第4話 格闘技
「原田。話したいことがある。少しいいか?」
原田は戸惑いながら
「うっうん。わかったよ。」
少しおびえながら俺たちは教室を出た。
人のあまり来ない図工室の前で面と向かって話すことにした。
「原田、なんでいじめられてるのにやり返さない。」
「だってみんな強いし。僕なんかじゃ絶対勝てないよ。」
もし彼がこのまま、いじめられたら引きこもりになってしまうだろう。
「勝つか負けるかはどうでもいい。拳を握ってグループの一番強い奴をぶん殴れ。」
「できないよ……」
「するんだ。でないと何も変わらないぞ」
俺自身がそうだった。教師に言いつけるなんて生ぬるい方法じゃダメなんだ。
目には目を歯には歯を。自分を辱める相手にはそれ以上の屈辱を……
「俺は格闘技のジムにいってるんだけど原田も入れよ。」
「僕が?」
「ああ、大丈夫お前なら強くなれる。」
「本当に……?」
「約束する。」
俺はそう言い残しその場を去った。あとは原田しだいだ。俺にもできることは限られている。
彼が野生動物の子供のように自分で立ち上がるのを見守るほかない。余計な行動はかえって彼の立場を悪くする。
教室に戻ると加藤が残って掃除をしていた。
「加藤、放課後時間あるか」
「えっ、もしかして、デートのお誘い?」
「ああ、ちょっと話したいことがある」
「やったー、もちろんOKだよ。」
よし、これで彼女と仲良くなれば他の女子とも仲が良くなるはずだ。こうやって地道にコミュ力を上げていくのだ。
「じゃあ放課後、校門の前で待っていてくれ」
「わかった」
「遅いよー」
そこには加藤がいた。
「悪い、先生に捕まってたんだ」
「そっか、じゃあ行こうか」
俺たちは駅前のマックに入った。俺は加藤と自分の二人分のフライドポテトを注文する。これも高校でデートをするときの準備みたいなものだ。
「それで、話したいことって何?」
「実は、俺には気になる子がいるんだ」
「えっ、それってもしかして、私の事」
加藤は、わざとらしく可愛いポーズをとって見せる。こんなに小さいのに女子はもうこんなことができるんだな。少し面食らってしまう。
「あーはいはい可愛い可愛い」
「棒読みー」
「違うよ、隣のクラスの佐藤っていう子なんだ」
佐藤は同じクラスの可愛い女の子で、髪はショートでバスケットボールクラブの活発な女の子だ。きっと将来美人になるだろう
「その子のことが好きになったの」
「そう、最近意識するようになって、デートしたいと思ってるんだ」
「ふーん、そうなんだ」
彼女は少し不機嫌そうな顔をした。
「なにか問題でもあるのか?」
「別に、ただ意外だなって思って」
「意外?」
「うん、翔くんなら、絶対、私を選ぶと思ったから」
「なに言ってるんだよ、お前は先輩が好きなんだろ。」
「んーまあね。で、私はどうしたらいいの?」
「佐藤が俺をどう思っているか聞いたことないか。実際のところチャンスがあるか」
「うーんどうだろ。」
「教えてくれないか?」
「そうだな、まずは、二人で遊ぶことだね」
「それは、もう約束した」
「いつ?」
「今日の昼休みに」
「早いね。」
「そこで、いい雰囲気を作っていきたいと思う」
「いい感じだね。あとは告白かな」
「そうだな」
「頑張ってね」
「おう、ありがと」
「ちなみに、もし付き合えたら私たちの関係はどうなるの?」
加藤はふざけた感じで言う。やれやれ。
「付き合っても今まで通りの関係でいていいよ」
「ほんと?嬉しい」
加藤は笑顔を見せた。
「ああ、本当だ」
加藤は嬉しそうにしていた。こうして、俺は佐藤との距離を縮めていくことにした。
親ガチャを引いてから、女の子の反応が露骨に良い。やっぱり見た目も大事なんだな、それに可愛い子と話している中で自分に自信もついてくる気がしている。
昔の俺は女の子と話す時はどもってしまっていたし、同じようなモテない男と一緒にいたから今の女の子たちの反応は新鮮なのだ。
次の週のキックボクシングジムでの出来事である。そこにはサンドバッグをたたく原田の姿もあった。あいつはあいつで成長してるんだな。
「こんにちは」
「あら、今日も来たの」
「はい、今日もよろしくお願いします」
「今日は、ミット打ちをしてみようか」
「はい」
「パンチを打つときは顎を引いて腰を落とさないと打てないからね」
俺は言われた通りにしてみた。
「せいっ」
「はい、オッケー」
俺は言われて蹴ってみる。
「せいっ」「はい、良い音なった」「じゃあ、最後に組み手やろうか」
「はい」
「まずは私が胸を貸してあげるからかかってきなさい」
「いきますよ」
俺は思いっきりタックルを仕掛けた。
「ぐっ」
「ごめんなさい」
「大丈夫よ、次、いこうか」
「はい」
その後何度もタックルしたがなかなかうまくいかない。
「ちょっと休憩しようか」
「はい」
「コーチはキックボクシング以外もできるんですか?」
「そうだね、柔術とキックボクシングはできるよ。」
それは初耳だ。実際けんかになったら投げや関節も最低限はできなければいけない。先生に教わることはできないだろうか。
「あの、僕に柔術を教えてもらえませんか」
「えっ、君が?」
「ダメですか」
「まあ、いいけど。でも、結構難しいよ」
「頑張ります」
「わかった、教えるよ。まあ、私は打撃中心だから基本だけになるけど」
「ありがとうございます」
「その代わり週一で来れる日だけでいいから来てよ」
「わかりました」
「ちょっと体験してみる?」
コーチは俺を太股で挟み。下になる。
「これがガードポジションね。なんか攻撃してみて。」
体を動かそうにも何もできない俺は手を振り回してもがく
「そしてこれが。」
先生は俺の腕を取ると同時に太股で俺の首を挟んで締め上げる、あっという間に太股が蛇のように俺の首を締め上げ、今までに体験したことのない苦しさだ。
「これが三角締め。苦しいでしょ?」
「はい、」
あまりの苦しさに声を出すこともままならない。コーチはすぐに力を抜いて解放してくれた。
「どうやってみたい?」
はい、是非やってみたいです。俺はコーチにキックボクシングと柔術を習うと決めた。
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