夜空を貫く光のうちに見える

陽が暮れる直前。

ようやく祭りが始まった。

広場には多くの村人と、よそから来た客たちが押し寄せてきていた。

用意された客席には、身形の良い貴人ばかりが座っているようであった。

それら貴人よりも高い席で、村長とライラたちは祭りのはじまりの鉦を鳴らした。


歌が流れ、踊りの波が広場から湧きあがっていく。

時折ひびく、鼓の音。

待っていたとばかりに、村人が鼓の音に合わせて声をあげた。



「華やかなもんじゃねえか」



歌い手と共に灯りを揺らす女性たちを見て、ブラムが声をこぼした。

確かに綺麗だなと、ライラも揺れる灯りを目で追う。



「お金をかけた甲斐がありましたよね?」


「俺に聞くんじゃねえ」


「じゃあ、ペノは?」


「そんなことよりボクは美味しいご飯をもっと持ってきてほしいな!」


「はいはい」



ライラは配膳している村人に声をかける。

快く応じてくれた村人が、さほど間を開けず次の料理を持ってきてくれた。

ペノがそれらの料理を一口ずつ食べていく。

自称美食家のペノは、祭りよりも料理が気になるらしい。


ライラは舌鼓を打つペノを目端に映し、再び広場へ目を向けた。

踊り手たちと共に、観客たちも踊りはじめている。

老いも若きも、男も女も、小さな子供まで。

黄色い声をあげ、笑いあっていた。


その様子に、ライラはふと懐かしさを覚えた。

こんな光景を、以前も見たような気がしたのだ。



「……メノス村でも、こういうお祭りがありましたよね」



ライラはブラムに尋ねる。

するとブラムがしばらく考え込み、唇を捻らせた。



「さあな。メノスは小さい村だったじゃねえか。こんなに賑やかなことはなかったんじゃねえか」


「そう、だっけ?」


「三百年も前のことだ。覚えちゃいねえよ」


「……そっか。そう、ですよね」


「違う祭りと勘違いしてんじゃねえか? なんせ馬鹿ライラだからよ」


「そうかな……そうかも……。って、馬鹿って言わないで」



ライラはブラムの肩を思いきり叩く。

直後。広場で数度、鼓の音が大きくなった。

見ると、いつの間にか広場の中央にクアンロウの頭骨が飾られていた。

クアンロウの頭骨はかすかに輝いていて、人々の視線を釘づけにしていた。



「……あまり、光ってないですね?」


「そうみたいだな。名物になりそうもねえが」



ライラとブラムが首を傾げる。

ふたりの仕草に気付いた村長が、小さく笑った。



「はは。もちろん、これからです」


「これから?」


「さあ、ご覧ください」



そう言った村長が立ち上がり、右手をあげる。

村長の手に合わせ、クアンロウの頭骨の傍にいたひとりが、小さな木槌を振り上げた。


木槌が、勢いよくクアンロウの頭骨に振り下ろされる。

まさか壊すのか。ライラは思わず「あ!」と、声をあげた。

しかしそれは杞憂であった。

木槌の一撃を受けたクアンロウの頭骨は、当然のようにヒビひとつなかった。

それどころか、かすかな光を湛えていたクアンロウの頭骨が、強い光を放ちはじめた。



「すごい……! 光が、昇っていく!」



ライラは光を指差して叫ぶ。


クアンロウの頭骨から溢れ出た光は、真っ直ぐに夜空を貫いた。

その光を見て、観客たちが歓声を上げた。

あまりの神々しさ。魔物の頭骨から生まれでたとは思えない。



「……これが、魔物たちを寄せ付けない、光」


「そうだ、お嬢さん。この光を見た魔物たちは、しばらくの間この一帯から逃げ出していく。俺たちは恐ろしい魔物の光に守られて生きていくんだ」


「それは、少し面白い話ですね」


「はっは。だろう?」



村長が愉快そうに笑う。

ライラは村長の笑い声と、多くの人々の歓声を耳に受け、夜空を貫く光を眺めつづけるのだった。

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