第5話

紬結ツムギユイ視点】


 帰ってお風呂に入ると、フトシの事を思い出した。

 ハザマから出てアイスを食べるとフトシの機嫌はすぐに直った。

 あの顔を思い出すとにやけてしまう。


 フトシとパーティーが組めたら、楽しく続けられると思っていた。

 もっと一緒にいたい。

 でも、フトシは私達とパーティーを組まないだろう。


 フトシは鈍感な所と敏感な所があって、レンの事を気にしている。

 レンの家が貧乏な事を気にしている。

 マイルームを使って一旦ワープする事でモンスター狩りのテンポが悪くなる事も気にしているのかもしれない。

 フトシはそう言う事に気が付いたりする。

 私とレンが気にしなくてもフトシが気にしたらもう一緒にパーティーは組まないだろう。

 

 私が生まれる前にハザマがこの世界に出現した。

 私が小さいころ、お父さんの仕事の関係でここに引っ越して住むことになった。

 でも、私は友達を作る事が出来なかった。


 お母さんに連れられて公園で遊ぶ子供をただ見ていた。


「一緒に遊んでもらいなさい」

「……」

「遊ぼうって言うだけでいいのよ?」

「……いいよ」


 私は、人に話しかける事が出来なかった。

 そんな時、フトシが私に話しかけてきた。


「いっしょにあそぼう。おれのなまえはふとしで、こっちはれん、なまえは?」

「わたしは、ゆい」


 それから3人はすぐに仲良くなった。

 同じ小学校に入ることが決まると皆で喜んだ。

 小学校の時、私がいじめられそうになった時もフトシが守ってくれた。


 怖い年上の男の子が学校の廊下を通行止めにした。

 何が楽しいのか分からない。

 私は目をつけられやすかった。


「と、通して」

「ダメだ!ここは通行止めなんだよ」


 その時、後ろからフトシがやってきてロボットダンスを踊りながら廊下を通ろうとした。

 フトシが年上の男の子に止められて服を掴まれた。


「お前!その動きなんだよ、ははははは」

「なんでロボットダンスなんだよ!」


 その隙にフトシが私に通るように合図をした。


 フトシがいじられて通行止めは無くなり、ベルが鳴り年上の男の子が居なくなるとフトシの手が震えていた。


「なんで通らなかったんだ?」

「フトシが心配だったから。怖いのにどうして助けてくれたの?」

「誰も助けないと思ったから」


 私が女子にいじめられそうになってもフトシは空気を読まないふりをして場の空気を変えて私を守ってくれた。

 小学校の頃、フトシはダンスを習っていて、その時はモテていた。



 私達が中学校に上がると、フトシはゲームにハマった。

 私達3人はスキルを覚えた。

 スキルの発現率は1000人に1人と言われている。

 最近の調査では891人に約1人が正確な数字らしい。

 私は幸運を感じていた。

 一緒に戦闘訓練に行く事を楽しみにしていた。


 でも、レンと2人で戦闘訓練に誘ったけど、フトシは来なかった。

 そこからどんどん太りだした。

 それでも私を守ってくれた。


 私は放課後の教室で女子グループに呼び出されて5人の女子生徒に囲まれた。


「レンとくっつきすぎじゃない?」

「最近調子に乗ってる」

「そ、そんなこと、ないよ」


 そこにフトシが入って来た。


「ユイ、居た居た!頼む!勉強を教えてくれ!」


 フトシが大げさに私の手を取ってブンブンと手を振った。

 フトシは勉強に困っていない。

 テストの点数は悪くないのだ。

 でも周りからはいじられていて、頭が悪いと思っている子もいた。


「フトシ、今話し中なんだけど」

「あんた本当に空気を読まないわよね?」

「んん?悪い悪い。で、何の話?さっきレンって聞こえたような気がしたんだけど、気を利かせてレンを呼ぼうか?」


「いらないわよ!」

「でも、レンの話ならレンが居た方がいい。今すぐ呼んであげよう」

「だからいらないって言ってるでしょ!」


「遠慮すんなって。気を利かせるように努力するから。俺、気が利く男を目指してるんだ!?」


 そう言ってフトシが笑い、スマホを取り出した。


「もしもし、レン、今暇?うん、うん、そうか」


 女子たちが逃げるように帰っていった。

 その瞬間にフトシが真顔になった。


「……ふう。後1年ちょっとで高校が別になる。それまでに何かあったら言ってくれ。じゃあな」

「ありがとう、でも、嫌われちゃうよ」


「嫌われてもあいつらは大したことはしてこない。俺は、何かされたら調子よくレンに色々話すだろ?だから言えない。監視カメラがあるから裏で物を隠したりもできない」

「たまには一緒に遊ばない?あ、今からでも戦闘訓練を受けようよ」


「……俺は、ユイやレンとは違うから」


 そう言って帰って行った。

 中学校に入ってフトシは少し、ひねくれていた。

 

 

 でも、高校に入って、フトシはダイエットを始めた。

 フトシは、少しだけ調子がいい所がある。

 興味が無ければすぐやめてしまう所もある。


 でも、本気でやると決めたら誰よりも粘り強くて、誰よりも諦めず強い人間だ。

 そうなったフトシはかっこいい。


 レンがお母さんを助けて、


 フトシが痩せたら、


 また一緒に、


 パーティーを組めるかな。


「フトシと一緒に……」


 私は、熱くなった体を冷たいシャワーで冷ました。


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