第32話


 寝坊した。

 ゴブリンのハザマを全て消し、偽キングを倒し、ダイエットの目標を達成した。

 気が緩んでいたのかもしれない。


 朝食を取らずに走って学校に向かった。



 ダッシュで教室の椅子に座った。


「はあ、はあ、ギリギリ、セーフだ、はあ、はあ」


 少し立ち眩みがする。


「おはよう。大丈夫?顔色が悪いよ?」

「おはよう、寝坊して、朝食を、食べなかったから」


 ガラガラガラ!


「席に着け、ホームルームを始める」


 無事ホームルームが終わり、その後アマミヤ先生の授業が始まった。



「今回の授業はゴブリンについてだ。もっとも、ゴブリンのハザマが消えている今、役に立つかは分からないが、急にゴブリンのハザマが無くなった。その逆である日急に大量発生する可能性もある。聞いておいてくれ」


「まずはゴブリンのハザマが死亡率が高い原因について新しい仮説が出ている。当初は初心者がゴブリンのハザマに入り、動きのすばやいゴブリンに包囲されて死亡する事が多いとされてきた」


「え?違うのか?」

「それ以外の理由ってある?」

「研究は当てにならないわよ」


「静かに、今から話す。だが矛盾が出て来た。死ぬはずのない中級冒険者がパーティーを組んでゴブリンのハザマに行き、そのまま帰ってこないケースが世界中で多く報告されている」


 ざわざわざわざわ!


「仮説の中身はこうだ。『ゴブリンは偽装のスキルを持っている』通常のハザマなら魔法陣の光量を見ればモンスターの最大出現数が分かる。強い個体が混ざっている場合は光量が明るくなる。だが、10体だと思ったゴブリンのハザマに100のゴブリンが隠れていたらどうだ?ツムギ答えてくれ」


「はい、計算を狂わされたパーティーは逃げ遅れる可能性があります」


「そうだ。特にゴブリンは敵を包囲する習性がある。逃げ遅れれば死亡率はけた違いに上昇する。更にゴブリンと戦っている内に拠点から追加でゴブリンが出て来た場合気づいた時には完全に包囲されるケースもあるだろう。ツムギ、どうした?疑問があれば答えるぞ?」


「はい、中級冒険者のパーティーが100体のゴブリンに囲まれただけでやられちゃうか疑問でした」

「そうだな。ただの雑魚ゴブリンなら問題無いだろう。だが、4騎士やキング、クイーンがいたらどうだ?」


「あ!キングが出てくれば、中級冒険者でも難しいかもしれません」

「そうだ、今ゴブリンのハザマは消えているがまた出た場合は十分に注意してくれ。変だと思えばすぐに逃げろ。逃げて気のせいならそれでいい。気のせいではない状況、気のせいでなかった場合の末路は死だ。しつこいようだがゴブリンのハザマは死亡率が高い。光度が低いからと言って油断はするな!」


 ざわざわざわ!


「ここまでで質問はあるか?……では次に行く。ゴブリンの魔石にはスキルを覚える効果があると言われている。アメリカでゴブリンの魔石のみを摂取する実験が行われた。実験対象は125名、実験内容は1人当たり10万個のゴブリン魔石を摂取し、スキルを検証する内容だった」


 これによりクラスがざわめく。


「1万円で売れるゴブリン魔石を1人で10万個って、買ったらいくらになるんだ?」

「アメリカの方が日本より販売価格が高いんだろ?」

「1つ1万円としても10万個、1人10憶円か。125人分で1250億円分、販売価格ならその倍以上はするだろうな。分からんけど、3000億円とかか」

「アメリカならそういう実験はやるよな」

「先生、結果はどうなったんですか?」


「結果はモンスターを倒した際のドロップ率が上昇した。特に召喚系のスキルを持つ者はドロップ率が4.14%に上昇したらしいが、125名の実験参加者は全員冒険者だった。実験以前に多くのゴブリン魔石を摂りこんでいる者もいた為正確なドロップ上昇率は分からなかったらしい」


「ええ!普通は魔石を食べてない人で実験するよな」

「でも冒険者をやってないひとが食べたら損でしょ?何のスキルがあるかないかもわからなかったんだし結果が分かる前なら冒険者に食べて貰って強くなって働いてもらった方が良いって考えるよ」

「ある意味合理的か」

「ドロップ率が上がるのが分かっただけでもいいと思う」


「これで魔石の大きさに対して能力強化の効率は一定であるとの仮説は信憑性が増した。ゴブリンの魔石を摂取しても能力値の伸びは低かった。だが残りの部分はスキル取得の為に使われていた。そして召喚スキルを持つ者はドロップ率アップの上昇率が高い。このクラスで召喚スキルを持っているのはオオタだけか」


 クラスメート全員が俺を見た。




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