余韻
翌朝。
ライラは見知らぬ馬車の中で目を覚ました。
御者台にはブラムがいて、静かに寝息を立てていた。
「私、宿の部屋で寝てなかった……?」
「そうだよ?」
ライラと同時に目を覚ましたペノが、欠伸をしながら答えた。
「いつも以上にライラの寝言が煩いから、迷惑にならないようにブラムがここへ連れてきたんだ」
「……そんなに煩かった?」
「最高に煩かったけど、ここで寝かせたらすぐ静かになったよ。もう少し早く静かになっていればふかふかのベッドで寝つづけられたのにね?」
「……それは残念です」
ライラはがくりと項垂れ、馬車を降りる。
馬車の揺れを感じて、ブラムも目を覚ました。
のそりと顔を上げ、ライラと目が合う。
ライラは昨夜の礼を伝えると、ブラムが顔をしかめて追い返すような仕草をした。
「まだお祭りはつづいているのですね」
ライラは村の広場がある方へ目を向けた。
朝早くから賑やかな音がひびいてきている。
「毎年、三日は騒ぐらしいな」
「そんなに」
「羽振りの良い奴がいたらしいからよ。今年は三日じゃ済まねえかもしれねえって聞いたぜ」
「そんな人がいたんだ」
「お前だろ、馬鹿ライラ」
ブラムがライラの額を指で弾く。
思いのほか重い一撃に、ライラは額を両手で撫でた。
朝食を済ませたあと、ライラたちは賑やかさを残している広場へ向かった。
一夜目の活気ほどはないが、皆楽しそうに笑っている。
嵐の被害によって沈んだ空気が、まるでなかったかのように。
「お前の馬鹿みたいな力は、こういうところで使わなきゃあな」
「……そうですね。馬鹿は余計ですけどね」
「まあ、今回はアホみたいに集めていた魔法道具が役に立ったわけだし、いつもの散財も多めに見てやらねえとな」
「そうでしょう? アホは余計ですけどね」
ライラはブラムの腕を抓る。
ブラムが悲鳴をあげ、ライラから半歩退いた。
広場を歩き回っていると、突然後ろから声をかけられた。
ライラとブラムの姿を見つけた村人たちが、二日目の祭りの礼を伝えに来たらしい。
ライラは丁寧に返礼していく。
そうしているうち、後からやってきた村人のひとりが両手に酒を抱えてにかりと笑った。
「あ、でも、私、お酒はあまり」
「まあま、そう言わず!」
「え、あ、その、本当に」
「さあさ、こちらへ! やあ、皆の衆。村を救ってくれたお嬢様とお連れ様に乾杯といこうじゃあないか!」
「おおう!!」
群がる村人たちがライラを担ぎ上げる。
ライラはブラムに助けを求めたが、早々に断られた。
むしろ、行けと言わんばかり。憎たらしい笑顔だ。あとで引っ叩こう。
露店の前まで連行されたライラの前に、夥しい数の酒樽が並べられた。
ライラと酒樽を囲んだ、村人たちの期待に満ちた目。
「……治療の魔法道具って、二日酔いにも効くのかな」
ぼそりと声をこぼす。
ライラの肩に乗ってきたペノが、無言で長い両耳をライラの頬に当てた。
ライラはついに観念し、酒樽の中から酒を汲みあげるのだった。
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