第22話

【紬剛太視点】


 フトシはゴブリンのナイフで何度も攻撃を受けたのか、刺されたような小さい傷が無数にあった。

 特にズボンの傷が多い、ゴブリンの攻撃を受けすぎたか。


「頭を見せて見ろ。傷が無いか見る」

「大丈夫です」

「いいから見せてくれ」


 頭にダメージがあればまずい。

 魔石をたくさん取りこむことで回復力は増すが、それでも万が一はあり得る。


「大丈夫なようだな。ボスを倒したのか?」

「はい、拠点の外に出て来て、つい、倒してしまいました」

「マイルームを拠点の近くに作らなかったか?」


「……少し、近かったかもしれません」

「そうか、刺激しすぎると拠点から出てくることもある」


「そうなんですね。気をつけます」

「フトシ、急に筋肉が付いたか?」

「はははは、そんなに急に変わりませんよ。でも、一か月前よりは確実についています」


「そうか、急に筋肉が付いたような気がしたが……気のせいか」

「気のせいです。それよりも喉が渇きました」

「ああ、上に行こう」


 フトシは金棒を軽々と肩に乗せて階段を登る。


「ん?」

「どうしました?」

「そのオーガの金棒はどうした?ずいぶん使い込んだようだが?オーガの金棒は滅多な事でそこまでボロボロにはならない」

「ハザマで何度も振って練習してました」


 ハザマにある岩を何度も叩いていればこうなってもおかしくはないか。

 だがおかしい。


「ずいぶんと軽そうに持っているな?」

「いえ、腕が痺れています」

「そうか、気のせいか。俺も疲れているようだ。水を持って来る」

「ありがとうございます」


 水を持って行くとフトシは一気に飲み干した。


「車に乗ってくれ」

「でも、血が付きます」

「気にしなくていい」

「お邪魔します。あ、学校で新しい制服を頼んでおきたいです」


「分かった。俺も一緒に行って事情を話す」

「お願いします」


 学校に行くと教室の窓から生徒がフトシを見る。

 フトシは笑顔で手を挙げて振っていた。

 完全に遅刻で血が出ているが異様に機嫌がいい。

 先生に事情を話しているとフトシは学校のシャワーを浴びて出てくる。


 上半身の至る所に刺し傷があり、体は筋肉で隆起していた。

 冒険者として体が出来上がっている!


「制服のサイズ変更は頼んだか?」

「いえ、まだでした」

「サイズを測り直して貰え」


 ベルが鳴るとアマミヤ先生が来た。


「ご迷惑をおかけしました」

「いや、それは大丈夫だ。後は頼む」

「はい」

「それと、フトシの制服のサイズを測り直して欲しい」

「……そうですね」


 俺は学校を出て車に乗った。

 

 何かがおかしい。


 俺は何かを見逃している。

 フトシと話していて何かが噛み合わないような感覚があったがそれが何なのか分からない。


 俺は疲れているのか?

 今日は早めに寝よう。


 だがはっきりした事がある。

 フトシは今後、注意深く見てみよう。


 フトシの何かを、俺は見逃している、そんな気がした。




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