第9話  麗奈

「よっ佐藤」

「ああ鈴木」

例のイケメンが声をかけてきた。

イケメンは朝から爽やかさ全開だ。


今日は始業式だから、早く登校しなければならないのだが、 彼はわざわざ俺を待っていたようだ。

そういえば、昨日は東雲とラインの交換をした。

まだ慣れていないのか、メッセージのやり取りは少ない。

でも、彼女との距離感は縮まっている気がする。

彼女のことをもっと知りたい。

そう思うようになった。

ちなみに東雲は受験組で中学に入ってからもずっとお嬢様学校に通っていたらしい。

そのためか、言葉遣いは丁寧だし、仕草も洗練されている。

彼女と一緒にいると、自分が庶民になった気がする。

中身は30歳を超えたおっさんなのだから当然だが、きちんと付き合ったことは人生で一度もなかった。

恋愛経験がない俺にとって、それは永遠の課題である。

俺の前世は青春時代を棒に振ったのだ。

中学では少しばかり付き合ってみた。何人かの女の子たちは前世で傷ついた俺に少しばかりの自信を与えてくれた。だからこそとても感謝している。

だからこそ今度こそ充実した高校生活を送りたい。

そのために必要なこと……。まずは情報収集から始めよう。

俺はまだ見ぬ世界への扉を開いたのだった。

新学期が始まって数日がたった。新しい環境に慣れてきた。ある日

「翔。おはよ」

「おう」

陸上部のカバンを持った相川が俺の目の前にいた。

「相川……」

「玲菜でいいよ」

そこには、俺の天使の姿があった。

「どーしたの、翔。ぼーっとしちゃって」

そういうと相川はニヤッとしながら顔を近づけてきた。ここで怖気づいてはいけない。ここでマウントを取られると舐められるからな。

「相川。もう陸上部の練習なのか?」

「そうだよ。まだ仮入部だけどね。それと麗奈でいいよ。」

「レナ?」

「いや、レイナだってレ・イ・ナ」

「麗奈ね。オッケ。」

昔の俺だったら女子を名前呼びとか意識しすぎてしまっていただろう。

だが、そんな動揺は顔に出さないようにする。

ついチー牛だったころの俺が頭をもたげてくる。俺もイケメンだし気にするほどではない。

まだ何となく自分の顔がかっこよくなったのを忘れがちだ。

「麗奈って呼んでくれないと返事しないもん」

「わかったよ、麗奈」

「よろしい」

そう言うと相川はは満足げに笑った。

「なに二人楽しそうにしてんだよ」

鈴木が話しかけてくる。

「じゃあ私はこれで」

相川が去っていく。

一体どういうことだ。

それにしても、玲菜ちゃんか……

翔…。名前で呼ばれただけでうれしいなんて、俺はやっぱり中身は童貞のおっさんなのか。

そんなことを考えながら、教室に入った。

席に着くと、鈴木がまた声をかけてくる。

「なあ、相川も可愛いけど。うちのクラス可愛い子多いよな」

確かにこのクラスの女子のレベルは高い。

だが、俺にとっては玲菜が二番目くらいだな。

そんなことは口に出せないけど。

そんな会話をしているうちに担任の教師が入ってきた。

始業式の日に自己紹介をしていたので、すでに知っているが、名前は橋本という。数学を担当している教師だ。

いつものように出席確認が行われ、授業が始まった。

俺は国語の授業を受けながら、これからのことを考えていた。

俺は前世では勉強が嫌いで、成績も悪かった。

しかし、今は違う。俺はイケメンで頭も良い。つまり、モテる要素しかないのだ。

ここで一つ問題がある。俺には女の子との接点がまだ少ない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る