大魔獣の伝説の端


翌日。

ライラたちは村長に断って、一時的に村を出た。

村の中では、ロジーが動き回れないからだ。



「とりあえずクアンロウの居所を、精霊たちに聞いてみよう。だけど先に言っておきたい! 上手くいかなくっても折檻は無しで頼む。最近、痔気味なんだ。いいね?」


「いいですよ。ロジーが捜すより良い方法なんて、きっとどこにもないですから」


「嬉しいこと言ってくれるね! いつもより二割増しで頑張っちゃうぞ!」



ロジーが跳ねるように喜び、空高く飛ぶ。

地上から見えなくなるほど飛んだロジーが、空を漂う精霊たちに声をかけはじめた。

ライラとブラムはしばらく、ブラムが駆け回っているであろう空を見上げていた。

しかしすぐに飽きた。

ロジーが戻ってくるまで、ライラたちは何もすることがないのだ。



「クアンロウが見つかったら……ロジーが倒してくれるでしょうか?」


「さあな。大精霊なんだから、倒せんじゃねえか?」


「でも上級の魔物だと言ってましたよ」


「魔獣なら無理かもしれねえがな。魔物なら上級でもなんとかなるだろ」


「魔獣と魔物って、そんなに違いがあるの?」


「全然違えよ。お前、『大災の魔獣』のことも知らねえんじゃねえか?」


「『大災の魔獣』?」



ライラは首を傾げた。

それを見て、ブラムが大きくため息を吐いた。

どうやらこの世界において、大災の魔獣は常識のひとつであるらしい。


大災の魔獣とは、かつてエルオーランドを滅ぼした大魔獣だという。

大風で大地を薙ぎ払い、大火で無数の命を焼き尽くす。

大災の魔獣が通りすぎた地には、人も魔族も、魔物でさえ住むことは出来ない。

そして、大災の魔獣の爪に敵う者はいないという。


なんともおとぎ話に出てきそうな存在だと、ライラは思った。

しかしブラムが首を横に振る。

大災の魔獣が存在した証拠は数多くあるらしい。

今では、大災の魔獣を信仰する宗教まであるという。



「最近現れているらしい魔獣は、その大災の魔獣じゃないですよね?」



ライラは怯えるように言った。

背中に、冷たいものが走ったような感覚を覚える。

しかしブラムが、ライラの不安を笑い飛ばした。



「っは! もしそうなら、今頃とんでもねえことになってらあ!」


「そ、そう、ですよね?」


「まあ、そういう心配はよ。するだけ無駄ってもんだ。起っちまったら、どうにもならねえことだからよ」



ブラムが笑いながら、どんとライラの背を叩いた。

その手の圧にライラは咳き込んだが、同時にほっとした。

たしかにブラムの言う通りである。

起きるかどうかも分からない大災害に怯えていては、生きていけない。



「とりあえず、目の前の問題から……ですね」


「そういうこった。とっととクアンロウを倒して、祭りを見ようじゃねえか」



ブラムが頷き、空を見上げる。

すると、空へ飛び上がっていたロジーが降りてきた。

ライラたちの姿を見つけるや、手を振ってくる。

ライラはロジーに手を振り返し、一歩前へ踏み出した。

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