恋をする資格


「いつかはこうなると思ってたけどねえ」



ペノが愉快そうに言った。

プロポーズしてきたマーウライの顔を思い出し、ライラは項垂れる。


まさかまた、こんな日が来るとは。

ライラはこれまでプロポーズしてきた男たちのことも思い出した。

それらの男たちは皆、明らかにライラを異性として見ていた。

少女体型とはいえ、ライラの容姿は非常に良いからだ。


しかしマーウライはどこか違う。

ライラを一人の人間として見ているような、澄んだ目をしていた。

だからこそ、急に親しくなったマーウライのことをライラは信用していた。



「でも、もう断りましたし」



ライラは暗い顔をペノに向けて言う。


当然のことだ。

ライラは不老で、すでに三百歳を超えている。

今は同年代に見えるが、すぐにマーウライだけが老けていくだろう。

もはやライラに、恋愛をする資格などないのだ。



「でも諦めないと思うなあ」


「……どうしてです?」


「当然でしょ。最初からライラに好意を持って近付いてきたんだから」


「……それはさすがにないと思いますが」


「いや、間違いなくそうだよね」



ペノが笑いながら断言する。

どんな根拠を持って断言するのかと、ライラは首を傾げた。

しかしペノがその根拠を明かすことはなかった。

明かせば面白くないと言わんばかり。相変わらずの性悪である。



「とにかく断りますよ」



ライラは首を横に振った。

そうして、ブラムに目を向ける。

ライラの視線に気付いたブラムが、「好きにしろ」と手を振った。



「くっ付きてえなら、くっ付けばいい」


「私、マーウライよりも年上なんですよ?」


「年上とかいう次元じゃねえだろうが。三百歳の婆さんがよ」


「はいはい。どうせお婆ちゃんですよーだ。……とにかく年上で、いずれこの街を離れるんです」


「離れるまで、遊んでやりゃあいいじゃねえか」



ブラムが面倒臭そうに言った。

その顔に、いや、態度に、ライラは内心苛立った。

「遊んでやればいい」という言葉にも腹が立ったが、それだけではない。

どうでもいいといった態度が、ライラの胸の奥を搔き乱した。


ライラは苛立ちを吐きだそうとして、ブラムを睨んだ。

しかしすぐに、ぐっと気持ちを押し込めた。

面倒事を引き寄せてしまったのは、他でもないライラ自身なのだ。

怒りをぶつけられる立場にはない。



「……遊んだりなんて、しませんよ」


「そうかよ。じゃあ、とっとときっちり決めてやるこったな」


「そうします」


「面倒になれば、すぐに街を出ればいい。いつも通りだろ」


「そうですね」



ライラは頷き、席を立つ。

ペノがすぐさまライラの肩に飛び乗ったが、ライラはペノを掴んでブラムに向けて放り投げた。


ライラが部屋を出て、寝室に足を運んでいく。

その足音を聞き、残されたペノとブラムが目を合わせた。



「……ブラムが婆さんなんて言うから、怒っちゃったんじゃないの?」


「俺のせいかよ」


「まあったく、女の子の扱いが下手なんだからあ」


「お前が言うんじゃねえ」



ペノの長い耳を大きな手で掴み、ブラムが顔をしかめる。

「確かにそう!」とペノが笑った。

少しの間を置いて、ライラの寝室の扉が力強く閉まる音が聞こえた。

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