探し物の魔法


それから二十日ほど。

コウランとブラムがシリンダーの予備を作りつづけた。

その間ライラは、アイゼで活動している作曲家を捜して回った。

オルゴールの完成度を高めるため、出来る限りのことをしようと考えたのだ。


以前に石琴の職人に尋ねたとき、作曲家はアイゼの中央にしか住んでいないと言っていた。

確かにそうらしく、名のある作曲家のほとんど中央に居を構えていた。

しかし居場所が分かったところで、話は前に進まなかった。

有名な作曲家は皆、話をすることすら叶わなかったのである。



「……契約をしている人以外と、仕事の関わりを持つなってことですか」


「まだ仕事のない、駆け出しの作曲家を捜すしかないねえ」


「それって、どうやって捜すの……」


「さあねえ。都合の良い魔法でもあればいいけど」



だらだらと進む馬車の中。

ペノが面倒臭そうに言って、ライラの胸元を指差した。

ライラは胸元の、宝石を填めた首飾りを見た。

なるほど、ロジーならお金でなんとかしてくれるかもしれない。



「ロジー。仕事があるのだけど」



首飾りの宝石を撫でる。

寝惚けた顔のロジーが現れた。

しかもライラの膝に頭を乗せて。



「……ロジー」


「ううーん? おおっと、こいつは失礼! あまりにも柔らかくて、雲の上にいるかと思ったよ! だからごめんよ、あと五分だけ寝かせておくれ。そう、あと五分。あと五分。あとご――」


「あ、今日は無給で働いてくれるわけですね?」


「うわあっと、嘘、嘘。冗談だって! 寛大なご主人様に甘えていただけなんだよ、ホント! ご主人様最高! エルオーランド第一位の女神様!」


「……はいはい、ところでお仕事頼めます?」


「もちろん、何なりと!」



ロジーが満面の笑みで応える。

ライラは苦笑いしたあと、アイゼに住む作曲家を捜していると伝えた。


ロジーはしばらく考え込んでいたが、やがてはっと顔を上げた。

ライラの左手に魔法を唱えて、光の輪を指にはめた。

光の輪は物体として存在しないようで、触れてみても何の感触もなかった。

ロジーは「探し物をするための魔法なんだ」と教えてくれた。



「この指輪をはめていると、作曲家が見つかる?」


「たぶんね!」


「たぶんって……」


「求めているものの波長と、求められているものの波長。それを敏感に感じ取るだけの魔法なんだ。もちろん大精霊ロジーの特別製だけどね! だからなんとなくアッチの方とか、コッチの方とか、気になると思うんだけど……って、聞いてる? ご主人様?」


「……御者さん! 馬車を止めて! 見つけたわ!」



ロジーの解説を遮り、ライラは馬車を止めさせる。

馬車が急停車するや、弾けるように馬車から飛びだした。

置いてけぼりを食らったロジーとペノが、互いに顔を見合わせる。



「……マジかよ。とんでもない強運だな、ご主人様は」


「……ホントにね。もしかすると三つ目の祝福に引っ掛かったからかな?」


「ううん? なにそれ? どういう意味――」


「とりあえず追いかけよう、大精霊くん!」


「おっと、承知!」



ロジーとペノも馬車を降りる。

駆け出していったライラは、すでにひとりの男の腕を掴んでいた。

男は齢五十はとうに過ぎていて、くたびれた顔をしていた。



「な、なっ、なんだい!? お、お、な、え、ええ?」


「ご、ごめんなさい、突然、急に」


「え、ええ、な、なんなんで? 俺、なんかやってっしまってえ??」


「え? あ、いえ、そうではなく」


「な、な、じゃ、あ、ああ! しゃ、借金取り!?」



男が慌てだす。

ライラは必死に否定して、少し話をさせてほしいと懇願した。

そうしてしばらく道端で不毛な問答をしているうち、男が徐々に落ち着きを取り戻していった。

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