強制
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十字路に飛びだしたライラ。
妙に開き直ったその顔を、ブラムは眺めていた。
ライラの肩に乗っているペノも、妙な顔をしていた。
じっとブラムを見て、なにかを待っているようだった。
なんだと思った瞬間。
ライラを襲うように、十字路の左右から馬車が飛びだしてきた。
その馬車は止まる気配なく、ライラを轢く勢いであった。
「ライラ!!」
ブラムは咄嗟に叫んだ。
叫びながら、駆けた。
ライラの力でも、馬車は避けられないだろう。
不老で、金貨は出せても、ライラは普通の身体の、女の子だ。
真面にぶつかれば、無事ではいられない。
助けに行っても間に合わないと分かっていたが、ブラムは駆けた。
全身の血を、魔力を巡らせ、駆けた。
その間も。
不思議なことに、ペノの目がブラムに向けられていた。
驚くほど平常で、なにかを待つように。
(……やるしかねえか)
ブラムはぐっと奥歯を噛み締めた。
刹那の間に、周囲の状況を確認する。
ライラの前にいる馬車の御者以外、誰ひとりライラとブラムに視線を向けていなかった。
これ幸いと、ブラムは咄嗟に大風を巻き起こす魔法を放った。
十字路に、突風が駆け抜ける。
その風により、馬が嘶き、荒れた。
馬車の御者は突然の出来事に慌て、目の前のライラから目を離した。
御者の視界にライラが映らなくなったのを見て、ブラムは自らの身体に魔法をかけた。
限界を超えるほど身体能力を増す魔法。
後で酷い反動が来るが、迷っている場合ではない。
ブラムは魔法をかけた身体で、突風吹き荒ぶ只中を、人の目には止まらないほどの速さで駆けた。
(間に合うか……?)
目前のライラ。
荷車を曳く馬の頭も、ブラムの目端に映っている。
ブラムは再び風の魔法を発して、ライラの身体を包んだ。
そうしてライラを包む風を、両手で手で掴む。
直後、ブラムはその場で跳ね飛んだ。
迫る馬車を飛び越え、安全な道に着地する。
着地しながら、ブラムは瞬時に周囲の状況を窺った。
誰も自らの姿を見ていないか。
魔法を使ったところを見られていたら、もはやこの街には留まれない。
恐れを抱きつつ念入りに確認し、ブラムはほっと息を吐いた。
わずかの間を置いて。
十字路で馬の嘶きが再び鳴りひびいた。
未だ止まない風に、御者と、幾人かの人々が目を伏せ、驚きの声をあげつづける。
ブラムはその騒ぎを背に受けて、早々に十字路から離れるのだった。
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