クアンロウの頭骨


「魔物の頭骨が素材なのだ」



村長が顔をしかめて言った。

その言葉を聞いて、ライラは息を飲む。



「魔物の??」


「そうだ。しかもただの魔物じゃあない。クアンロウという上級の魔物だ」


「……クアンロウ」


「聞いたことがないって顔だな。たしかに有名な魔物じゃあない。この辺りにだけいる特殊な魔物だからな」


「数が少ないのですか?」


「少ない。そして強い」



目を細めた村長が、長くため息を吐いた。

しばらくして、村長のもとに壊れた祭具が届けられた。


祭具は杖のような形をしていて、人間の身体の倍以上の長さがあった。

取り付けられていたクアンロウの頭骨は、人間の頭の三倍以上の大きさであった。

ずいぶんと細長い頭であるらしく、顎の先に背骨のようなものが付いていた。

壊れているのは頭骨の額で、拳ほどの大きさの穴が開いていた



「魔法の効果があるとのことですけど、魔法道具なのですか?」


「いや、魔法のような効果が頭骨に残っているだけだ」


「というと」


「クアンロウは、月の光を蓄えることができる。蓄えた光が魔力と合わさり、強力な力を発揮するらしい。それゆえ、クアンロウは他の魔物から恐れられているのだ」


「死んで頭骨になっても、その力が残っているのですか?」


「さあな、それは分からない。だが頭骨だけとなっても、月の光を蓄えることだけはできる。その光を掲げると、村の周辺にいる魔物は逃げ去っていくってわけだ」


「それをお祭りに取り込んでいたというわけですね」


「そういうことだ。実用的だし、その珍しい光を観たくて遠くからわざわざ訪れる客もいる」



村長が顔を上げ、一瞬誇らしげに胸を張った。

しかし壊れた祭具に視線を戻すとすぐ、ため息を吐きだした。

祭具がもたらした恵みを思い出し、かえって打ちのめされたらしい。

さすがにライラも居心地が悪くなり、席を外した。



「お祭りは難しそうだね!」



ペノがお気楽な声をあげた。

ライラはわずかに苛立ち、ペノの鼻を指で弾く。



「お金で解決できないなら、私にはどうにもならないです」


「それしか能がないもんね!」


「そう言われるとイラっとしますけど、その通りです」


「だけどライラ。まだお金で解決できることがあるよ?」


「……なにをです?」


「君には便利屋ロジーがいるじゃない?」



ペノがライラの首飾りを指差して言った。

首飾りに填められた宝石がきらりと光る。


そういえばと、ライラは急いで人気のない場所へ駆けていった。

途中、ライラの姿を見つけたらしいブラムが、ライラの後を追ってきた。

ライラはブラムと一緒に人気のない場所を探し、結局、自分たちの馬車の中へ入ることにした。



「はーい! 便利屋ロジー様のお成りだよ!」



首飾りの宝石を撫でた瞬間。

待っていたと言わんばかりに大精霊のロジーが姿を現した。

ロジーの身体は常に光り輝いているため、馬車の中は昼のように明るくなった。



「ごめんなさい、ロジー。便利屋なんて言い方をしたのはペノだから。あとで叱っておくから」


「ありがとう、ご主人様! 実はちょっぴり傷付いてた。俺ってば、けっこう繊細なんだぜ? ウサギ様にはもう少し下々の気持ちを分かってもらわなきゃあいけない。労働者に愛の手を! そして賃上げを要求する!」


「はいはい。賃上げは考えておきます」


「やったね! 言ってみるもんだ!」



ロジーが跳ね上がって喜ぶ。

しかし狭い馬車の中。すぐに頭を天井にぶつけ、悶絶した。

その様子を見てライラはしばらく呆れ顔になったが、気を取り直してロジーの手を取った。



「ロジー、やってみてほしいことがあるの」


「なんだい、ご主人様? って、実は大体分かってるけどね!」


「そう。それなら話が早いです。ロジー。クアンロウを捜すことは出来ますか?」


「珍しい魔物だと村長が言っていたな! だけど、この辺りの精霊に聞いてみれば、一匹ぐらい見つかるかもしれない」


「本当??」


「かもしれないってだけだぞ、ご主人様。とにかく、明日やってみよう。良い情報が手に入ったら賃上げのご検討をお願いしますってことで!」



ロジーがにかりと笑う。

ライラは苦笑いして、ロジーの提案を受け入れた。

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