都合の良い理由


プロポーズを断った後も、マーウライとの交流はつづいた。

居心地が悪くなるかと思っていたが、そんなことはなかった。

マーウライが丁寧に気配りをしてくれるからだ。

おかげでライラは特に気を遣わず、マーウライと話しをすることが出来た。


しかし、マーウライがライラを諦めることはなかった。

適切な間を置いて、定期的にプロポーズをしてくるようになった。

そのたびにライラは心の底に熱を感じたが、丁寧に断りつづけた。



「情熱がすごいよねえ」



ティータイムの最中。

ペノが呆れ顔で言った。

ライラは困り顔を見せ、小さく頷く。



「三百歳のお婆ちゃん相手に、可哀そうですよねー」


「はっはー! まあだ怒ってるの?」


「……怒ってないです」



ライラは唇を尖らせて顔を背けた。

苛立ちはあるが、怒ってはいない。

ブラムの顔を思い出すと、なぜか苛立ちが増すが。



「まあ、でも。まんざらじゃないって感じだよね、ライラは」



顔を背けたライラを揶揄うように、ペノが言った。



「……まあ、人に好かれて嫌な気分にはなりませんよ」


「マーウライ以外の、普通の男がこれだけ熱烈にプロポーズしてきたら?」


「え、えええ……、う、うーん……嫌かもしれない」


「だよねえ。マーウライには、人ったらしの才能があるよ!」


「それって、褒めてます?」


「褒めてるよ! 今後の彼には、大事な才能だからね!」


「まあ、商人ですからね」


「……いや、そういうことじゃないんだけど……まあ、いっか!」



ペノが両耳を折って項垂れる。

ライラは首を傾げて、ペノの耳を指で弾いた。

しかしペノはそれ以上明かすことはせず、ひたすらへらへらと笑いつづけた。


そうしてしばらくティータイムを楽しんでいると、突然。扉の向こう側でアテンの声がひびいた。

ライラは驚き、扉の方に目を向ける。

しばらくの間を置いて、アテンが部屋に入ってきた。

アテンの後ろから、グナイも入ってきた。

ふたりして、少し顔色が悪い。



「どうかしました?」



ライラは立ち上がり、アテンの傍へ寄った。

するとアテンが顔を強張らせた。



「……申し訳ありません、ライラ様」


「なにか良くないことがあったの? ……もしかして、怪我とか、病気とか……?」


「……いえ、怪我も病気もありませんが……」


「そう、それなら良かった……! それじゃあ、他のなにか?」


「……ど、ど……」


「どど?」


「……ど、泥棒が……邸宅に入ったんです……!」


「ど、泥棒!?」



ライラは驚き、弾けるようにして部屋を飛び出した。

後を追ってきたアテンが、泥棒が入ったであろう部屋にライラを案内した。


泥棒が入ったらしい部屋は、邸宅の中で最も厳重に管理している部屋であった。

そこには、ライラの力を使っていない、普通のお金が保管されていた。

しかし今は無い。銅貨一枚も残ってはいなかった。



「あー……」


「あーあ」



空っぽの木箱を見て、ライラとペノが同時に声をこぼした。

先ほどまでの動揺は、早々に諦めと入れ替わって消えた。



「……まあ、こういうこともありますよね」



ライラは笑顔を見せて、空っぽの木箱をポンと叩いた。

その様子に、アテンが呆然とする。



「そ、そんな軽く……、良いのですか……?」


「そうですね。まあ、実は今まで、何度かこういうことがあったんです。だから気にしないで大丈夫ですよ」


「でも、……ライラ様」


「いいのよ、アテン。……うん、むしろ良い機会かも」


「……え、良い機会、ですか?」


「そう。良い機会、です」



首を傾げるアテンに、ライラはニカリと笑う。

ペノも愉快そうにして、ライラに同意した。

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