第6話 まずは種族を選ぶ

「思った以上に長い――というか、細かすぎる……」


 半ば唖然としてぼやくと、ルーミュは面白そうに笑った。


「大丈夫大丈夫。習うより慣れろ、で読まなくてもなんとかなるって!」


「じゃ、なんで読ませようと思ったんです? えー……神さま? ルーミュさま?」


 なんと呼びかけていいかわからず、彼はそう言った。


「呼び方は好きにしていいよ。神さまでもルーミュ様でも呼び捨てでも――なんなら『ルーミュちゃん』とか『ルーお姉ちゃん』でもいいよ? そういうふうに呼ぶ人も多いし」


「遠慮しときましょう」


「そうかい? 見た目からすれば『ちゃん付け』でも違和感はないと思うけどね。ほら、爆乳の小学生みたいな」


 ルーミュは、自身の大きな胸を両腕で持ち上げるように強調してみせた。


「あと、別に普段どおりの口調でしゃべってくれていいんだよ? 敬語を使わないと殺すとか痛めつけるとか、そんな物騒なこと言わないし」


「臆病なんですよ」


 彼は言った。


「明らかにこちらの生殺与奪権を握っている存在に対して、不遜な態度は恐ろしくて取れません」


「残念」


 と、まったく残念がっていない顔つきでルーミュは言った。


「じゃ、質問に戻ろうか。なぜ読ませたかというと、ルシラドグー大陸――あ、これから行く異世界のことね――のマニュアルみたいなもんだから、渡しといたほうがいいかなと思ってね」


 ルーミュは本を指さした。


「確かに全部読むのは大変かもしれないけど、でもよくわかんないことがあったら、それを開いてみると答えが見つかるよ」


として使えということですか? それで、具体的に何をすれば……? HPとかMPとか色々と書いてありますが」


 ルーミュは悪戯っぽく笑った。


「とりあえず種族とクラス選んで。ゲームを円滑に進めるために、転生者には全員CL1とルシラドグー大陸の言語をプレゼントするから」


「円滑に?」


「だって殺し合いをしてくれって言ってるのに、言葉が通じなくて戦うどころじゃありません、ってなったら意味ないでしょ? CL――クラスレベルについても、向こうで戦うなら必須だよ。さすがに五年くらい、ちまちまとクラス経験値ためて修行してくれ、ってのもタルいじゃん?」


 ルーミュは苦笑した。


「というわけで、CL1をプレゼント! あ、レベル上げは自分でやってね? 強くなったら竜とかと戦えるようになるし、結構面白いと思うよ? 特殊技能と違って、努力の分だけ強くなれるし」


 ルーミュは自慢げに胸を張った。


「種族とクラス――」


 彼はぱらぱらと本をめくって、該当するページを探し出した。


「選べるのは六種族。アスケンブラ、ディシール、リーフリーフ、イズーナーシル、フュルギエ、フィムブル」


 ルーミュは指を六本立ててみせた。


「これら六つの種族を総称して『人間』と呼ぶ――ま、ホモ・サピエンスじゃないけれど、地球の生き物だってルシラドグー大陸基準じゃ全部『小動物』に分類されるわけだからね。文化の違いというやつさ」


 ルーミュは歌うように軽やかに語った。


「細かいところは自分でチェックしてもらいたいんだけど、とりあえず大雑把に説明するなら、アスケンブラはバランスのいい能力を持つ。一番地球人っぽい見た目だね。ディシールは私と同じ姿だよ」


 彼女はくるりと回ってステップを踏んでみせた。


「童顔小柄で子供みたいに見える――でも体つきは大人だね。で、頭と背中に羽がある。天使っぽい外見。能力値は魔力と精神が高い」


 彼女は人差し指を立てた。


「リーフリーフはアスケンブラの子供をイメージすれば間違ってないよ。ディシールと同じで、体つきとかは大人なんだけど、童顔で背も低いから遠目だと見間違えることもある。筋力と耐久の高さが特徴だ」


 そう言ってから、彼女は背中の羽を親指で示してみせた。


「イズーナーシルは妖精っぽい見た目だね。背中に虫を思わせる羽があって小柄。敏捷と精神が高いのが特徴」


 それから彼女は頭に手をやって、動物の耳のように動かした。


「フュルギエは猫とか犬とかウサギとかの、いわゆる獣耳を持つ種族。もちろん、しっぽもあるよ。個体によっては角もね。敏捷が高くて筋力器用も高めだね」


 それから彼女はくるりと後ろを向いて、背中を見せた。


「で、フィムブルは背中にコウモリみたいな羽がある。個体によってはしっぽや角も。悪魔っぽい外見だね。能力値はアスケンブラと同じバランス型。あっと、そうだ!」


 ルーミュは正面を向くと、ふたたび人差し指を立てた。


「ディシール、イズーナーシル、フィムブルは自分の背丈と同じくらいの高さまで浮いて、移動することができるよ。鳥みたいに高く飛ぶのは無理だけどね」


「低空飛行だけなんですか? なぜ?」


「いや、ほかの三種族は飛べないのに不平等かなーと思って。同じ『人間』なのに。ただ、だからってまったく飛べなくすると、背中の羽が泣くかなと思って」


 ルーミュは自分の背中の羽をぱたぱたと動かしてみせた。

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