口実


七日に一度、マーウライと食事をするようになっていた。

とはいえ、二人きりというわけではない。

傍には必ず、ブラムが従者として控えていた。

いつもは邸宅でゴロゴロしているペノも、その日だけはライラの肩に乗っていた。



「今日も美味しい料理だったねえ」



マーウライと別れてすぐ、満足そうにペノが言った。

マーウライは、必ずペノとブラムの分も料理を注文してくれるのだ。

ウサギには要らないです、とライラは断っていたが、今日まで押し切られている。



「どうしてウサギにもご飯をくれるのでしょうね」


「ボクが可愛いからに決まってるでしょ?」


「嫌だなあ。自分のことを可愛いって言っちゃうウサギなんて」


「そんなことないでしょ。ねえ? ブラム?」


「俺も嫌だぞ、陰険ウサギ」


「ひどいなあ」



ペノが笑いながら両耳を震わせる。

ライラはブラムと顔を見合わせ、苦笑いした。


邸宅に戻ると、雇っている店長が応接間で待っていた。

店の売り上げなどの報告と、行商人から得た情報などをまとめてくれていた。

一通り目を通してから、ライラは店長に情報料を支払った。



「やはり、魔獣の噂が多いですね」



ライラは目を細める。

雇われ店長が頷き、いくつかのメモもライラに手渡した。


魔獣の噂は、主にパーウラマ地方と、北方のバラス地方からのものであった。

ほとんどの噂は、魔族が魔獣を生みだしたとされているものであった。

封印が解けて暴れているとされるものもあるが、真偽は分からない。



「実際の被害も、よく分かってないものばかりでして」


「そうみたいですね。気になって調べてもらったのですけど、やっぱり噂の域を出ませんね」


「ですが、その噂がなぜか無くならない。あやふやなまま、ずっと流れつづけているようで」



雇われ店長が首を傾げる。

ライラも首を傾げ、しばらく考えた。

そのうちにブラムが、「考えるだけ無駄」と口を挟んだ。

たしかにそうかもしれないと、ライラは唸る。


雇われ店長が帰ったあと。

ライラはベッドに横たわりながら、受け取ったメモを眺めた。

無駄と分かっていても、なぜか気になり、考えてしまうからだ。



「……気になるんだねえ?」



いつの間にか頭の隣にいたペノが、ライラの手にあるメモを覗いた。



「気にしても仕方ないと、思っているのですが」


「……まあ、今後の旅の安全にも係わるからね」


「それも、そうですね。せっかく生き返ったのに、死にたくはありませんから」


「三百年も生きたのに?」


「それはそれ、です」



ライラはペノの耳を指で弾く。

痛がりながら転がるペノ。ライラは片眉を上げて小さく笑った。



「そういえば、マーウライも魔獣の話をしていました」


「イタタタ……、う、ん? ああ、うん、そんな話をしていたことも、あったかも? ……でも、あまり詳しそうになかったよ?」


「聞くだけ聞いてみましょう、明日にでも」


「……そうやって、会う口実にするわけだねえ」


「……そ、そういう関係ではないですよ」


「どうだかねえ。まあ、ボクは面白いからいいけど!」


「ほ、本当にそういうのじゃないですから」



ライラは強く否定する。

嘘偽りはない。

マーウライは親しい友人というだけだ。

たしかに異性として感じる面はある。

しかし、妙な想いを抱いたことはないつもりであった。

マーウライも、同じ想いだろう。たぶん。


そう思っていたのだが、ライラの考えは外れた。

その日より、三日後。

ライラは突然、マーウライからプロポーズされたのだった。

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