物を持って来よう」

「いえ、食事の瞬間まで整えます。水を一杯下さい」


「整えるって何!」

「整えるから」


 俺はビュッフェの瞬間にフードファイターになる。

 そう、なるのだ!


 1年間溜めに溜めたフードファイト魂。


 このマグマのように沸き立つ想いを誰も止められない。


「今から瞑想するから」

「そ、そうか、ゆっくり休め」

「ネタじゃ、ない、よね?」


 俺はベッドに横になり目を閉じると2人が出て行った。



 そして、時は来た。 

 瞑想後、俺はイメージトレーニングをしていた。

 どの料理を取って盛り付けるか?

 食堂をイメージして何歩歩いてどう座るか?

 すべてイメージした。

 そして、時は来た。


 俺は食堂にフライング気味で入り、素早く食事を盛り付けた。

 1回では運びきれず2往復する。

 周りで見ていた女子生徒が声をあげる。


「フトシ君の動きが流れるようできれい」

「まるで武道の型みたいに食事を取ってる」

「違うよ、有能執事だよ」


 テーブルには、


 チーズたっぷりのピザ

 カルボナーラ

 コーンスープ

 フライドポテト

 フルーツジュース

 ステーキとデザートが並ぶ。


「準備OK!」


 今日はPFCバランスを気にせず油をたくさん摂ると決めている!

 俺の前にレンが座り、横にユイが座った。


「いつもの席に行かなくていいのか?」

「いいんだ。今日はフトシの目標達成記念だからね。祝いたいんだ」

「パーティーの皆にはフトシと一緒に食べるって話してあるよ」


 レンもユイも、俺を祝ってくれるのか。

 嬉しくなって顔がにやけてしまう。


「食べないの?」

「レンとユイが食事を持って来るまで待つ」

「すぐに持ってこないと食べそうにないね」

「早く持って来ようよ」


 2人は急いで食事を取りに行った。


 3人揃って席に着いた。


 みんなが俺を見ている気がするが気のせいだろう。


「フトシのダイエット達成を祝って乾杯」


 レンの音頭で乾杯した。


 俺はジュースを飲んだ後即赤みのステーキを口に入れた。

 じゅわあっとうまみのある肉汁が溢れて噛めば噛むほどよだれが出てくる。


 ごくりと飲み込むと、また次、さらに次と手が止まらない。

 箸休めにフライドポテトを食べる。

 丁度いい塩加減でよだれが止まらない。

 それでもたくさん口に入れると口が渇いてくる。

 フルーツジュースで口を潤した。


「うめえ!」


 ダイエットを気にせず、空腹状態で食べる飯がうますぎる。

 最近鶏むね肉とかあっさりした食事が多かった分食が進みすぎる!


「本当に美味しそうに食べるよね」

「2人も見てないで食べよう。食事はいいぞ」

「減量が終わったボクサーみたいだね」


 周りを見ると多くの人が俺を見ていた。

 だが、1年前のように笑われる雰囲気ではない。

 周りからは好意的な声が聞こえる。


「ワイルドだよね」

「今まできっとすごい修行をしてきたのよ」

「フトシ君が食べているだけで美味しそうに見えるよ」


 俺は黙々と食事を口に入れる。

 体がぽかぽかと温かくなり、食べたものがすぐに吸収されていくように感じた。

 肉はいい、手の先、足のつま先まで血流が良くなり、熱を帯びていく。

 一品一品丁寧に噛んで飲み込むと幸福感に包まれた。

 腹が減ってから食べる食事はいい。




 食事を完食すると周りから拍手が送られた。


「ダイエット達成おめでとう」

「フトシ君かっこいい」

「食べててもかっこいい!」


 カッコイイはおかしいだろ。

 ただ食べていただけだ。


 だが、ここまで拍手されると答えたくなる。

 俺は立ち上がって空きスペースに移動してキレの良いダンスを踊った。


 女子生徒から歓声が聞こえる。

 太っていた時と違って笑われる雰囲気は無くなった。

 ダンスをピタッと止めると叫ぶ。


「ダイエットをして良かった!みんなありがとう!」


 拍手と声援で更に気分が良くなる。

 体が軽くて温かい。

 最高の気分だ!

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