一味違う、一口と


祭りの前日から、村には多くの人が詰め寄せてきた。

あまりに大人数であるため、村の宿には収まりきらないほどだ。

そのため、村の外で天幕を張る人もいた。

祭りの当日になると、天幕の数は三倍ほどに増えていて、村をすっかり取り囲んでいた。



「いつものことですよ」



村を取り囲む天幕に驚くライラに、村人が笑って言った。



「そんなにクアンロウの頭骨が珍しいのですか?」


「さあ、どうでしょう。騒ぎたくて集まっている人もいるでしょうから」


「そういうものですか」


「そういうものです。ですが安心してください。お嬢様とお連れ様のために、最高の席を用意していますから」



そう言った村人が、村の広場を指差した。

広場には、祭りの中心となる舞台と、いくつかの客席が造られていた。

客席は上段、中段、下段と分かれていた。

上段の客席は、村長が座る場所らしい。

その隣に、ライラたちの席も用意されていると村人が教えてくれた。


思ってもいなかった待遇に、ライラは内心戸惑った。

祭りの最中は、のんびりと観てまわろうと思っていたからだ。

しかし今更断れはしないだろう。

ライラは戸惑いを表情に出さず、村人に礼を伝えた。



「せっかくなんだから、どっしりと構えてお祭りを見ればいいじゃない?」



ペノが不思議そうな顔で言った。

ライラは目を細めて、小さく息を吐く。



「あんなところに座ったら、なんだか落ち着かないじゃないですか」


「大金を払ったんだから、偉そうにしてればいいじゃない?」


「『なんだあの小娘は』みたいに陰口叩かれそうじゃないですか」


「……いやいや、されないでしょ」


「そういう可能性はゼロではないので、落ち着かないんです」


「……小物だねえ」



ペノが呆れ顔で言った。

傍で聞いていたブラムも、呆れ顔をライラに向けてきた。

ライラは「なんとでも言ってください」と顔を背け、村の広場へ向かった。


広場には村長がいて、あれこれと指示を出していた。

すでに夕暮れ。もうじき祭りが始まる時刻なのに、誰も彼も忙しく駆け回っている。



「お嬢さんは席でゆっくりしていてくれよ」



ライラを見つけた村長が、客席を指差して言った。

客席にはまだ、誰も座っていない。

居心地が悪いなと躊躇うライラに、村長が半歩近寄ってきた。



「ご馳走も準備しているから、暇にはならんぞ」


「ご馳走……。それなら、ゆっくりさせてもらいます」


「はは。少しでも早く持って行かせよう」


「ありがとうございます」



ライラは丁寧に礼をして、まっすぐに客席へ上がっていった。

席に着くとすぐ、村人が食事の用意をしてくれた。

それらは、がつりと立派な料理ではなく、片手間に食べれるような軽食ばかりであった。

飲み物やお菓子、様々な果実も並んでいる。



「これは……アリかも」


「……お前は良い飯が目の前に並んだら、簡単に喜ぶな」



ブラムが呆れ顔で言い、ライラの前に並べられた果物をひとつ取った。

ライラはブラムから果物を奪え返し、ふんと鼻を鳴らす。



「そんなこと言う人にはあげませんよ」


「今回は俺も頑張ったんだぜ。半分は俺に寄越せ」


「私だって餌役を頑張ったんですよ」


「ガリガリの骨張った婆さんを背負って走った俺の方が頑張っただろうが」


「ああ、また婆さんって言いましたね! 本当に悪い口!」



ライラは声をあげて、手に持っていた果物をブラムの口に勢いよく押し込んだ。

果物で口を塞がれたブラムが、一瞬息苦しそうに呻く。

しかしすぐに果物を皮ごと噛み潰し、飲み込んだ。

その姿を見て、ライラは小さく笑った。

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